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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 水銀気圧計を発明した エヴァンジェリスタ・トリチェリ(ガリレオ・ガリレイに弟子入りして「真空」を発見したルネサンス時代の天才物理学者)

IP HACK

2024.10.28

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。真空とは、空気のない状態を指す言葉です。日本産業規格 (JIS)では「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間内の状態」と定義されています。古来、真空の存在については議論が交わされてきました。紀元前5~4世紀ごろ、レウキッポスとデモクリトスは自然を構成する分割不可能な最小単位である原子(アトム)が空虚(ケノン)の中で運動していると説き、一方でアリストテレスは空間の中には必ず物質が充満していると考えました。このような議論に決着がついたのは、17世紀の中ごろです。試験管と水銀を使った実験により、真空の存在が証明されました。この実験を行ったのは、イタリアの物理学者エヴァンジェリスタ・トリチェリです。彼は真空を見つけたことをきっかけに、気圧に関するさまざまな性質を発見しました。今回はそんなエヴァンジェリスタ・トリチェリの生涯を振り返っていきましょう。

エヴァンジェリスタ・トリチェリの前半生(ガリレオ・ガリレイに弟子入りして「真空」を発見する)

エヴァンジェリスタ・トリチェリは1608年、フィレンツェで生まれました。実家は織物業を営んでおり、長男のトリチェリは家督の承継を期待されていました。幼いころはイエズス会の学校で数学を学び、卒業後はローマに出て、数学者ベネデット・カステリの秘書を務めました。カステリはガリレオ・ガリレイの弟子であり、彼もまたガリレイの才能に惹かれた人物の1人でした。トリチェリもまた、ガリレイの凄さを目の当たりにし、やがてガリレイに憧れていきます。

その後、トリチェリは投射体運動の問題について研究し、論文を発表しました。この研究がガリレイの目に留まり、トリチェリに興味を持ったガリレイは直々に研究室にトリチェリを招きました。トリチェリは誘いを受けて、ガリレイの弟子となることを決めたのです。トリチェリがガリレイの元を訪れたのは、1641年のこと。それから2人は共同研究を始めますが、それも長くは続きませんでした。ガリレイは過去の研究の影響で視力を失っていました。さらに地動説の裁判にかけられ、釈放された後も不自由極まりない生活を送っていたために体力は衰弱しており、トリチェリが弟子になったわずか数ヶ月後にこの世を去ることになるのです。

ガリレイの死後、トスカーナ大公フェルディナンド2世からピサ大学に招かれ、数学の教授に任命されました。1643年、トリチェリは「真空」を発見しました。古代ギリシア時代、空間の中にはなんらかの物質が充満していると考えられ、真空の存在は否定されていました。17世紀に入るまで誰も真空の存在を証明できず、「空気のない状態」というものは自然界に存在しえないとさえ考えられていたのです。

真空を発見するきっかけとなったのは、井戸の水を汲み上げる時の仕組みです。10mもの深い位置にある水を汲み上げるには、ポンプを使う必要がありました。ガリレイは空気に重さがあることを証明しており、トリチェリはそこからさらに発展して、空気の重さによって生じる大気圧で水が押され、汲み上げられているという仮説を立てたのです。

この仮説を証明するため、トリチェリが行った実験は、片方だけふたの開いたガラス管と容器のそれぞれに水銀を満たし、ガラス管を容器の中で垂直に立てるとガラス管の中にわずかな空間が発生するというものでした。この空間は「トリチェリの真空」と呼ばれ、のちに真空についての研究が行われるきっかけとなりました。このためトリチェリは、水銀気圧計の発明者ともされており、圧力の単位トル (Torr) はトリチェリの名にちなんでいます。

エヴァンジェリスタ・トリチェリの後半生(液体の流出速度に関する「トリチェリの定理」を発見する)

「トリチェリの真空」の発見から2年後、トリチェリは流体に関する大発見である「トリチェリの定理」を発見します。これは液体を入れた容器の側面に小さな穴を開けたときに液体が外に流れ出る速度に関する定理です。この定理を利用して、1934年にタンクの容量に貯めた液体を常に一定量で流出させられる「マリオット瓶」が作られました。

トリチェリはまた、幾何学に関する研究でも有名です。中でも「ガブリエルのホルン」と呼ばれる図形は、有限と無限が結びつく図形として知られています。この現象は神の存在になぞらえて、大天使ガブリエルの名前が用いられました。無限と有限が両立するこの図形に関して、いくつものパラドックスが議論の対象となっています。

トリチェリは数学、幾何、物理の領域でいくつもの重要な発見を成し遂げました。しかしその生涯は非常に短いものでした。腸チフスに罹ったトリチェリは、39歳の若さでこの世を去ったのです。

今回は、真空を世界で初めて発見した数学者エヴァンジェリスタ・トリチェリの生涯を振り返りました。数学の知識が豊富にあり、短いながらもガリレオ・ガリレイのもとで修行をした彼の発見は、科学の大きな発展に貢献しました。39年という短い人生の間に、歴史に残るほどの大発見をいくつももたらした彼の功績は素晴らしいものです。私たちも、日々研鑽を繰り返して、もし短い人生になろうとも充実した生活を送りたいものですね。

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