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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー レンズの発明家 ルートヴィッヒ・ベルテレ(周波数を表すSI単位【ヘルツ】として名を残した偉大な科学者)

2024.03.08

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ゾナーやビオゴンといったレンズは、ドイツの発明家だったルートヴィッヒ・ベルテレによって設計されたものです。カメラのレンズを調節することで、彩光や焦点の合わせやすさが変わり、より鮮明に写りのよい写真を撮影できるようになっていきました。現在使用されている代表的なレンズの設計のほとんどはベルテレの手によって設計されたものです。かつて写真は人間の手に及ばない魔法のようなものだと考えられていました。光の研究が進み、目の前の風景を写真として残せることは、思い出を残せることのほかに犯罪を犯した時の証拠や物理現象の証明としても活用されていきました。カメラの進化は、人類の技術の進化の証でもあるのです。ベルテレの発明は現代人にとって、欠かせないアイテムを作り出した価値のある発明だったといえます。今回はそんな、ルートヴィッヒ・ベルテレの生涯を振り返っていきましょう。

ルートヴィッヒ・ベルテレの前半生(「ゾナー」「ビオゴン」というふたつのレンズを発明する)

ルートヴィッヒ・ベルテレは1900年、ミュンヘンで設計士の息子として誕生しました。ドレスデンの学校に通い教養を身につけたあと、1916年にローデンストックに就職しました。1919年にはエルネマンに転職し、光学メーカーやレンズのメーカーで技術者として働きました。

1923年、ベルテレは当時の世界最高速であるレンズを、A・クルークハルトという人物とともに発明しました。このレンズはエルマノックスに搭載され、夜間でも手持ちでの撮影を可能にしました。1925年には映画撮影機用のレンズを設計しました。このレンズはその後30年間にわたって世界最高速を誇り続けました。1926年、エルネマンは社名を「ツァイス・イコン」に改め、レンズの製造はカール・ツァイスに移管されました。その後もベルテレは次々と新しいレンズを発明・製造し続けました。

ベルテレの生涯においてもっとも重要な功績といえるのは、「ゾナー」「ビオゴン」というふたつのレンズブランドです。1931年、ベルテレはコンタックス用にゾナー5 cm F2を設計しました。ゾナーは、コーティング技術が実用的でなかった当時では革新的な技術を活用していました。3群構成で空気境界面が少なく、コマの収差も抑えることでそれまでよりもコントラストが鮮明に映える写真を撮影できるようになったのがその功績です。また、大口径と小型設計を両立でき、レンズが小型であることが重要となるレンジファインダーカメラにおいて重宝されました。

ゾナーは登場初期こそ人気を博しましたが、戦後は一眼レフの登場によりその人気は陰りました。一眼レフカメラにはレンズの後方にミラーを置くスペースが必要となるため、ゾナーとの相性が悪かったためです。コーディング技術も進化もあり、一眼レフカメラ用レンズは一部で採用されるまでに留まっています。一方、コンパクトカメラではゾナーの利点を活かせる構成担っているものが多く、現代でも多くの採用例が存在します。

1934年には、コンタックス用にゾナー5 cm F1.5とビオゴンF2.4を設計しました。ビオゴンはゾナーの発展系として設計されたカメラレンズです。当時の焦点距離ではもっとも明るく、くっきりとして写真を残せることが魅力でした。ビオゴンも高い人気を博し、「ビオゴン型」と呼ばれる広角レンズの代名詞となりました。

ルートヴィッヒ・ベルテレの後半生(チューリヒ工科大学から博士号を授与され、ズームレンズの特許を取得する)

1942年、ベルテレはシュタインハイルに転職。しかしツァイスとの契約は続けました。第二次世界大戦中はベルテレが4つの事務所を保管し、稼働していました。1945年になるとドイツ軍の旗色が悪くなっていきました。ベルテレはドイツを離れ、チューリッヒのウィルドに転職しました。ウィルドでもベルテレの貢献は大きく、ビオゴンの設計を改良し続けました。1952年には、ウィルドのために航空写真用のアヴィオゴンを設計しました。1956年にはウィルドを退職し、ドイツとの国境近くにあるザンクト。ガレン州ウィルドハウスに移住しました。ウィルドを退職した後も1973年まで光学アドバイザーとして、レンズの研究を続けました。

ベルテレは大学を卒業していませんが、長年の功績を認められたことで1959年にチューリッヒ工科大学から博士号を授かりました。また同年、スーパーアヴィオゴンを設計しました。1963年にはズームレンズの特許を取得し、名実ともにズームレンズの第一人者となりました。

今回は、レンズの設計で大きな功績を残したルートヴィッヒ・ベルテレの生涯を振り返りました。ゾナーとビオゴンというふたつのカメラレンズは、その後のレンズ業界に大きな変化をもたらしました。現代にも残るレンズを設計した彼の偉業は、讃えられて然るべきでしょう。写真を写すカメラの細部のパーツにも、長い歴史が存在します。こうした部分に目を向けてみるのも、新しい発見があって面白いですね。

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