【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ベアリングの発明家 スヴェン・ヴィンクヴィスト(世界的に有名なベアリングのメーカーであるSKF社の創業者)
2024.05.17
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。SKF社は、ベアリング産業で世界最大手のポジションを獲得した大企業です。世界130カ国で事業を展開する総合機械メーカーであり、現代でもその活躍は止まることを知りません。ボールベアリングやローラーベアリングの製造で知られるこの会社の設立者の1人が、スウェーデンの技術者だったスヴェン・ヴィンクヴィストです。彼はこの会社の創設のほか、1907年に複列自律調整ラジアル・ボールベアリングを開発したことでも知られています。物質を回転させてエネルギーを生み出す手法は今でこそ一般的なものとなっていますが、過去には実用化に至るまでの試行錯誤がありました。その過程の中で生まれたのが、機械の回転を助けるための「軸受(ベアリング)」です。軸受があることによって機械の軸が滑らかに回転し、スムーズな回転機構の実現が可能となりました。そんな軸受の製造で大きな活躍を残したスヴェン・ヴィンクヴィストの生涯を振り返っていきましょう。
スヴェン・ヴィンクヴィストの前半生(単列自律調整ボールベアリングで特許を取る)
スヴェン・ヴィンクヴィストは1876年、スウェーデン・オレブロのハルスベリで生まれました。父親は駅の検札係を営むS. D. ヴィンクヴィスト、母親はアンナ・ルンドベリです。両親はヴィンクヴィストを学校に通わせ、教養を身につけさせました。1894年にオレブロのオレブロ技術初等学校を卒業し、1899年からはヨーテボリのガムレスターデン織物工業で操作技師として働きました。
ヴィンクヴィストはこの会社に入ると、機械のベアリングが故障する問題に度々遭遇しました。色々な調査を行ったところ、粘土質の地質が原因だったことが判明。柔らかい立地は、ドライブシャフトの振動に耐えきれず、それがベアリングサポートにも影響を与えていたのです。振動がほんのわずかなズレを生み、当時使用していた堅いベアリングに余分な力が入っていました。
この問題を発見し、解決に導いたヴィンクヴィストは、周りから大きく評価されることになります。本人もこの一件をきっかけに、回転する機構を強固にするためのアイデアを探し始めました。ボールベアリングに関するヨーロッパ中の文献を探し、さまざまな分野の技術資料を参考にしました。そんな中、一つの文献が彼の目に留まりました。
それは1902年に発表された、ボールベアリングに関する論文です。ドイツ・ドレスデンの工科大学で発表されたもので、科学的知見からボールベアリング機構を研究した論文でしたが、ヴィンクヴィストはこの論文から、ボールベアリング技術にはさらなる進化の余地があることに気がつきました。
ヴィンクヴィストは自分の考えを立証するため、ボールベアリングの研究を行う小さな工場を立ち上げました。異なる設計や鋼鉄素材のテストを行い、1906年には「単列自律調整ボールベアリング」として形を残しました。この発明で特許を取得したものの、大きすぎる軸荷重には耐えきれないという欠点は拭いきれませんでした。ヴィンクヴィストはこれで満足せず、ある程度の軸荷重に耐えられる自律調整ボールベアリングが開発できるまで研究を続けました。
スヴェン・ヴィンクヴィストの後半生(SKF社を設立して、複列自律調整ラジアル・ボールベアリングの特許を取得する)
1907年、ヴィンクヴィストはガムレスターデン織物工業の所有者とともに、SKF社を設立。当初はガムレスターデン織物工業の子会社という立ち位置でした。ヴィンクヴィストは技術部長と同時に取締役に任命され、現場と経営の両方を担いました。
設立からまもなく、ヴィンクヴィストは「複列自律調整ラジアル・ボールベアリング」の特許を出願します。この特許が認められると、今度はフランスやドイツ、アメリカなど10ヶ国に特許を出願すると、すべての国で認められました。これにより、SKF社は全世界に進出していきました。ヨーテボリに新しい工場が竣工すると、SKF社は世界中の多くの国々に販売会社と製造工場を立ち上げました。最初の海外工場は1911年、イギリスのルートンに建設されました。
ヴィンクヴィストは1919年から1932年にかけて、SKF社の外部コンサルタント技師、および非常勤CEOを務めました。1932年以降はボフォース社取締役やスウェーデン航空エンジン社などでもCEOを務め、存分にその辣腕を振るいました。1953年、彼はその偉大な生涯に幕を下ろしました。
今回は、ボールベアリングやローラーベアリングの発明・およびこれらを製造するSKF社の創設者として知られるスヴェン・ヴィンクヴィストの生涯を振り返りました。軸受は現代でも使用される機構であり、回転する機械の補助となる部品のひとつです。スヴェン・ヴィンクヴィストの活躍によって、工学が大きな発展を遂げたのは間違いないでしょう。私たちが普段何気なく使っている機械の裏側にも、先人の努力があったことは忘れないようにしたいものですね。