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★勝訴判決★ iPhoneケース事件 無効審判の審決取消訴訟 平成26(行ケ)10028

2014.06.21

伊藤 寛之

勝ちました
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140604153438.pdf
平成26年5月28日判決言渡
平成26年(行ケ)第10028号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成26年5月19日
判 決
原 告 X
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 谷 口 由 記
山 下 侑 二
今 村 潤
松 井 亮 行
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 小 倉 啓 七
被 告 株式会社パワーサポート
訴 訟 代 理 人 弁 理 士 伊 藤 寛 之
奥 野 彰 彦
主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第5 当裁判所の判断
1 前提事実
(1) 本件発明について
本件発明の特許請求の範囲は,上記第2の1のとおりであり,本件明細書の記載
(段落【0005】,【0006】,【0013】ないし【0015】,図2,3)を併
せ読めば,本件発明は,携帯電子機器にケースを取り付けた場合に,携帯電子機器
の文字や図形のロゴを活用して,自分の嗜好にあった装飾を模様替え容易な状態で
簡便に楽しむことができる携帯電子機器用ケースを提供することを目的として,携
帯電子機器のロゴマークに関連付けるためのイラストを,ロゴマークに重ねたり接
したりするような所定の位置に,また,所定の形状や大きさで,ケースに施すこと
により,ユーザに対して,ロゴマークに服を着せるなどのモチーフを醸し出すもの
であると認められる。
(2) 引用発明
ア 電子的技術情報1(甲12)は,iPhone4ケースの「アースウェ
ア絶滅危惧種」についての電子的技術情報であるが,そこには以下の記載がある。
「クリアタイプは透明のクリアケースに白で動物をデザインしてあります。」
「クリアタイプ6種(透明のクリアケースに白で動物のイラストデザイン)」
イ また,下記のとおり,「アフリカゾウEWFP01LA」,「アレキサンド
ラトリバネアゲハEWFP01OA」,「グレビーシマウマEWFP01EG」,「ブ
ッシュマンウサギEWFP02BM」,「アムールヒョウEWFP01PA」,「ホッ – 10 –
キョクグマEWFP01UM」の各写真が掲載されている。
2 取消事由1について
(1) 引用発明の認定誤りについて
上記電子的技術情報1には,iPhone4の裏面ないし側面の外面形状に沿っ
た形状のケースにおいて,該ケースが透光性素材からなり,iPhone4の裏面
を覆う前記ケースにアフリカゾウのイラストが付され,前記ケースを前記iPho
ne4に取り付けた場合に,前記iPhone4のロゴマークないしロゴ文字が透 – 11 –
視できることが記載されていると認められる。この点については,当事者間に争い
はない。
審決は,さらに,上記電子的技術情報1には,該アフリカゾウのイラストが,ロ
ゴマークと一体となって一つのモチーフを醸し出すためにデザインされたものであ
る点も記載されていると認定したところ,原告は,上記「アースウェア絶滅危惧種」
シリーズの他の動物のケースでは,動物のイラストがリンゴのロゴマークと重なっ
たり,無関係の構図で描かれたりしていることからすると,アフリカゾウとリンゴ
の位置関係は偶然にすぎず,アフリカゾウがリンゴを鼻でつかんでいるように見え
るのは,意図されたものでないと主張して,審決の引用発明の認定を争っている。
上記「アースウェア絶滅危惧種」シリーズは,透明のクリアケースを用い,白色
で絶滅危惧種の動物等のイラストを施した一連のシリーズであるから,一貫したコ
ンセプトをもってデザインされたと考えるのが自然である。かかる観点から各イラ
ストを検討するに,上記「グレービーシマウマ」の首のあたりには模様がない部分
が認められるが,これは,本体にケースを取り付けた際に,iPhone4の裏面
