韓国の審査猶予制度は、2026年の改正により審査時期の変更・取下げが柔軟になり、出願戦略の自由度が大きく向上します。
韓国の知識財産処は、2026年5月14日から、特許・実用新案の審査猶予制度(遅延審査制度)について、出願人が希望した審査時期をより柔軟に変更できるようにする改正特許・実用新案法施行規則を施行すると発表しました。
今回の改正により、審査官がまだ審査に着手していない場合には、審査猶予の希望時点をいつでも変更でき、審査猶予自体を取り下げることも可能となります。
- 韓国の審査猶予制度は、事業化時期等に合わせて審査時期を遅らせる制度
- [改正前]審査猶予申請から2か月を過ぎると希望時点の変更ができなかった
- [改正後]2026年5月14日以降、審査着手前であれば、猶予希望時点の変更・取下げが可能に
- 韓国出願における審査タイミング戦略の自由度が高まる
1. 韓国の審査猶予制度とは
韓国の審査猶予制度とは、出願人が、製品の発売時期や事業化時期などに合わせて、通常審査よりも遅いタイミングで特許審査を受けることができる制度です。
特許出願では、製品の上市時期や市場投入のタイミングに合わせて、適切な権利範囲を設定することが重要となる場面があります。韓国では、このようなニーズに対応するため、2008年から審査猶予制度が運用されています。
審査猶予を利用すると、出願後最大5年まで審査時期を遅らせることができるため、事業計画や製品開発の進捗を見ながら、権利化のタイミングを調整しやすくなるというメリットがあります。
【韓国語原文】
이번 개정으로, 심사관이 심사에 착수하지 않았다면 언제든지 신청했던 유예 심사시점을 앞당기거나 늦출 수 있고, 심사유예 자체를 취하할 수도 있게 된다.
【機械翻訳】
今回の改正により、審査官が審査に着手していなければ、いつでも申請していた猶予審査時点を前倒しまたは後ろ倒しすることができ、審査猶予自体を取り下げることもできるようになる。
2. 改正前の問題点
従来の制度では、審査猶予を申請した後、2か月が経過すると、出願人は希望した猶予審査時点を変更することができませんでした。
そのため、審査猶予を申請した後に、製品発売時期の前倒し、事業計画の変更、市場環境の変化などが生じた場合であっても、審査時期を柔軟に調整することが困難でした。
この点について、知識財産処は、従来制度では審査時期を前倒しまたは後ろ倒しする必要が生じても変更できず、審査猶予制度を活用しにくいとの意見があったと説明しています。
3. 2026年5月14日施行の改正内容
今回の改正により、審査官が審査に着手していない場合には、出願人はいつでも申請済みの猶予審査時点を変更できるようになります。
具体的には、以下の対応が可能となります。
-
猶予審査時点を早める
製品発売時期が前倒しになった場合などに、審査タイミングを前倒しできます。 -
猶予審査時点を遅らせる
事業化時期が後ろ倒しになった場合などに、審査時期を再調整できます。 -
審査猶予申請自体を取り下げる
審査猶予をやめて、通常の審査進行に戻すことができます。
これにより、韓国出願において、出願後の事業環境の変化に応じた審査タイミングの調整がしやすくなります。
| 項目 | 改正前 | 改正後 2026年5月14日施行 |
|---|---|---|
| 猶予審査時点の変更 | 審査猶予申請から2か月を過ぎると変更不可 | 審査官が審査に着手していなければ、いつでも変更可能 |
| 審査時期の前倒し | 申請後2か月経過後は対応困難 | 審査着手前であれば、猶予審査時点を前倒し可能 |
| 審査時期の後ろ倒し | 申請後2か月経過後は対応困難 | 審査着手前であれば、猶予審査時点を後ろ倒し可能 |
| 審査猶予の取下げ | 申請後2か月経過後は取下げ不可 | 審査官が審査に着手していなければ、審査猶予自体の取下げが可能 |
| 実務上の影響 | 市場状況や製品発売時期が変わっても、審査タイミングを調整しにくい | 事業スケジュール変更に応じた審査タイミングの再調整がしやすくなる |
表1:韓国審査猶予制度における改正前後の比較
4. 審査猶予制度の主な内容
申請期間
審査猶予の申請は、審査請求日から9か月以内に行う必要があります。
ただし、分割出願、変更出願、無権利者に対抗した正当な権利者による出願、優先審査決定がなされた出願については、審査猶予を申請することができません。
猶予可能期間
特許については、審査請求日から2年後から、出願日から5年までの期間内で、審査を受けたい時点を選択できます。
実用新案については、出願日から3年までが猶予可能期間とされています。
審査請求料納付の先送り
審査請求と同時に審査猶予を申請した場合、猶予希望時点の2か月前まで、審査請求料の納付を延期することが可能です。(特許料等の徴収規則第8条第4項)
通常審査の場合には、審査請求の受付番号が付与された翌日までに審査請求料を納付する必要があるため、この点も審査猶予制度の特徴といえます。
審査結果の提供時期
審査猶予を申請した場合、出願人が指定した猶予希望時点から12か月以内に、審査結果、すなわち意見提出通知書が提供されるとされています。
- 2023年:1,367件
- 2024年:2,110件
- 2025年:2,716件
韓国における審査猶予制度は、出願人に一定程度利用されてきた制度であり、今回の改正により、変更・取下げの柔軟性が高まることで、今後さらに活用しやすくなることが期待されます。
5. 日本の特許実務者が押さえるべきポイント
日本企業が韓国に特許出願を行う場合、韓国での審査タイミングは、単なる手続上の問題にとどまりません。
製品の上市時期、競合製品の動向、ライセンス交渉、標準化対応、事業撤退・継続判断など、さまざまな事業判断と関係します。
今回の改正により、韓国出願では、一度審査猶予を選択した後でも、審査着手前であれば審査時期を再調整できるため、審査猶予制度をより積極的に検討しやすくなります。
特に、以下のような案件では、韓国の審査猶予制度の利用可能性を検討する価値があります。
- 製品化時期がまだ確定していない案件
- 市場投入時期に合わせて権利範囲を調整したい案件
- 事業化判断を待ってから審査を進めたい案件
- 韓国市場での権利化タイミングを戦略的に管理したい案件
6. まとめ
韓国の審査猶予制度は、事業化時期に合わせて審査時期を調整できる有用な制度です。
今回の改正により、従来のように申請後2か月を過ぎると変更できないという制約が緩和され、審査官が審査に着手していない限り、猶予希望時点の変更や取下げが可能となります。
韓国出願を扱う日本の特許事務所・企業知財部にとっては、韓国での権利化タイミングを事業戦略に合わせて調整するための選択肢が広がったといえます。
今後、韓国出願について審査請求を行う際には、通常審査、優先審査だけでなく、審査猶予制度の活用も含めて、出願ごとの事業上の位置づけに応じた審査戦略をより柔軟に検討できるようになります。
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