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使い捨てカメラのフィルムの詰め替え後の再販売は、米国では合法、日本では違法

2010.09.24

伊藤 寛之

特許製品の一部にインクやフィルムなどの消耗品が含まれている場合、その消耗品を使用した後の製品を回収して、消耗品を詰め替えて再販売することが合法であるかどうかが問題になります。
消耗品の詰め替えが新たな特許製品の製造に該当すると認定すべきかどうかで判断が分かれますが、この判断は、国ごとによって変わり得ます。
面白い事件は、使い捨てカメラフィルム事件です。この事件では、使い捨てカメラフィルムの詰め替えが特許権侵害であるとして、同じ特許に基づいて日米の両方で訴訟が行われました。
日本では、使い捨てカメラ事件(東京地裁平成12年8月31日平成08(ワ)16782)において、裁判所は,「原告製品は,・・・現像所において撮影済みのフィルムが取り出された時点で,社会通念上,その効用を終えたものというべきである。したがって,本件においては,・・・,国内消尽及び国際消尽の成立を妨げる事情が存在するというべきであるから,原告が被告製品についてこれらの権利を行使することは許されるものである。」と判断して権利行使を認めました。
これに対して、米国では、Jazz Photo Corp. v. ITC事件において、CAFCは、「寿命の短い非特許部品を交換することは修理であって再生産ではない」と判断し、特許権の行使を認めませんでした。
Jazz Photo Corp. v. ITC, 264 f.3d 1094, 1107 (Fed. Cir. 2001) (“As discussed in Aro Manufacturing, the replacement of unpatented parts, having a shorter life than is available from the combination as a whole, is characteristic of repair, not reconstruction. On the totality of the circumstances, the changes made by the remanufacturers all relate to the replacement of the film, the LFFP otherwise remaining as originally sold”).
この問題となった特許権の特徴は、フィルムをケースから引き出した状態でカメラに装着し、撮影する度にフィルムを巻き取ることによって撮影終了後にフィルムがケースに収まるように構成することによって、撮影後のフィルムを取り出しやすくしたものです。従って、フィルムの装填方法そのものに特許の本旨が存在しているものですので、その詰め替えは、特許権侵害となっても当然と思われる事案だと思います。それにも関わらず、米国では、非侵害の結論を導きましたので、リサイクル業者側にかなり偏った判決であると言えると思います。
また、アメリカには、リサイクルインクを使用した場合に、プリンタメーカがプリンタの保証を無効にすることを禁止する法律があるくらい、リサイクルインクを推奨しているので、インクの詰め替えについて同様の裁判があった場合にも、リサイクル業者側が勝つ可能性はかなり高いと思います。
なお、インクの詰め替えについて、日本では、最高裁判決が出ており、以下のように判示し、当該事件においては、インクの詰め替え時に、インクが固着して使えなくなったスポンジを洗浄によって再度使える状態にしたことを理由に、特許製品が再度生産されたと認定して、特許権侵害を認めました。スポンジの洗浄が特許製品の再生産に該当するとの判断は知財高裁の判断と同じものですが、この判断によれば、タイヤの溝に詰まった泥をガソリンスタンドの店員が洗浄するとタイヤの再生産と判断されかねないので、このような判断には疑問があります。
個人的には、使い捨てカメラ事件とインクタンク事件では事案がかなり異なり、インクタンク事件では特許の内容を考えると非侵害とすべきであった事案であるように思えます。
「特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下,両者を併せて「特許権者等」という。)が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等(特許法2条3項1号にいう使用,譲渡等,輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をいう。以下同じ。)には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されないものと解するのが相当である。」
「特許権者等が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許されるというべきである。そして,上記にいう特許製品の新たな製造に当たるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断するのが相当であり,当該特許製品の属性としては,製品の機能,構造及び材質,用途,耐用期間,使用態様が,加工及び部材の交換の態様としては,加工等がされた際の当該特許製品の状態,加工の内容及び程度,交換された部材の耐用期間,当該部材の特許製品中における技術的機能及び経済的価値が考慮の対象となるというべきである。」
「・・・被上告人は,被上告人製品のインクタンクにインクを再充てんして再使用することとした場合には,印刷品位の低下やプリンタ本体の故障等を生じさせるおそれもあることから,これを1回で使い切り,新しいものと交換するものとしており,そのために被上告人製品にはインク補充のための開口部が設けられておらず,そのような構造上,インクを再充てんするためにはインクタンク本体に穴を開けることが不可欠であって,上告人製品の製品化の工程においても,本件インクタンク本体の液体収納室の上面に穴を開け,そこからインクを注入した後にこれをふさいでいるというのである。このような上告人製品の製品化の工程における加工等の態様は,単に消耗品であるインクを補充しているというにとどまらず,インクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるものにほかならない。
(中略)
・・・上告人製品の製品化の工程における加工等の態様は,単に費消されたインクを再充てんしたというにとどまらず,使用済みの本件インクタンク本体を再使用し,本件発明の本質的部分に係る構成(構成要件H及び構成要件K)を欠くに至った状態のものについて,これを再び充足させるものであるということができ,本件発明の実質的な価値を再び実現し,開封前のインク漏れ防止という本件発明の作用効果を新たに発揮させるものと評せざるを得ない。
これらのほか,インクタンクの取引の実情など前記事実関係等に現れた事情を総合的に考慮すると,上告人製品については,加工前の被上告人製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認めるのが相当である。したがって,特許権者等が我が国において譲渡し,又は我が国の特許権者等が国外において譲渡した特許製品である被上告人製品の使用済みインクタンク本体を利用して製品化された上告人製品については,本件特許権の行使が制限される対象となるものではないから,本件特許権の特許権者である被上告人は,本件特許権に基づいてその輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができるというべきである。」

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