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実験成績証明書を参酌すべきかどうかについて述べた従来の判例(エテンザミド事件)

2010.07.23

伊藤 寛之

実施例の後出しが認められた判決(日焼け止め剤組成物事件)に関連する判例を紹介します。
エテンザミド事件(平成 17年 (行ケ) 10389号 審決取消請求事件 )の以下の判示部分は、参考になります。
出願人は、実験成績証明書の結果に基づいて効果の格別顕著性を主張していますが、そのような主張は、明細書に記載に基づかないものであるとして一蹴されています。


(2) 以上の記載によれば,本願発明は,市販の解熱鎮痛消炎剤であるアニリン系薬剤,サリチル酸系薬剤,フェニルプロピオン酸系薬剤等のうち,特にサリチル酸系抗炎症剤について,これにトラネキサム酸を配合したものが,サリチル酸系抗炎症剤の解熱,鎮痛,消炎作用を増強し,胃粘膜損傷等の副作用を生じさせなくするとの知見を得て完成されたものであり,用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては,アスピリン,エテンザミド,サリチル酸メチル,サリチル酸ナトリウム, サリチル酸アミド,アスピリンアルミニウム等が好ましいものの,特に制限されないと認められる。
(3) もっとも,本願明細書には,上記のように,「本発明に用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては・・・エテンザミドが特に好ましい。」(段落【0005】) との記載があり,さらに,「【0015】表1より,エテンザミド50mg/kg及びトラネキサム酸200mg/kg単独での抑制率は,それぞれ10%及び 14%であり,両薬剤とも軽度の抑制作用が認められた。一方,両薬剤を併用投与した場合の抑制率は56%であり,対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.44)は,各単独投与群の相対指数の積(0.77)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。【0016】表2より,エテンザミド100mg/kgおよびトラネキサム酸50mg/kgを併用した場合の抑制率は42%であり, 対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.58)は,各単独投与群の相対指数の積 (0.83)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。」との記載がある。
しかし,本願明細書には,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤にトラネキサム酸を配合した例の記載がなく,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載もない。そうであれば,本願明細書の段落【0005】,【0015】及び【0016】に上記のような記載があるだけでは,エテンザミドを特定した本願発明が,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用する態様に比較して,格別に顕著な効果を奏すると認めることはできない。
そして,上記1(2)のとおり,本願発明の特許出願当時,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することは,協力作用が得られる組合せであって,治療効果を向上させる配合として考えられていたのであるから,本願発明の特許性判断において,格別顕著な効果があると認めるためには,単に相乗的な協力作用が得られるというだけでは足りず,エテンザミド以外の解熱鎮痛消炎剤成分であるサリチル酸系抗炎症剤との配合によっては得ることのできない固有の効果がなければならないが,上記のとおり,本願明細書には,その評価に必要な根拠となるべき記載がないから,結局,本願発明が格別に顕著な効果を奏するとは認めることはできない。
(4) 原告は,試験成績証明書(甲12,13)にあるように,サリチル酸系抗炎症剤としてよく知られたアスピリン,サリチル酸ナトリウム及びサイチルアミド並びに引用例1に記載されたアセトアミノフェンとトラネキサム酸とを併用した場合の抗炎症効果を試験したところ,併用による抗炎症効果の増強作用は認められなかったから,本願発明のエテンザミドとトラネキサム酸との併用による抗炎症効果の相乗的増強作用は,格別顕著なものであると主張する。
しかし,上記(3)のとおり,本願明細書には,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載はないから,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものである。
そして,引用例1の段落【0006】には,解熱鎮痛消炎剤としてのエテンザミドと抗炎症剤としてのトラネキサム酸とを配合する点について,少くともその組合せが示唆されているものであり,また,上記1(2)のとおり,本願発明の特許出願当時,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することは,協力作用が得られる組合せであって,治療効果を向上させる配合として考えられていたのであるから,本願発明のエテンザミドとトラネキサム酸との併用による効果についても,協力作用が期待され,治療効果の向上が予測されるところである。そうであれば,本願発明が格別に顕著な効果を奏するとは認めることができないのであって,原告の上記主張は,採用することができない。
(5) したがって,審決の判断に誤りはない。

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