のリンゴのロゴマークが,シマウマの首の縞模様の一部を形成するように,当該マ
ークと一致させて模様を脱落させたものであるとみるのが自然である。そして,シ
マウマの顔の位置も,iPhone4の裏面の文字と重ならないように形成されて
いるのも,同じようなロゴ文字との調和の意図を持ってなされたものと推認するの
が相当である。他方,上記のとおり,「アレキサンドラトリバネアゲハ」のイラスト
は,「グレービーシマウマ」のそれと同じようにリンゴのロゴマークと重なり合って
いるが,その部分がチョウの身体の模様,すなわち,羽の模様の一部にはなってい
ない。もっとも,リンゴのロゴマークはチョウの羽とほぼ重なるように配置されて
おり,リンゴのロゴマークが大きくはみ出すようなデザインになっていないという
限度において,少なくとも,リンゴのロゴマークの大半を隠すことによって,チョ
ウのイラストとリンゴのロゴマークとの調和をある程度図ったとみるのが自然であ
る。また,「ブッシュマンウサギ」,「アムールヒョウ」,「ホッキョクグマ」の各イラ – 12 –
ストは,ロゴマークのリンゴとは離れた構図が採用され,一見リンゴと無関係の位
置に配置されているようにも見えるが,少なくとも,動物の身体と重ならないよう
に配慮されているのは明らかであって,この限度で,動物のイラストとリンゴのロ
ゴマークとの調和をある程度図ったものであることは,他のデザインと同様である。
しかも,被告も指摘するように,「ホッキョクグマ」のイラストは,その下に記載さ
れた地球のイラストと対比すると,リンゴのロゴマークをして月を想起させるよう
な位置に配置されているという評価もできるものである。そうすると,アフリカゾ
ウのイラストとリンゴのロゴマークの位置関係も偶然ではなく,両者をもって一つ
のモチーフを醸し出すためにデザインされたものであると認めることができる。
(2) その余の原告主張について
原告は,アフリカではリンゴが栽培されることはなく,ゾウがリンゴを食べたり
くわえたりすることはあり得ないことを根拠にデザイン性を否定する。しかしなが
ら,アフリカゾウがリンゴを実際に食べるか否かはデザイン性とは関係ない事柄で
あって,アフリカゾウの位置がリンゴのロゴマークやロゴ文字と関係するように意
図的になされたものか否かという点に関して影響を与える事実とはいえない。
また,原告は,電子的技術情報1におけるアフリカゾウのイラストはそれだけで
一つのモチーフとして完成しているとも主張する。しかしながら,光性のケース
において,本体に取り付けていない時のデザイン性は,陳列・販売時の購買力の点
で,一定の重要性を有するものではあるが,本体に取り付けることが当然想定され
ている商品である以上,取付時のデザインも優れている必要があり,その点を併せ
て考慮してデザインすることは極めて自然なことであり,上記事情は本体に取り付
けた時のデザイン性を否定する根拠とはなり得ない。
さらに,原告は,甲12に記載された上記「アースウェア絶滅危惧種」シリー
ズに関して「iPhone背面のAppleマークを活かしたデザインのクリア
タイプ」と記載した,甲1の電子的技術情報の公知日,平成23年5月15日は,
本件発明の原出願である実用新案出願日の同年3月11日よりも後の日である – 13 –
から,同電子的技術情報は,リンゴのロゴマークを活用するという本件発明の出
願に際しての技術的思想の採用の示唆とはなり得ないとも主張する。しかしなが
ら,甲1の記載内容に関わりなく,電子的技術情報1の記載自体から,審決の認
定した引用発明が認定できることは上記説示のとおりであるから,原告の主張は
理由がない。
3 取消事由2について
原告の本件発明3及び4に係る容易想到性の判断誤りの主張は,本件発明1と引
用発明との一致点の認定誤りを前提としたものであるところ,この点に理由がない
のは,上記2で説示したとおりである。したがって,原告の取消事由2の主張は理
由がない。
第6 結論
以上のとおり,原告の請求は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清 水 節
裁判官
新 谷 貴 昭
裁判官
鈴 木 わ か な

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