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旋回式クランプ事件補足

2012.03.11

伊藤 寛之

旋回式クランプ事件について、コメントがありましたので、補足します。
コメントありがとうございます。
優先権の効果は、非常に微妙な問題を含んでいるので、特許庁の審査基準の中でも一貫していない部分があるかも知れません。もしかしたら、ご指摘の部分は合金に関する発明であり、合金発明は通常全ての構成要素が一体であると判断されることが一貫していないように見える理由かも知れません。
合金発明では、残部を特定することが必須です。従って、たぶん、特許庁の頭の中では、
「クロムを含有する耐蝕鋼」とは、「クロムを含有し、残部が鉄からなる耐蝕鋼」を意味し、
「クロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼」とは、「クロム及びアルミニウムを含有し、残部が鉄からなる耐蝕鋼」を意味しています。そうすると、前者は、後者を含有していません。
今回の案件は、メカの案件なので、耐蝕鋼の事案よりも人工乳首の事案に類似しています。審査基準は、人工乳首事件を引用しており、今回の無効審判でも特許庁の判断手法は、人工乳首事件での裁判所の判断手法と同じです。人工乳首事件については、極めて多くの論考がありますので、検討してみてください。
ご指摘のブログの記事では、「請求項ごと」の判断が強調されていますが、請求項ごとの判断はあくまでも原則です。全体を引用すると、以下の通りであり、「新たに実施の形態が追加されている場合は、その新たに追加された部分について優先権の主張の効果を判断する」と記載されています。そして、新たな実施形態の追加の具体例として、人工乳首事件が引用されています。
「優先権の主張の効果の判断は、原則として請求項ごとに行う。また、一の請求項において発明を特定するための事項(以下「発明特定事項」という。)が形式上又は事実上の選択肢(以下「選択肢」という。「形式上の選択肢」及び「事実上の選択肢」については、「第Ⅱ部第2章1.5.5 新規性の判断(2)(注1)」を参照。)で表現されている場合には、各選択肢についてそれぞれ優先権の主張の効果を判断する。さらに、新たに実施の形態が追加されている場合は、その新たに追加された部分について優先権の主張の効果を判断する。」
人工乳首事件も今回の事案も、以下の論理構成です。
新たな実施形態には優先権の効果なし→請求項1は新たな実施形態を包含している→その実施形態部分には優先権の効果が及ばない
> いつも有用な情報を提供していただき、ありがとうございます。
>
> 本事件(旋回式クランプ事件)について、「特許庁は、無効審判において、審査基準に沿った内容で優先権の判断を行いました。」と指摘されていますが、優先権の審査基準には、以下のような記述があります。
>
> -------------------------------------------------------
>
> 1章 パリ条約による優先権
>
> 4.3 部分優先又は複合優先の取扱い
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> (1) 日本出願が第一国出願に基づくパリ条約による優先権主張を伴っていて、日本出願の一部の請求項又は選択肢に係る発明が第一国出願に記載されている場合(部分優先)には、その部分について対応する第一国出願に基づく優先権の主張の効果の有無を判断する。
>
> [例1] 日本出願の一部の請求項に係る発明のみが第一国出願の出願書類の全体に記載されている場合
>
> 第一国出願:第一国出願の出願書類の全体にはクロムを含有する耐蝕鋼のみが記載されている。
>
> 日本出願:日本出願の一の請求項に係る発明はクロムを含有する耐蝕鋼とされ、他の請求項に係る発明はクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼とされた。
>
> 優先権についての判断:日本出願の一の請求項に係る発明であるクロムを含有する耐蝕鋼は、第一国出願の出願書類の全体に記載されているから、優先権の主張の効果を認める。一方、他の請求項に係る発明であるクロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼については、第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものではないから、優先権の主張の効果を認めない。
>
> -------------------------------------------------------
>
> この審査基準の例では、一の請求項に係る発明の「クロムを含有する耐蝕鋼」については、「クロムのみ」との限定はないので、概念上は新たに追加された他の請求項に係る発明の「クロム及びアルミニウムを含有する耐蝕鋼」も包含し得ることになりますが、「優先権の主張の効果を認める」と説明されています。
>
> したがって、請求項3の優先権が認められないことを根拠に、請求項3を概念上は包含し得る請求項1,2についての優先権まで否定した、本事件(旋回式クランプ事件)の審決は、この審査基準の考え方に沿っていないとも解されますが、如何でしょうか?
>
> そのような読み方をしているブログ記事もありました: http://izapat1.blog.fc2.com/blog-entry-37.html

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