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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー 「ZXシリーズ」コンピュータの発明家 クライブ・シンクレア(高校を中退して低価格のパソコン事業で大成功した苦労人の天才起業家)

2023.04.07

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。パソコンや電卓、デジタル時計など、コンピュータ製品は生活に欠かせないものとなっています。そんな情報技術産業の発展に大きな影響を与えたのが、クライブ・シンクレアです。シンクレアは安価でありながらも高性能なコンピュータを発明し、多くの人々にコンピュータの利用を広めました。彼が発明した「ZXシリーズ」というコンピュータは、その後のコンピュータ産業にも大きな影響を与えました。またシンクレアはコンピュータのほかに、電卓やデジタル時計、カラーLCDディスプレイなど、様々な電子機器を発明したことでも知られています。今回はそんな、クライブ・シンクレアの生涯を振り返っていきましょう。

クライブ・シンクレアの生涯(Sinclair Radionics Limitedの創設)

クライブ・シンクレアは1940年、ロンドンのリッチモンド近くで生まれました。当時は第二次世界大戦の最中であり、ドイツ軍とイギリス軍はイギリス上空で空中戦を繰り広げていました。戦火から逃れるためシンクレアの母は幼い彼を連れてデヴォンのテイマンスにある叔母の家に身を寄せました。シンクレアの実家はドイツ軍の攻撃によって爆撃され、一時は帰る家を失いました。その後、父のビルはバークシャーのブラックネルにある家を新たに購入し、1943年に弟であるイアンが、1947年には妹のフィオナが生まれました。

シンクレアは、幼い頃から数学の才能がありました。学校ではその才能を遺憾なく発揮していましたが、10歳の頃に父親の会社が経営不振となり、やがて事業を畳むことに。家の経済的な事情により、何度も転校を繰り返すことになりますが、彼の数学における才能が失われることはありませんでした。シンクレアは高校進学後にGCEの試験を受け、物理学と数学のレベルAに合格しました。

シンクレアはカフェで芝刈りや皿洗いのバイトをしながら生活をしていました。その後、休日にはエレクトロニクス企業でバイトをして、技術を学んでいきました。会社の技術者に電気で動く自動車の可能性を尋ねましたが、満足の行く回答は得られませんでした。シンクレアはまた別の企業でバイトをするために自ら設計した回路を送りましたが、まだ論理的には未熟であり、採用には至りませんでした。18歳になる誕生日の直前、シンクレアは高校を中退しました。彼は学校で学ぶことに興味を持たず、ビジネスを始めようと考えていました。数学が得意だったこともあり、電気工学に興味を持ち始めました。

シンクレアがビジネスを始めたのは、1961年のこと。Sinclair Radionics Limitedを立ち上げ、自ら設計したラジオの販売を行いました。当時のイギリスでは、ラジオは高価な製品でした。ラジオを購入して楽しめるのは富裕層だけであり、庶民は安価なラジオの登場を望んでいました。そんな中、シンクレアの会社は小型かつ安価なラジオを製造することに心血を注ぎました。シンクレアが開発した安価なラジオは好評を呼び、事業としては成功を収めました。

しかし、会社の経営は順調とは言えないものでした。いくつかの技術をライセンス提供したり、小型トランジスタラジオの設計をキットとして生産する支援者を探したりして、発明のための資金調達のために奔走しました。会社の権利の55%を3000ポンドで購入してくれる支援者も現れましたが、取引はうまくいきませんでした。窮地に陥ったシンクレアは、ロンドンのフリート街近くの出版社で編集者として働きながら自社の経営も行いました。

Sinclair Radionics Limitedは1979年まで存続し、様々な製品を生み出しました。ラジオだけでなく、ポケット電卓やテレビ受信機など、時代を先取りした製品を多く作り上げたことで知られています。特に既存製品を小型化するアイデアは当時の産業には革新的なものであり、同社の商品は広く使用されるようになりました。しかし、小型化かつ安価な製品を作り出すのは性能が劣る製品を生み出すリスクもあり、一歩間違えば事業はうまくいかなかったかもしれません。会社を成長させたのは、シンクレアの聡明な頭脳のおかげと言えるでしょう。

シンクレアの生涯(ZXシリーズの開発)

1970年代に入ると、電子機器市場は急速に変化しました。それまで人気だった小型ラジオやポケット電卓は多くの企業が参入し、市場が飽和状態になったことで売り上げが落ち込んでいったのです。このような状況の中、シンクレアはSinclair Radionicsを畳むという決断に踏み切りました。その後、シンクレアは新たにSinclair Research Ltdを立ち上げました。この会社は、コンパクトで低価格なパーソナルコンピュータを開発し、イギリスのパソコン市場を席巻したことで知られています。

Sinclair Research Ltdの代表的な製品は、低価格のパソコンである「ZXシリーズ」です。初代のZX80はキーボードが付属せず、テレビの画面に接続する必要がありました。そのため、初心者よりもテクニカルなユーザー向けの製品でしたが、当時のパソコン市場にとっては革新的な製品でした。その後開発された後継機種であるZX81は、キーボードが付属し、使いやすさを向上させました。低価格でありながら高性能であったため、一般家庭にも広く普及し、会社はますます勢いを増していきました。そして、もっともグレードの高い製品であるZX Spectrumは、当時のイギリスでもっとも人気のある製品となりました。8ビットのCPU搭載、高性能なグラフィックスやサウンドが人気の理由です。こちらも多くの国民から支持を集め、一大ヒットとなりました。

1983年、シンクレアはナイト叙勲されました。また、電気自動車を開発する新たな企業 Sinclair Vehicles Ltd.を設立し、1985年の Sinclair C5 という電気自動車の発売につながります。

1990年には、Sinclair Research Ltdはシンクレアと2人の従業員だけで運営することになりました。この頃になると、電動自転車や折りたたみ自転車など、個人用の乗り物の開発に注力しました。

2021年、シンクレアはロンドンの自宅でこの世を去りました。

今回は、パソコンの始祖であるクライブ・シンクレアの生涯を振り返ってきました。数学的な考え方が得意であったシンクレアは、その才能を存分に発揮し、情報技術産業に革新を与えたことで有名です。今でこそ高性能なパソコンがたくさん開発されていますが、その技術の起源には0から1を生み出すイノベーションがあったことは忘れてはいけません。シンクレアが残した功績は、現代の私たちが便利で豊かな生活を送ることにも役立っています。製品の歴史を辿ると、新たなアイデアのヒントを得られるかもしれませんよ。

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