ブログ

シミュレーション結果が、実施例の代わりとして認められたか?

2010.11.09

SKIP


「仮想実験」で特許が成立、最新シミュレーション技術の威力

シミュレーションの結果を提出しても、特許庁は実施例と同等のものとは認めてくれないので、現在の特許庁実務ですので、なかなかショッキングなタイトルです。
この分野の技術には詳しく有りませんせんが、おそらく、比較的予測可能性が高い分野で、実施例が無くても、特許が認められる可能性があったものなのではないかと思います。
予測可能性が低い化学やバイオの分野では、予測を超えた結果が得られるから特許が認められるものであり、既知の理論に基づいて設計されるシミュレーションとは相容れないものがあると思います。
【特許番号】特許第4558350号
【請求項1】
超伝導層と絶縁体層とが第1の方向に積層された高温超伝導体を用いて連続テラヘルツ電磁波を発生させる方法であって、
前記高温超伝導体が超伝導状態になる臨界温度以下の温度において、前記高温超伝導体に前記第1の方向に対して垂直な方向に外部磁場を加えるステップと、
前記第1の方向に直流電流を流すステップと、
前記絶縁体層の電気抵抗と前記外部磁場の磁束の運動とによる誘導起電力により前記高温超伝導体に発生される電圧と前記高温超伝導体に流れる電流量とを調整することにより、かつ、前記絶縁体層の層数と、前記超伝導層の層数と、前記第1の方向の磁場の侵入長と、前記外部磁場の侵入長と、前記超伝導層内の電荷の前記第1の方向に垂直な第2の方向への結合定数と、前記絶縁体層の電気抵抗値と、前記外部磁場の強さと、前記直流電流の大きさとの組み合わせを変えることにより、前記第1の方向に縦波成分が少なく節の無いジョセフソンプラズマを発生させ、前記高温超伝導体の端面から前記ジョセフソンプラズマをテラヘルツ周波数帯の連続電磁波として発振させるステップと
を備えることを特徴とする連続テラヘルツ電磁波発生方法。

【実施例】
【0031】
ここで、高温超伝導体1としてBi2Sr2Ca Cu2O8+δを使った場合の、本発明に係る連続テラヘルツ電磁波発生装置の実施例を、シミュレーション結果を用いて説明する。
【0032】
シミュレーションは、非特許文献6に記載された事項に基づき、以下の方法により行った。すなわち、高温超伝導体1内のジョセフソンプラズマ現象を記述する基礎方程式群は、電磁場の基礎方程式であるマックスウエルの方程式、高温超伝導体1の超伝導の状態を記述するゲージ不変位相差の式、ジョセフソン電流、及び、絶縁体を流れる常伝導の電流と変位電流を含む全電流の式である。高温超伝導体1の外の物質及び空間における電磁波現象は、マックスウエル方程式で記述できる。この方程式群に対して差分法を適用し、シミュレーションを行った。以下に、シミュレーションの条件を示す。
【0033】
シミュレーションに使用した連続テラヘルツ電磁波発生装置Gにおける高温超伝導体1の寸法を図3に示す。高温超伝導体1は超伝導層4と絶縁体層5とを100層積層したもので、0.15μmの厚さを有する。高温超伝導体1のa軸方向の長さは100μm、b軸方向の長さは500μmである。なお、図を簡略化するため、図3では外部磁場付加装置14、14´は省略されている。ab面に垂直な方向への磁場の侵入長は0.4μm、ab面に平行な方向への磁場の侵入長は200μmである。臨界電流値Jcを538A/cm2とし、超伝導層の厚さは3Å、絶縁層の厚さは12Å、電荷のc軸方向への結合定数は0.1とした。高温超伝導体1の電気抵抗のパラメータβは0.02と0.03のつの場合について考察した。絶縁体層5の誘電率は10であり、ab面に平行に1テスラの強さの外部磁場3を付加した。直流電流2はc軸の負の方向に流され、その電流値を臨界電流値Jcで正規化して得た値である0.01から1.5の間で変化させた。
【0034】
こうした条件の下で構成された連続テラヘルツ電磁波発生装置Gの高温超伝導体1の一方の端面8に密着するように、テラヘルツ波誘導装置15として、誘電率が10の誘電体からなる導波管を設置した。高温超伝導体1の温度は20Kに設定した。
【0035】
上記の条件の下でシミュレーションを行った結果、ボルテクス7はa軸方向に動き、電磁波が端面8からテラヘルツ波誘導装置15に放射された。そこで、高温超伝導体1の端面8からテラヘルツ波誘導装置15の方へ4μm離れた位置で電磁波の放射強度をポインティングベクトル(電場と磁場の積)の値として計算したところ、図4に示す放射強度の計算結果を得ることができた。なお、図4の横軸は直流電流2の電流値を臨界電流値Jcで割って正規化した値であり、縦軸は出力(放射強度)であり、一点鎖線はβが0.02の場合、実線はβが0.03の場合を示している。このグラフから、直流電流2の広い範囲にわたってミリワット級の出力が得られることを確認することができた。
【0036】
図5は、高温超伝導体1の電気抵抗のパラメータβが0.02である場合に、直流電流2の電流値を正規化された値で0.6から0.95まで変化させたときに高温超伝導体1の端面8から4μm離れた位置での電磁波の周波数特性を示している。図5において、横軸は高温超伝導体1から放射される電磁波の周波数であり、縦軸は周波数強度の相対値である。図5に示すように、絶縁体層5の電気抵抗と外部直流電流2とを用いて高温超伝導体1に印加される電圧の強さを変化させることにより、高温超伝導体1から、コヒーレントな周波数特性を有する連続的な電磁波を得ることができ、しかも、高温超伝導体1から放射される電磁波の周波数を容易に且つ連続的に変更することができることが判明した。また、図3に示すように、連続テラヘルツ電磁波発生装置Gの核となる高温超伝導体1は微小なものであり、磁場付加装置14、14´及び冷却装置16を集積することによって装置を容易に小型化することができる。

アーカイブ