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私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。天体望遠鏡は、名前の通り天体観測を行うための望遠鏡です。その歴史は長く、古くは目に見える光を捉えるための望遠鏡がほとんどでした。やがて研究が進み、目に見えない光も捉えられる望遠鏡が開発されていきました。天体の研究といえば、天文学者はもちろん物理学者や哲学者など、多くの研究家たちが解明に挑み続けた大きなテーマです。そんな中で、自分の目で天体の動きを観察できる望遠鏡はまさに画期的な大発明でした。天体望遠鏡の中でも有名なのが、イギリスのグリニッジ展望台に設置されている望遠鏡です。この展望台を設計したのが、アイルランド出身の技術者であるハワード・グラッブです。彼は父親が立ち上げた天体望遠鏡メーカー「グラッブ商会」の一員として働き、高い技術力でさまざまな天体望遠鏡の設計を手がけました。今回はそんな、ハワード・グラッブの生涯を振り返っていきましょう。

ハワード・グラッブの前半生（イギリスのグリニッジ展望台にある28インチの天体望遠鏡を設計する）

ハワード・グラッブは1844年、アイルランドのダブリンで生まれました。父トーマス・グラッブは天体望遠鏡メーカーであるグラッブ商会の創設者です。グラッブには7人の兄弟がおり、幼い頃から光学に触れてきました。幼少期を父親の元で過ごし、青年期には土木工学を学びました。

1864年、グラッブも商会に加わり、天体望遠鏡の設計を始めました。小さな頃から光学の知識や望遠鏡の設計に触れていたことに加え、学校で専門的な土木工学を学んだことからグラッブには設計の確かな基礎が身についていました。彼の設計は非常に品質が高く、天体望遠鏡の製作者としての評価も高いものでした。

彼の設計の中でも大きなものが、イギリスのグリニッジ展望台にある28インチの天体望遠鏡です。グリニッジ天文台は、1675年にイングランド国王のチャールズ2世が設立しました。建設の背景にあったのは、航海中の船が現在地を割り出すための経度を測定する必要があったことです。15世紀後半、世の中は大航海時代を迎えていました。各国が海外進出を競う中、イングランドも海洋国家として他国に差をつけようとしていたのです。航海中に現在地と方向を見失わないようにするためには、緯度と経度の測定が不可欠でした。緯度は北極星の位置と角度から割り出せますが、経度は正確な時刻を把握しなくてはなりません。そこで本初子午線となるグリニッジ天文台を建設して、時刻の基準を作ったのです。

ハワード・グラッブの後半生（イギリスの大手望遠鏡メーカーの「グラッブ・パーソンズ社」で活躍する）

1925年、グラップ商会は蒸気タービンの発明で知られるチャールズ・アルジャーノン・パーソンズに買収され、「グラッブ・パーソンズ社」として生まれ変わります。第一次世界大戦中は、イギリス軍にも協力的な姿勢を見せました。望遠鏡の開発が相変わらずメインでしたが、銃や火砲などの照準を合わせるための照準器や潜水艦が海上の様子を観察するための潜望鏡なども手がけました。

現代においても、グラップ・パーソンズはイギリスの大手望遠鏡メーカーとして活躍しています。光学レンズ及び光学反射鏡、そしてイギリス式赤道儀の大型メーカーとして知られ、現在は天文台活動を停止し博物館となっているグリニッジ天文台用の観測機器なども製作しました。

グラッブの設計した望遠鏡には、1878年に設計されたウィーン天文台の27インチ望遠鏡、1882年に設計されたアーマー天文台の10インチ屈折望遠鏡などもあり、いくつかは現在も使用されています。

グラッブの技術力の高さは、自然とイギリス王室の耳にも入るようになりました。高名な設計者となったグラッブを讃える声も多く、1883年には王立協会のフェローに、1970年には王立天文学会の会員に選出されました。1887年にナイトを叙勲し、ダブリン王立協会の会長も長い間勤めました。名誉事務局長や副会長も兼任し、引退するまで多忙を極めました。

今回は、天体望遠鏡の設計で大きな功績を残したハワード・グラッブの生涯を振り返りました。イギリスのグリニッジ天文台といえば、経度の基準となる本初子午線が通る場所に建てられた時計台として有名です。望遠鏡は現在動いていないので、その設計者について知っている方は少ないのではないでしょうか。時刻を正確に把握する概念が生まれた大航海時代、その歴史は人類が世界とつながる大きなきっかけとなりました。世界的な名所の歴史的背景を調べてみると、より人類の歩みを深く知ることができて面白いですね。