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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー リチウムイオン電池の発明家 スタンリー・ウィッティンガム(2019年にジョン・グッドイナフ+吉野彰とともにノーベル化学賞を受賞)

2023.03.29

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。スマートフォンやそのほか数多くの繰り返し使用できる家電製品、さらに近年徐々に普及し始めている電気自動車に共通しているのが充電です。充電により作動する製品に使われているのがリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池は現在、非常に多くの製品に使用されており、私たちの生活に欠かすことができないものとなっています。そんなリチウムイオン電池を発明したことで有名なのがイングランド生まれのアメリカ人化学者、スタンリー・ウィッティンガム(Stanley Whittingham)です。ウィッティンガムは充電式リチウムイオン電池を発明し、その後も研究を続け普及に貢献しています。それもあり、充電式リチウム電池の創始者(Founding Father)と呼ばれています。そこで今回は、充電式リチウムイオン電池を発明したアメリカ人化学者のスタンリー・ウィッティンガムの生涯を振り返っていきましょう。

 

スタンリー・ウィッティンガムの生涯(リチウムイオン電池の発明まで)

スタンリー・ウィッティンガムは1941年(昭和16年)12月22日、イングランドのノッティンガムという街で誕生しました。1951年(昭和26年)にはリンカンシャーという場所にあったスタンフォードスクールで教育を受け、1960年(昭和35年)に卒業しました。

その後はなんとオックスフォード大学New Collegeへと進学をして、化学を専攻して学びを深めました。1964年(昭和39年)には学士号を取得、その3年後の1967年(昭和42年)には修士号を取得、さらに翌年1968年(昭和43年)には哲学博士(Doctor of Philosophy, 主に英語圏で授与される博士水準の学位でPh.D.とも呼ばれる)を取得しました。その後はアメリカのスタンフォード大学に移ってポスドクとして研究を継続しました。1971年(昭和46年)には、研究成果が評価され、電気化学学会にてYoung Author Awardを獲得しています。

さらにその後、Exxon Research & Engineering Companyで働くこととなりました。ここでウィッティンガムはリチウムイオン電池に関する研究をすることとなりました。1970年代に入り、ウィッティンガムはExxonでリチウムイオン電池の開発に成功しました。このリチウムイオン電池は当時世界初の再充電可能な電池でした。

当時のリチウムイオン電池はエネルギー密度が非常に高いものでした。さらに、リチウムイオンの二酸化チタンのカソード(媒質中に入れた一対の電極のうち、外部回路に電流が流れだす電極を指す)への拡散が可逆だったことで、再充電して使用できるようになっていました。そして、二酸化チタンは結晶格子へのリチウムイオンの拡散が非常に速いという性質を有していました。このようなメリットがあったことから、Exxonはリチウムイオン電池の商業化に向けて動きましたが、安全性の観点からプロジェクトは終了に追い込まれてしまいました。

しかしその後もウィッティンガムの研究チームはリチウムイオン電池を広めるべく、電気化学と固体物理学の学術ジャーナルで当該研究を発表し続けました。1984年(昭和59年)には16年間働いたExxonを辞めシュルンベルジェ(世界最大規模のエネルギー開発サービス企業)で1988年(昭和63年)までマネージャーを務めあげました。その後はさらに学びを深めるため、アメリカニューヨーク州のビンガムトン大学の化学部で教授となり研究を続けました。

ウィッティンガムは自身が発明したリチウムイオン電池に関してこのように述べています。

『これらの電池は全てインターカレーション電池と呼ばれる。これはサンドイッチにジャムを入れるようなものです。化学用語を使えば、あなたたちが結晶構造を持っており、私たちがリチウムイオンを入れたり出したりすることができるが、構造はそれ以降も全く同じである。結晶構造を保持する、このことがリチウム電池を非常に良いものにし、長いサイクルを可能にしている』

インターカレーションとは分子や分子集団の隙間に他の元素が浸入する可逆反応のことを指しています。浸入する元素自体はインターカレーターやインターカラントと呼ばれます。

 

スタンリー・ウィッティンガムの生涯(リチウムイオン電池の発明以降の受賞歴と研究)

その後も研究を続け、2003年(平成15年)にはBattery Research Awardを、翌年2007年(平成19年)にはニューヨーク州立大学にてChancellor’s Award for Excellence in Scholarship and Creative Activities, and Outstanding Research Awardを受賞しました。また、2010年(平成22年)にはGreentech Mediaが実施した「グリーンテクノロジーの発展に貢献したトップ40のイノベーター」に選出、2012年(平成24年)にはリチウム電池材料研究に対して大きく貢献したことが評価されIBA Yeager Awardを受賞、翌年2013年(平成25年)には材料研究学会のフェローに選出されました。さらに2015年(平成27年)にはジョン・グッドイナフ(アメリカ合衆国の固体物理学者。ウィッティンガムと同じくリチウムイオン電池の発明に貢献したことで有名な人物である。)と一緒にリチウムイオン電池の開発に繋がる研究を数多く行ったとしてクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞を受賞、2018年(平成30年)にはエネルギー貯蔵材料に対するインターカレーション化学の応用の先駆者として全米技術アカデミーにも選ばれました。

そして2019年(平成31年)、ジョン・グッドイナフや吉野彰(電気化学を専門とする日本人エンジニア。ウィッティンガムと同じくリチウムイオン電池の発明に貢献したことで有名な人物である。)とともに「リチウムイオン電池の開発」でなんとノーベル化学賞を受賞しました。このように数多くの賞を受賞しており、世界中からリチウムイオン電池が高く評価されています。

現在一般的となっているリチウムイオン電池は、遷移金属レドックス中心ごとに可逆的にインターカレートされるリチウムイオンは1つ未満となっています。そのため容量には限界があるという性質があります。そして、エネルギー密度をさらに高めるための方法として挙げられているのが、1電子レドックスインターカレーション反応を超えることです。

ちょうど現在、複数のリチウムイオンをインターカレーションして貯蔵容量の増加を可能とする多電子インターカレーション反応の研究が行われています。そして、ウィッティンガムはLiVOPO4やVOPO4のように複数の多電子インターカレーション材料の開発に成功しています。実際この研究では、多原子価バナジウム陽イオン(V3+<->V5+)が多電子反応を起こす重要な役割を果たしていることが明らかとなってきています。

私たちが常に持ち歩き毎日のように充電するスマートフォンやタブレット、さらに未来の自動車として徐々に普及してきている電気自動車などさまざまな場面で充電式リチウムイオン電池が使用されています。今や私たちの生活には欠かすことのできない発明となっています。

 

今回は充電式リチウムイオン電池を発明し基礎的な技術を広く普及させ、現在もその研究を継続しているアメリカ人化学者のスタンリー・ウィッティンガムの生涯を振り返ってきました。リチウムイオン電池は発明当初から幅広い分野で高く評価され多くの賞を受賞していました。現在では私たちの生活に欠かすことのできないスマートフォンをはじめとする多くの充電式家電製品、そして将来普及していくであろう電気自動車に使用されています。そしてウィッティンガムは、リチウムイオン電池が私たちの生活に欠かすことのできない存在となった今でも、リチウムイオン電池に関する研究を続けてくれています。きっとこの先もリチウムイオン電池の技術は進化していくことでしょう。これからどのように発展していき、私たちの生活がどのように変化していくのかとても楽しみですね!

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