日本の特許審査における拒絶理由通知に対しては、応答期間の延長が可能です。
日本国内居住者(在内者)は審査段階では合理的理由なしに2ヶ月の延長が認められており、仮に期間を経過した後でも一定の条件下で延長請求が可能です。
一方、審判段階(拒絶査定不服審判)では運用が異なり、在内者は延長には合理的理由が必要であるなど、審査段階と比べて制約が大きくなります。
本記事では、在内者を対象として、拒絶理由通知の応答期間の延長に関する現行運用を、審査段階と審判段階とに分けて整理します。
- 審査段階の応答期限:
在内者は1回の延長請求で2ヶ月延長(理由不要・手数料2,100円)
期間経過後も2ヶ月以内なら延長請求可能(手数料51,000円) - 審判段階の応答期限:
延長には合理的理由(対比実験)が必要、最大1ヶ月・1回のみ
期間経過後の延長請求”不可” - 拒絶査定不服審判の請求期間(3ヶ月)は延長できない
1. 拒絶理由通知の応答期間(基本情報)
特許庁から発送された拒絶理由通知を受領した場合、出願人は所定の期間内に意見書や補正書を提出して応答する必要があります。この応答期間は、出願人が国内居住者(在内者)であるか在外者であるかによって異なります。
| 段階 | 国内居住者(在内者) | 在外者 |
|---|---|---|
| 審査段階の拒絶理由通知 | 60日 | 3ヶ月 |
| 審判段階の拒絶理由通知 | 60日 | 3ヶ月 |
表1:拒絶理由通知の応答期間(当初指定期間)
次に掲げる書類等の提出についての指定期間は、特許及び実用新案に関しては60日、意匠(…)及び商標(…)に関しては40日とする。
ア.意見書(特50条…)
2. 審査段階における応答期間の延長
+
2ヶ月
+
2ヶ月
審査段階の拒絶理由通知については、在内者であっても合理的理由なしに応答期間の延長が認められています。以下、期間満了前の延長と、期間経過後の延長に分けて整理します。
期間満了前の延長請求
応答期間の満了前に期間延長請求書を提出することで、1回(1通)の請求で2ヶ月の延長が認められます。
- 延長可能期間:2ヶ月(1回の請求で)
- 合理的理由:不要
- 手数料:2,100円(1通)
- 請求回数:1回のみ
在内者の場合、延長請求に合理的理由は不要であり、期間延長請求書を提出するだけで2ヶ月の延長が認められます。
出願人が国内居住者の場合
1通の請求で応答期間の2か月延長が認められます。請求のための合理的理由は不要です。手数料は、これまでどおり2,100円です。
期間経過後の延長請求
現行運用では、応答期間の経過後であっても延長請求が可能です。万が一応答期限を徒過してしまった場合にも、一定の条件下で救済が可能です。
- 延長請求可能な期間:当初の応答期間の末日の翌日から2ヶ月以内
- 延長される期間:当初の応答期間の末日の翌日から2ヶ月
- 合理的理由:不要
- 手数料:51,000円
- 請求回数:1回のみ
注意:以下の場合には、期間経過後の延長請求はできません。
- 期間満了前の延長請求が認められている場合(つまり、期間満了前と経過後の両方の延長は受けられない)
- 当初の応答期間内に意見書又は補正書を提出した場合
期間経過後の延長請求の手数料は51,000円と高額です。実務上は、あくまで期間徒過時のセーフティネットとして位置づけ、計画的に期間満了前の延長請求(2,100円)を利用するのが望ましいといえます。
拒絶理由通知の当初応答期間の経過後であっても、当該応答期間の末日の翌日から2か月以内に請求をすれば、出願人が国内居住者である場合及び在外者である場合のいずれも、1通の請求で当初応答期間の2か月延長が認められます。請求のための合理的な理由は不要です。また、当該期間延長請求を行う際には、51,000円の手数料が必要となります。
ただし、(1)の延長が認められたときは、応答期間経過後の延長請求はできません。また、当初の応答期間内に意見書又は補正書を提出した場合は、応答期間経過後の延長請求はできません。
3. 審判段階における応答期間の延長
+
1ヶ月
(1回のみ)
拒絶査定不服審判請求後(前置審査中を含む)に拒絶理由通知を受けた場合、その応答期間の延長については、審査段階とは異なる運用がなされています。在内者にとっては審査段階と比べて延長の条件が厳しくなりますので、注意が必要です。
在内者が利用できる延長
- 延長可能期間:最大1ヶ月(1回のみ)
- 合理的理由:必要(対比実験のみ)
- 手数料:2,100円
- 期間経過後の延長:不可
審判段階では、在内者が延長を受けるための合理的理由は「拒絶理由通知書等で示された引用文献に記載された発明との対比実験データの取得」のみに限定されています。在外者であれば「手続書類の翻訳」も認められますが、在内者にはこの理由は適用されません。
