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方法クレームの共同直接侵害(電着画像の形成方法事件)

2010.08.15

伊藤 寛之

別のエントリではシステムクレームの共同直接侵害についての事件を紹介しました。
システムクレームの場合は、各人が構成要素の一部を実施し、全体を見るとシステムクレームの全ての構成要素が実施されている場合に、共同直接侵害が成立するかどうかが問題になります。
方法クレームの場合は、各人が工程の一部を実施し、全体を見ると方法クレームの全ての工程が実施されている場合に、共同直接侵害が成立するかどうかが問題になります。

電着画像の形成方法事件(平成 12年 (ワ) 20503号 特許権侵害差止請求事件 )
では、最終ステップを除く工程を製造業者が実施し、最終ステップを購入者が実施した場合に侵害が成立するかどうかが争われました。購入者は、製造業者の部下でも何でもないので、購入者が製造業者の手足として最終工程を実施していると認定するのは難しそうですが、裁判所は、製品の性質を勘案して、製造業者が購入者を道具として利用して最終工程を実施していると認定しました。
このケースでは運良く裁判所が特許権者側に有利な判断を下しましたが、いつもこのような判断になるとは限らないでしょうから、弁理士としては、複数人に分けて実施されそうな工程は可能な限り構成要素から除外することが必要だと思います。
なお、これが物のクレームであれば、特許製品の一部の構成要素が欠けている場合でも1号又は2号の間接侵害になる可能性がありますが、方法クレームの場合、特許方法の一部の工程が欠けている場合は、間接侵害には成り得ません。方法クレームの間接侵害は、その方法を実施するための物を譲渡等する場合に限られているからです。
従って、本件のような場合は、手足理論や共同直接侵害理論で対処されます。なお、、眼鏡レンズの供給システム事件(平成 16年 (ワ) 25576号 特許権侵害差止等請求事件 )の理論構成を採用すれば、最終工程は購入者によって実施されていることが想定されているものなので、特許権侵害は容易に認定され、また、この工程全体を支配管理しているのは、製造業者であることは明らかなので、製造業者に対する差止請求・損害賠償請求を認めることも、導くのが容易だと思われます。

(侵害とみなす行為)
第101条 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
1.特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
2.特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
3.特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
4.特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
5.特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
6.特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為


4 争点4(構成要件⑥に該当する工程〔被告製品の時計文字盤等へ貼付〕を,被告自らが実施せず,被告製品の購入者において実施しているとしても,この工程を含んだ全体の工程を被告の行為と同視して,本件特許権の侵害と評価することができるか)について (1) 被告製品は,前記争いのない事実記載のとおり,工程11において,裏面から捨て電鋳層を剥離し,次いで,剥離紙を貼付した後,製品電鋳層を切り離した上で,包装され,販売されている。被告製品は,この状態で,文字盤製造業者に販売されているところ,これを購入した文字盤製造業者によって,裏面の剥離紙を剥がされて,文字盤等の被着物に貼付されることは,「時計文字盤等用電着画像」という被告製品の商品の性質及び上記の被告製品の構造に照らし,明らかである。被告製品には,他の用途は考えられず,これを購入した文字盤製造業者において上記の方法により使用されることが,被告製品の製造時点から,当然のこととして予定されているということができる。したがって,被告製品の製造過程においては,構成要件⑥に該当する工程が存在せず,被告製品の時計文字盤等への貼付という構成要件⑥に該当する工程については,被告が自らこれを実施していないが,被告は,この工程を,被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。したがって,被告製品の時計文字盤等への貼付を含めた,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と同視して,本件特許権の侵害と評価すべきものである。

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