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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー アスピリンやヘロインなどの発明家 フェリックス・ホフマン(ドイツの製薬会社「バイエル」で大活躍した化学者)

2024.03.25

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。アスピリンやヘロインなどの鎮痛剤は、ドイツの製薬会社「バイエル」が製造・販売している薬品です。痛みに対して効果を発揮するこれらの薬品は、風邪や病気などの症状を緩和させることで人々に寄り添ってきました。現在でも痛み止めとして処方されることがあるため、使用した経験のある方もいるでしょう。アスピリンやヘロインを発明したのは、「バイエル」の研究化学者として活躍したドイツのフェリックス・ホフマンです。彼の発明によって多くの人々が苦痛から逃れることができました。その功績を讃えられ、ホフマンは歴史に名を残しています。今回はそんなフェリックス・ホフマンの生涯を振り返っていきましょう。

フェリックス・ホフマンの前半生(バイエル社に入社してアスピリンを発明する)

1868年、フェリックス・ホフマンはドイツのルートヴィヒスブルクで生まれました。生家は実業家を営んでおり、経営に関する知識は小さいころから染み付いていました。1889年、ホフマンは薬学の勉強のためにルートヴィヒ・マクシミリアン大学に入学します。学校生活では優秀な成績を収め、1890年に卒業しました。卒業から2年後、初の論文を著し博士号を取得します。1894年にはバイエルに入社し、研究化学者として活動を始めました。

最初の大きな発明は、1897年のアセチルサリチル酸の合成です。サリチル酸と酢酸を組み合わせることで、化学的に純粋で安定した形のアセチルサリチル酸を作り出すことに成功したのが実験の主な内容です。物質としての有効性と許容性を確認するための研究を行った結果、鎮痛や解熱に効果のある抗炎症物質であることがわかりました。バイエル社はこの結果を受けて、医薬品として製造・販売することを決めました。アセチルサリチル酸は1899年に粉末の形となり、「アスピリン」という商標名がつけられました。ガラス瓶に入れて販売されたのが薬品としてのアスピリンの始まりです。

アスピリンの発明は大きな注目を浴びましたが、第一次世界大戦の時期にはその存在がなくなる危機に瀕しました。敗戦国であるドイツは連合国にさまざまな権利を取り上げられ、アスピリンの商標も失いかけたのです。「バイエル」という商標や社名、社章までもが競売にかけられ、以降76年間バイエル社製のアスピリンは医療業界から姿を消しました。1994年にバイエルは全権利を買い戻しましたが、アスピリンの権利はスターリング社によって買い取られ、製造されていました。他社に権利がわたってからもアスピリンにはバイエルの社章がつけられていました。これは「バイエル製のアスピリン」が人々からの信頼を獲得していたことに由来しています。

フェリックス・ホフマンの後半生(バイエル社でヘロインを発明する)

またホフマンは、ヘロインの生成でも知られています。きっかけとなったのは、1894年にロンドンの聖マリア病院で勤務するライトがジアセチルモルヒネを合成したことです。人体に対する悪影響が大きく、実験は中止されました。1890年にドイツの化学者であるダンクヴォルトが違う方法で同じ誘導体を合成し、その実験結果を受けたエルバーツェルト色素製造工場・薬理研究所(バイエルの前身)がこの物質の性質を発見しました。

1898年、バイエルとベルリン大学病院が共同で試験を行い、試薬を完成させました。この薬品はヘロインと名付けられ、販売が始まりました。発売当初は効果の広さが喧伝され、モルヒネよりも依存性がなく、副作用もない薬として売り出されました。医師と薬局から無制限に市場に流れ、その後30年以上にわたってドイツ国内で売買されました。

その後、ヘロインは世界各国にわたって医療業界で利用されました。しかし麻薬の一種であるため依存性が強く、アヘンやモルヒネなどに替わる薬品として使用される側面もありました。

医療用のヘロインは正しく使用すれば安全であるものの、危険な使い方をする人々も絶えませんでした。日本でもその危険性が重視され、所持や使用を制限されています。

1946年、ホフマンは未婚のままスイスでこの世を去りました。

今回は、ドイツの製薬会社バイエルに所属し、アスピリンとヘロインを発明した人物として知られるフェリックス・ホフマンの生涯を振り返りました。鎮痛効果の強いこれらの薬剤は医療を大きく進化させるきっかけにもなりましたが、誤った使用法で身を滅ぼす人々を生み出すことにもなりました。しかし彼の功績によって、痛みから解放された人々が数多くいるのは事実です。

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