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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー サイクロン式掃除機の発明家 ジェームズ・ダイソン(世界中で大人気の「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機」を製造販売するダイソン社の創業者)

2023.06.16

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ダイソンの掃除機も、イノベーションによって生まれたアイテムのひとつです。「吸引力の変わらない、ただ一つの掃除機」のキャッチコピーで有名なダイソンは、今では家庭の強い味方として、多くの人に親しまれています。一躍有名になったダイソン社を立ち上げたのが、ジェームズ・ダイソンその人です。若い頃から優秀だったダイソンは、初め家具とインテリアのデザインを学びましたが、のちに工学へと転向。他の人と一線を画するアイデアと行動力で、大きな成功を収めました。今回はそんなジェームズ・ダイソンの生涯を振り返っていきましょう。

ジェームズ・ダイソンの前半生(デザインから工学に転向して、手押し車の会社を起業)

ジェームズ・ダイソンは、1947年イングランドで生まれました。当時世間は第二次世界大戦が終結した直後であり、争いの爪痕が各地に残されている状況でした。そんな中をダイソンは生き抜き、勉学に励みます。18歳になったダイソンはセントラル・セント・マーチンズにてファイン・アート(実用性を考慮せず、美しさだけを追求した芸術)を学び、その2年後には英国王立美術大学で家具とインテリアのデザインを学びました。その後は工学に転向し、様々な学問の知見を深めていきました。

ダイソン掃除機は今でこそ多くの人に愛される大企業となっていますが、その始まりはほんの小さなきっかけでした。ダイソン社が創設される前、ダイソンは手押し車を製造・販売する会社を起こし、事業を行っていました。しかしある時、手押し車の製造過程でトラブルが発生します。それは塗装を行う際、粉末が布フィルターに付着し、目詰まりを起こしてしまうというものでした。ダイソンはこの問題を解決するため、遠心力と空気を活用してごみを除去する「サイクロン式分離機」を導入しました。これによって目詰まりを解消し、手押し車の製造にも一段と力を入れるようになります。

同じころ、ダイソンは家庭用の新しい紙パック式の掃除機を購入しました。吸引力をアピールする商品のキャッチコピーに惹かれて購入したものでしたが、使用していくうちにだんだんと吸引力は落ちていってしまいました。ダイソンはこの現象について、紙パックの容量がいっぱいになったために吸引力が落ちたと考えました。それを確かめるために、紙パックの中身を捨てて、古くなった紙パックを装着しても、吸引力は変わりません。しかし、新品の紙パックを装着すると、購入した時のような吸引力が復活したのです。ダイソンはこの現象にも興味を示し、吸引力が下がる原因は紙パックの微細な穴にごみが詰まったため、空気の抜け道ができなくなったことを突き止めました。

ダイソンは、早速この気づきを発明に活かそうとしました。吸引力を維持しようとすれば、買った人は紙パックを永遠に買い続けなければなりません。この問題を解決しようとしたときに思い出したのが、手押し車の目詰まりを解決したときに導入した「サイクロン式分離機」でした。

ジェームズ・ダイソンの後半生(サイクロン式掃除機を発明する)

その後は試作品の発明に励み、幾度の失敗を重ねて、ついに吸引力を維持できる掃除機を生み出しました。発明に成功した後は早速メーカーに売り込みにいきましたが、多くのメーカーは興味を示しませんでした。そこでダイソンは自分で工場を持ち、サイクロン式掃除機を製造することにしました。

サイクロン掃除機の販売直後、ダイソン社はテレビCMで他社と違って紙パックを買い続ける必要がないことをアピールし続けました。当時のイギリス市場では、使い捨て紙パックは総額1ポンド相当の量が流通していたとされています。このときに掲げた「紙パックよ、さようなら」というスローガンは家計管理の悩みを抱える消費者に刺さり、かなりの大ヒットを飛ばしました。

イギリスにおける家庭用掃除機の歴史を見ると、面白い事実がわかります。最初に発明された家庭用掃除機は真空タイプで、布袋などのフィルターでごみをこしとるようにして捨てるという方式でした。しかしごみを捨てようとすると手が汚れるうえに大量のホコリが舞うので、衛生的にも万全とは言えない状態でした。そんな中、紙パックの掃除機の登場によって、ごみのたまったパックを捨てるだけで済むようになり、不潔さは一応の解決を見せました。しかし紙パックを常に買い続けないとならないことから、安価な紙パックでも捨てたくないという心理が生まれ、中のごみだけ捨てて古い紙パックを使いまわすような動きも出てきました。そこにタイミングよく「紙パック不要」を掲げた掃除機が出てきたことで、ダイソンの掃除機は多くのユーザーに受け入れられました。とはいえ、サイクロン式掃除機はかつての真空掃除機ではないほどにせよ多少のホコリが舞うことや、定期的なメンテナンスが必要であること、さらに掃除機本体の価格も紙パック掃除機よりも高価になってしまったことは、皮肉というべきですね。

今回はダイソン掃除機の発明家・ジェームズ・ダイソンの生涯を振り返りました。事業の経験と日常のささやかなヒントを結びつけて大きな発明に活かすことができたのは、まさしくダイソンが天才だったからというほかないでしょう。成功に至るまで、ダイソンは5000回以上の失敗を重ねてきたそうです。優秀なだけでなく、諦めない気持ちを持ち合わせていたことが、成功の秘訣だったのかもしれませんね。

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