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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー ローバー安全型自転車の発明家 ジョン・ケンプ・スターレー(高級車のランドローバーで有名なローバー社 (現インド・タタ自動車) の創業者)

2023.06.05

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。自転車も、そんな偉大な発明によって生み出されたアイテムのひとつ。イギリスで生まれた最初の自転車は前輪が後輪に比べてかなり大きく、スピードが出るものの安全性については考慮されていませんでした。これを改良し、安全に乗れる自転車を作ったのがジョン・ケンプ・スターレーです。叔父のジェームズ・スターレーから事業を受け継ぎ、現代自転車のモデルケースを作り上げた彼は自転車産業に大きな貢献を果たしました。スターレーはイギリスの自転車ブランドである「ローバー」の始祖としても知られています。今回はそんなジョン・ケンプ・スターレーの生涯を振り返っていきましょう。

ジョン・ケンプ・スターレーの前半生(叔父のもとで自転車製造を学ぶ)

ジョン・ケンプ・スターレーはエセックス州のワルサムストウで誕生しました。スターレー一家は自転車製造業で有名であり、叔父のジェームズ・スターレーは自転車を発明した人物として名を馳せた人物です。そんな叔父のもと、18歳になる1872年には弟子入りして働き始めました。スターレーが働き始めたころ、世界初の自転車である「ペニー・ファージング型」の自転車が発明されました。

当時の自転車は高価なものであり、中流階級以上の層に人気のある商品でしたが、安全性が確保されていないことが理由で怪我人や死者も絶えないという欠点がありました。さらに、前輪が後輪よりもはるかに大きい構造上、足が届くのは男性のみ。女性や子どもは自転車に乗れないという事態になり、反発は免れませんでした。そこでジェームズ・スターレーは、女性や子どもでも乗れる二人乗り用の自転車や三輪車を発明して、どんな人にも購入してもらえるように工夫したのです。ジョンはしばらく叔父のもとで働き、自転車製造のノウハウを学びました。

ジェームスの死後、息子のウィリアムが事業を継ぎ、ジョンは少しの間一緒に働いていました。しかし1877年、地元の自転車マニアであるウィリアム・サットンと出会い、意気投合。二人は自転車事業について大きな構想があり、新たに事業を立ち上げることを決めました。こうしてできたのが、「スターレー・アンド・サットン社」です。

ジョン・ケンプ・スターレーの後半生(ローバー安全型自転車を発明する)

スターレー・アンド・サットン社のもっとも大きな発明は、現在の自転車の基礎となった「安全型自転車」です。この自転車の仕様は、チェーンで後輪を駆動することによって前輪を小さくし、より低い姿勢で運転できる、というもの。乗り降りの際や運転中の姿勢保持が楽であり、さらにブレーキもついているため、安全性をかなり高めたことがこの自転車のもっとも大きな特徴です。事業に乗り出したのは1884年、ハンバーやマッカモン、BSAなどの自転車製造会社と同時期でした。自転車分野において大きな影響力を持つ競合会社とぶつかったものの、スターレー・アンド・サットン社も負けず劣らず、市場競争を渡り抜いていきました。1885年には「ローバー安全型自転車」と名付けられ、イギリス国内ではもちろん、世界中でも大人気の商品となったのです。

ローバー型自転車が人気となった理由は、その安全性の高さです。ローバー安全自転車は前輪、後輪ともにほぼ同サイズで、乗り手は前後の車輪の間に位置し、真下にあるペダルを漕ぐ、ペダルから伝えられた動力はクランク、チェーンを介して後輪に駆動されるというシステムで運転が可能でした。またフロントタイヤをフォークではさみこんだステアリングコラムがフロントハブから斜め後方に伸びる事によって、こぎ手の前方にハンドルが届く形になっています。このように低重心で操作性に優れるために誰でも慣れれば乗れて、また前に転倒する危険性もありませんでした。

この自転車の登場は、当時のイギリス国民にとって革新的なものでした。当時の人々の認識では、「自転車」といえばペニー・ファージング型をイメージするのが一般的だったからです。危険な乗り物であるものの、スピードが出ることからスポーツとしての乗り物の要素が強かったペニー・ファージング型から一点、安全型自転車の登場によって自転車は日常生活のアイテムとして溶け込んでいきました。実用性を備えた自転車はのちに「ロードスター型」の自転車へと形を変え、発展していくことになります。

その後、安全型自転車は多くのメーカーで採用されるようになりました。数多のフレームが生み出され、その中で生まれたダイヤモンドフレームは現在の自転車フレームの原点となっています。

ローバー型自転車の発明後もいくつかの商品を作って事業を展開していきましたが、目立った成果を上げたという資料は残されていません。しかし、時を超えて現在もなお愛される自転車を作り上げた功績は偉大なものだったと言えるでしょう。1901年、46歳でその人生に幕を下ろしたジョン・スターレーは、まさに自転車製造の立役者だったのです。

今回は、自転車の安全性の確保、さらには現在も続く自転車のモデルの発明で功績を残したジョン・ケンプ・スターレーの生涯を振り返っていきました。叔父のもとで修行を積んだジョンには自転車製造のノウハウが詰まっていながらも、飛ぶように売れたペニー・ファージング型の問題点を見抜いて改良した着眼点と技術力は、まさに優秀な発明家であったことの証でしょう。安全性を高めてくれた先人に感謝しつつ、自転車を生活の一部として活用していきたいものですね。

 

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