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米国では情報提供の代わりにIDSを利用して審査官に情報を提供

2010.07.16

伊藤 寛之

以前に日本の情報提供制度について記事を書きました。この記事の通り、日本の情報提供は、ほぼ無条件にいつでも情報の提供ができ、刊行物の内容と本願発明との関係を十分に説明することができるので、非常に便利な制度です。
米国にも一応情報提供の制度があり、規則1.99に定められています。しかし、米国の情報提供制度は、日本のものとは全く違って、非常に限定的なものです。出願公開から2ヶ月間にのみ情報提供ができ、しかも、提供できるのは刊行物のみであり、その刊行物と本願発明との関係を説明することは認められていません。出願公開から2ヶ月が経過した後に重要な文献が見つかったとしても、その文献を審査官に提示するための制度はありません。
一方、米国では、発明者、出願担当者、代理人に対しては知っている全ての文献を提出する強い義務が課されています。この義務を怠ると特許が権利行使不能になってしまうので、発明者らは、通常は、自己が知っている全ての文献をIDS(Information disclosure statement)で提出します。
重要な文献を見つけた場合は、このIDS制度を利用して審査官に文献を提供するのが有効であると言われています。すなわち、文献を特許庁に送る代わりに、発明者らに対して、その文献を送ります。発明者らは、例え、見知らぬ者から送られてきた文献であったとしても、その内容を知ってしまった以上は、特許庁に提出する義務がありますから、この方法で文献が無事審査官の手元に届くことになります。
文献が提出されたかどうかは、PAIRを使えば知ることができますので、発明者等に文献を送付した後にしばらくしてもその文献が特許庁に提出されなかったら、文献を再度送付するなどの対策を講じることが可能です。
何度送っても文献が特許庁に提出されず、そのまま特許になってしまった場合は、裁判のデポジション(証言録取)という手続で、発明者らを尋問することによって、IDS違反による権利行使不能を主張することができます。デポジションでは、敏腕弁護士が丸一日に渡って発明者らを質問漬けにして精神的に追い詰めます。米国には内容証明郵便はありませんが、文献が発明者の会社にまで届いたということの立証は容易なので、発明者サイドは、その文献の存在を全く知らなかったという言い逃れは難しいので、ポロッとしゃべってしまうことになると思います。
アメリカ US

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