また、「都合により」等を理由とする延長請求は不適切とされており、「対比実験」の必要性に疑義がある場合は事情を確認されることがあります。これまでに延長請求が認められなかった例もあるとされていますので、十分な余裕をもって手続を進める必要があります。
「都合により」等を理由とする延長請求は不適切です。また、「対比実験」の必要性に疑義がある場合、事情を確認させていただくことがあります。
(参考)拒絶査定不服審判の請求期間は延長不可
→
延長不可
なお、拒絶査定を受けた場合の拒絶査定不服審判の請求期間(在内者:3ヶ月、在外者:4ヶ月)については延長ができません(審判便覧25-04)。応答期間の延長とは異なり、そもそも拒絶査定不服審判の請求期間自体は法定期間であり、運用上、職権による延長もされません。
4. 審査段階 vs 審判段階 比較まとめ
審査段階では、応答期間内に検討が間に合わない場合でも、期間延長請求書を提出するだけで2ヶ月の延長が得られるため、積極的に活用できます。特に、検討時間、実験成績証明用のデータ取得のための有効なツールとなります。
一方、審判段階では対比実験の必要性が認められなければ延長は認められず、期間徒過後の救済もありません。審判段階の拒絶理由通知は、審査段階と比べてより厳格な期限管理が求められます。
在内者(国内居住者)にとっての、拒絶理由通知の応答期間延長に関する運用を審査段階と審判段階で比較すると以下の通りです。
| 審査段階 | 審判段階 (前置審査含む) |
|
|---|---|---|
| 当初の応答期間 | 60日 | 60日 |
| 期間満了前の延長 | 2ヶ月(1回) | 最大1ヶ月(1回) |
| 合理的理由 | 不要 | 必要(対比実験のみ) |
| 期間経過後の延長 | 可(2ヶ月) | 不可 |
| 手数料(満了前) | 2,100円 | 2,100円 |
| 手数料(経過後) | 51,000円 | ─ |
| 最長応答期間 | 約4ヶ月 (60日+2ヶ月) |
約3ヶ月 (60日+1ヶ月) |
表2:在内者の応答期間延長:審査段階 vs 審判段階
5. 早期審査・スーパー早期審査・早期審理と応答期間延長の関係
早期審査等の対象となっている案件で拒絶理由通知を受けた場合、応答期間の延長請求は制度上可能ですが、延長を請求することで早期の取り扱いを失う場合がある点に注意が必要です。制度ごとに取り扱いが異なりますので、以下に整理します。
| 制度 | 延長請求の可否 | 延長請求した場合の影響 |
|---|---|---|
| 早期審査 | 可能 | 早期審査の対象のままだが、延長請求の抑制に協力するよう要請あり |
| スーパー早期審査 | 可能 | その時点でスーパー早期審査の対象外となる |
| 早期審理 (審判段階) |
可能 | 通常の事件として扱われることとなる |
表3:早期審査等と応答期間延長の関係
早期審査
早期審査の対象案件で拒絶理由通知を受けた場合、応答期間の延長請求は可能であり、延長しても早期審査の対象から外れるわけではありません。ただし、特許庁は早期に審査が進められるよう、延長請求の抑制への協力を求めています。
可能ですが、早期に審査がすすめられるよう、応答期間の延長請求の抑制にご協力ください。(ガイドラインII. 6.(3))
スーパー早期審査
スーパー早期審査の対象案件では、応答期間の延長を請求した場合、その時点でスーパー早期審査の対象外となります。スーパー早期審査は申請から最終処分までの期間短縮を目的とする制度であるため、早期審査よりも厳格な扱いがなされています。
申請から最終処分までの期間を短縮するというスーパー早期審査制度の趣旨に鑑みて、応答期間の延長請求を行った場合は、その時点でスーパー早期審査の対象外となります。
早期審理(審判段階)
早期審理の対象として選定された案件で拒絶理由通知を受け、応答期間の延長を請求した場合、当該案件は通常の事件として扱われることとなります。審判段階ではそもそも延長の要件が厳しいこと(対比実験の合理的理由が必要)に加え、早期審理の利益も失われるため、延長請求の判断はより慎重に行う必要があります。
6. よくあるご質問(FAQ)
※本記事の内容は、記事作成時点の情報および法令に基づいています。正確な情報の提供に努めておりますが、内容の完全性・正確性を保証するものではなく、本記事の内容に関して生じた損害等について一切の責任を負いません。個別の事案については必ず弁理士等の専門家にご相談の上、手続きを進めていただくよう強く推奨いたします。


