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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 自動車の発明家 ジークフリート・マルクス(ユダヤ人だったのでナチスによって記録を抹消された発明家)

2024.04.01

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。自動車は、手軽に遠くの場所まで人間を運ぶ乗り物として実用化されています。公道では多くの車が走り、通勤手段として活用されたり、物流の一助として活用されたりしています。プライベートな場面でも、自動車を運転して遠い場所まで旅行に行ったり、普段は足が向かないような場所を訪れたりと、生活の中で自動車は大きな役割を担っています。そんな自動車は、これまでさまざまな人や企業が開発に取り組んできました。古くは馬車や蒸気機関を使っていた中世の時代、そこから技術は進化して、ガソリンやディーゼルで動く自動車が発明されました。現在、自動車製造の最先端をいく都市といえば、ドイツを想像する方も多いでしょう。メルセデス・ベンツやBMW、アウディといった高級車ブランドはドイツ製であり、日本でも根強い人気を誇っています。そんなドイツの自動車産業を発展させたと言われる人物が、ジークフリート・マルクスです。彼は自動車開発技術のパイオニアとして高い地位を獲得しながらも、ナチス・ドイツによって歴史から名前を消されてしまいます。今回はそんな、ジークフリート・マルクスの生涯を振り返っていきましょう。

ジークフリート・マルクスの前半生(ガソリンを使って動力を得る自動車を発明して成功する)

ジークフリート・マルクスは1831年、メクレンブルク=シュヴェリーン自由国(現在のメクレンブルク=フォアポンメルン州)・マルヒーンで、ユダヤ系の家庭に生まれました。幼少期はマルヒーンで過ごし、技術の勉強をしていきました。1852年になるとオーストリアのウィーンに移住し、製造業者として働き始めます。1856年からは独立し、科学装置を製作する業者として働きました。このときマルクスは電気に興味があり、電気技師としても活動していました。マルクスは電信システムやダイナマイト・プランジャーを改良するなど、電気に関する発明を数多く行いました。

1870年ごろ、マルクスは内燃機関を単純な荷車に搭載しました。ガソリンを使って動力を得る自動車はこれが世界初の発明だと言われています。液体の燃料を使うこの自動車は「第一マルクスカー」と呼ばれ、自動車の始祖として知られています。

1883年、ドイツでマグネット型の低電圧点火装置の特許を取得しました。これを1888年の「第2マルクスカー」やその後のエンジンに活用しました。第2マルクスカーは点火装置と「回転ブラシキャブレータ」の組み合わせが斬新なアイデアとして評価され、高い人気を獲得しました。

1887年になると、モラヴィアの企業「メルキ・ブロモフスキー&シュルツ Märky, Bromovský & Schulz」と共同で開発事業に乗り出し始めました。ニコラウス・オットーの特許が切れると同時に2ストロークエンジンを、そしてマルクスの4ストロークエンジンを販売し、大きな成功を手にしました。

「第二マルクスカー」は、1888年から1889年の間の一年間に製作されました。当時の現物は、ウィーン産業博物館に展示されています。この展示により、マルクスが発明した自動車は世界的にも有名になりました。

ジークフリート・マルクスの後半生(ユダヤ人だったのでナチスによって記録を抹消される)

マルクスは、生涯において16ヶ国で131もの特許を取得しています。しかし、自動車に関する特許は取得していません。意外なことに、自分が自動車を発明したと主張した記録も残っていないのです。マルクスカーは世界で知られる自動車ではあるものの、作り手としてのアピールをしなかったのは何か理由があるのかもしれません。

マルクスは1898年に息を引き取り、遺体はウィーンに埋葬されました。最初はプロテスタントの墓地に、その後ウィーン中央墓地に移されました。マルクスはユダヤ人だったため、ナチスからの迫害を受けていました。彼の生きた記録は、ナチスによって抹消されてしまいます。ウィーン工科大学には彼の記念碑が建立されていましたが、ナチスによって撤去されました(この記念碑は後に再建されています)。

第二次世界大戦中には、ドイツ軍によって自動車の発明者はマルクスではなくダイムラーやベンツに書き換えられました。しかし時代が過ぎるとともに、自動車を発明した真の人物が明らかになっていきました。

今回は、人類初の自動車を発明した人物であるジークフリート・マルクスの生涯を振り返りました。ガソリン車やディーゼル車がなければ、私たちの生活はもっと不便なものになっているでしょう。車の歴史に興味がなければ名前を聞かない人物かもしれませんが、たまにはこのような発明家にスポットを当ててみるのも面白いですね。

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