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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー クローン羊の発明家 キース・キャンベル(哺乳類のクローンを作る技術を開発して大論争を巻き起こした、神をも恐れぬ発明家)

2023.05.26

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。哺乳類のクローンを作る技術は、再生医療や遺伝子治療などの分野で重要な役割を果たしています。従来、クローンを作るのは成功率が低く、多くの科学者が頭を悩ませていました。しかし、1996年に、人類史上初となる完全に同一となる羊のクローンが生まれました。この羊は「ドリー」と名付けられ、のちの医療分野に多大な影響を与えました。このドリーの複製に成功したのが、イギリスの生物学者であるキース・キャンベルです。彼はノッティンガム大学で教授として働きながら、クローン技術を研究するチームの一員として、ドリーの誕生に関わりました。今回はそんな、キース・キャンベルの生涯を振り返っていきましょう。

キース・キャンベルの前半生(クローン羊のドリーの誕生)

キース・キャンベルは、イギリスのバーミンガムで生まれました。イングランド人とスコットランド人のハーフであり、幼少期はスコットランドで過ごしました。幼児教育はスコットランドのパースで受けていましたが、8歳のときに家族がバーミンガムに戻り、地元の学校に通いました。キャンベルが当時通っていたのは、キングエドワード6世キャンプヒル男子スクールです。青年期を過ごしたキャンベルは、生物学に多大な興味を示しました。キャンベルはロンドン大学のクイーン・エリザベスカレッジで微生物学の研究を行い、理学士号を取得しました。また、1983年にはマリー・キュリー研究奨学金を受け取り、大学院での研究資金を獲得しました。この時の研究が、のちにサセックス大学で行った研究の助けとなり、博士号を取得する一因となったとされています。

キャンベルが哺乳類のクローン精製に興味を持ったのは、カール・イルメンゼーとジョン・ガードンの研究がきっかけでした。1991年、キャンベルはロスリン研究所に勤務し、イアン・ウィルモットと手を組みクローンについて研究し始めました。それから研究の日々は続き、様々な手法を試しては失敗し、それでも諦めずに研究を続けました。そのような日々は、研究を始めてから4年後の1995年に、大きな一歩を踏み出します。キャンベルとチームの一人であったビル・イッチーは、培養で分化した杯細胞から、1対の子羊を作るのに成功しました。翌年、この研究成果をもとにイアン・ウィルモットがクローン研究チームを率い、クローンの羊を作ることに成功しました。このチームは、キャンベルを主要な貢献者として称えました。キャンベルがクローンの精製に関して持っていた考え方は、ドナーの体細胞とレシピエントの卵子の「細胞周期」の段階を調整し、核ドナーとして二倍体で静止し「G0」に止められた体細胞を使用するというものです。この考え方は、クローンを作る研究の66%に相当すると、チームのリーダーであったイアン・ウィルムットは認めています。

ドリーの成功後も研究は進み、1997年にはヒト遺伝子を含む遺伝子組み替えを行った皮膚細胞から「ポリー」という新たな羊のクローンを作りました。キャンベルは2000年にPPL Ltdに入り、チームを組むことになります。ここでは体細胞核移植(いわゆるクローン技術)により、世界初の子豚を作ることに成功しました。PPL Ltdはスコットランドやロスリン、アメリカのブラックスバーグなど世界中に拠点を置いており、この技術を各地で使用しました。家畜をターゲットとして最初の遺伝子や、母乳中にヒト治療タンパク質が生成される動物を作れるようになったのです。

キース・キャンベルの後半生(学者として幹細胞の研究を行う)

キャンベルは科学者として研究を行いながら、1999年からノッティンガム大学の教授を務めました。学部は動物生理学部動物発生という分野です。彼はここで胚の成長と分化について研究を行いました。キャンベルは、個別化した幹細胞の作成やヒトの疾患の研究のためのSCNTの使用および研究に使用できるヒトの卵子の不足を補うためのサイブリッド胚の作成を支持しました。幹細胞は胚、胎児、成体由来の材料や最近では「人工多能性細胞」作成のための特定遺伝子の過剰発現により単離することができます。キャンベルは可能性のある幹細胞集団は全て基礎研究と応用研究の両方に使われるべきであり、それが基本的な科学知識の提供や細胞治療の開発になると考えていました。

今回は、クローン研究の権威として知られるキース・キャンベルの生涯を振り返ってきました。生物のクローンを作るには高度な技術が必要であり、かつて様々な科学者が研究を試み、失敗の山を築いてきました。そんな中でもキャンベルは 研究を続け、人類初となる哺乳類のクローンである羊のドリーを生み出しました。その後は子豚の生成に成功するなど、クローン技術の進化に大きな影響を与えました。現代でもクローン技術は医療現場の研究に用いられています。死滅した脳細胞を復活させる技術が、今後もしかしたらできるかもしれません。これからの研究の進化が楽しみですね。

 

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