【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 潜水艇を発明した コルネリウス・ドレベル(イギリス海軍のために潜水艇を発明して、公開試験に王様を参加させた無謀な発明家)
2025.04.14
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。潜水艇は、1620年に初めて製造されました。櫂を使って人力で推進力を得る必要があり、実戦投入こそされなかったものの潜水艇の開発が進められるきっかけとなりました。潜水艇を史上初めて発明したのは、オランダの発明家コルネリウス・ドレベルです。彼は潜水艇のほかにも、望遠鏡や顕微鏡などの発明でも知られています。今回はそんなコルネリウス・ドレベルの生涯を振り返っていきましょう。
コルネリウス・ドレベルの前半生(イングランドの宮廷で活躍するが王室の支援を失って没落する)
コルネリウス・ドレベルは1572年、オランダ西部のアルクマールで生まれました。20歳前後の頃はアルクマールのラテン語学校に通い、ハールレムのアカデミーで学びました。芸術に精通する数人の人物から教えを乞い、ドレベルはたくさんの知識を蓄えていきました。
1595年、ドレベルは伴侶を見つけます。彼女はソフィアといい、アカデミー時代の教師であるヘンドリック・ホルツの姉妹でした。ドレベルは4人の子どもを授かり、一家は幸せに暮らしていました。1600年になると、ドレベルはミデルブルフを訪れ、ノールデルポールトの噴水を建造しました。建造プロジェクトを通して、ドレベルは顕微鏡の発明者であるハンス・リッペルハイと、彼の同僚であるツァハリアス・ヤンセンと出会いました。ふたりの人物との出会いはドレベルに刺激をもたらし、光学への興味を抱くことにつながりました。
1604年、ドレベルは新王ジェームズ1世の招待を受けて、一家でイングランドへと移住しました。宮廷と深く関わりを持ったドレベルは、王族から厚い信頼を得ていました。宮廷での仮面舞踏会や、ヘンリー皇太子の宮廷ルネサンスにも関与し、ドレベル一家は経済的な支援を受けていました。しかし1612年にルドルフ2世の逝去、さらにはヘンリー皇太子もこの世を去り、パトロンを失ったドレベルは貧困に陥ることになります。
コルネリウス・ドレベルの後半生(イギリス海軍のために潜水艇を発明する)
1620年、ドレベルはイギリス海軍のために潜水艇を製造しました。数学者ウィリアム・ボーンが1578年に作成した設計図をもとにして、木製の操縦可能な潜水艇を発明したのです。この潜水艇は史上初の航行可能な潜水艇として知られています。この発明のあと、4年の歳月をかけて2隻の潜水艇を建造しました。最後に作成したモデルは16人が乗り込めるほどの大きさで、6本の櫂が備えられていました。
このモデルは、ジェームズ1世と彼の治世のもとで暮らす数千人の市民の前で公開試験が行われました。水中に滞留する時間は3時間以上を記録し、ウェストミンスターからグリニッジの間の距離を深度4〜5mを維持したまま往復することができました。この試験に、ドレベルはなんと国王ジェームズ1世を同行させたのです。もし万が一事故が起ころうものなら、ドレベルへの処分が非常に重いものとなります。しかし試験が無事に終わり、ジェームズ1世は世界で初めて水中を旅した君主となりました。ドレベルの潜水艇はテムズ川で幾度となくテストが行われ、国王や国民に非常に高い関心が生まれました。とはいえ、あくまでこの潜水艇は旅行用としての側面しかアピールできませんでした。海軍からの興味を引くことはできず、実戦投入はされませんでした。
水中にいる間、人間が活動するためには艇内で空気を確保する方法を見つけなくてはなりません。ドレベルは硝酸カリウムないし硝酸ナトリウムを熱することで酸素を作るという方法で、潜水艇の中の空気を確保しようとしました。硝酸カリウムや硝酸ナトリウムを加熱すると、カリウムないしナトリウムの酸化物または水酸化物が発生し、それが二酸化炭素を吸収すると考えられます。この操作によって酸素を得る仕組みは、ドレベルの時代から3世紀後にリブレーザー(吐息に含まれる二酸化炭素を吸収し酸素を生み出せる呼吸装置)という形で実現することになります。つまりドレベルは、二酸化炭素から酸素を発生させる仕組みを3世紀も先んじて実現していたことになるのです。彼の化学的な知識は、錬金術師のミカエル・センディヴォギウスに師事していたときの経験がもとになっていると考えられます。
ドレベルはまた、鶏の孵卵器と水銀サーモスタットや温度計などの発明、さらには空調システムの実験を行いました。彼の科学に対する貢献度は大きく、月の南半球にあるクレーターには彼の名前が付けられました。1633年、ドレベルはロンドンでこの世を去りました。
今回は、史上初の航行可能な潜水艇を発明したコルネリウス・ドレベルの生涯を振り返りました。軍艦のひとつとしてよく利用される潜水艇ですが、軍需だけでなく民間・個人で使用されるものや商用のものも生み出されました。潜水艇の中で空気を確保する方法を見つけるなど、科学を進歩させる発見をした功績も残しました。現代でも使われているものの発明の歴史は面白いものですね。