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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 合成油や合成燃料を作り出すためのフィッシャー・トロプシュ法の発明家 ハンス・トロプシュとフランツ・フィッシャー(ドイツと日本が第2次世界大戦中に代替燃料の製造に活用した技術を生んだ二人組の発明家)

2024.02.02

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。石油は、エネルギーを生み出すための物質として様々な分野で活用されています。しかし石油をたくさん燃やすことで資源がなくなり、将来的にエネルギーを生み出せなくなることが危惧されています。そこで登場したのが、合成油や合成燃料といった石油の代替品です。これらの資源を作ることで、石油を使わなくてもエネルギーを生み出せるようになるため、エネルギーと環境に関する取り組みの中で注目されています。合成油や合成燃料を作り出すために考案されたのが、フィッシャー・トロプシュ法です。この方法を発明したのが、ハンス・トロプシュとフランツ・フィッシャーという2人の人物です。今回はそんなハンス・トロプシュとフランツ・フィッシャーの生涯を振り返っていきましょう。

ハンス・トロプシュとフランツ・フィッシャーの生涯(一酸化炭素と水素から液体炭化水素を製造するフィッシャー・トロプシュ法を発明する)

ハンス・トロプシュは、ドイツ・ボヘミアのプランで生まれました。1907年から1913年までプラハのドイツ・カレル・フェルディナンド大学とプラハのドイツ技術大学で勉強し、ハンス・レオポルド・マイヤーとの共同研究により博士号を授与されました。

1916年から1917年までミュールハイムの染料工場で働き、その後、カイザー・ヴィルヘルム石炭研究所で数か月働きました。1917年から1920年まで、ニーデラウのラトガース会社のタール蒸留所で勤務していましたが、1920年に石炭研究所に戻ります。1928年まで働き続けました。

カイザー・ヴィルヘルム石炭研究所の所長を勤めていたのは、フランツ・フィッシャーという人物です。トロプシュとフィッシャーは共同で研究を行い、石油燃料に替わるエネルギー物資を生成する方法を見つけ出しました。150–300 °Cの温度で金属触媒を使用して一酸化炭素と水素から液体炭化水素を製造するという方法で、これは2人の名前をとってフィッシャー・トロプシュ法と名付けられました。フィッシャー・トロプシュ法は特許を認められ、2人は名実ともに歴史に名を残す科学者として讃えられました。

フィッシャー・トロプシュ法の改良発明(ドイツと日本が第2次世界大戦中に代替燃料の製造に活用する)

トロプシュとフィッシャーによる発明以来、多くの改良や調整が施されてきました。この方法が広まった背景にあるのは、1920年ごろのドイツの資源不足です。石油資源に乏しく、戦時中にはイギリス海軍によって海を封鎖されたために、十分な石油を採取することができなかったのです。しかし幸いなことに石炭は豊富にあったため、フィッシャー・トロプシュ法は第二次世界大戦中の代替燃料の製造に利用されました。ドイツと同盟を結んでいた日本やイタリアもこの方法を使っています。ドイツではこの種の代替燃料はエアザッツと呼ばれていました。ドイツは1944年には25の工場から1日当たり12万4000バレル、年間650万トンに達する量を作成したとされています。

戦後、ドイツの科学者たちはアメリカに移送されました。そこではアメリカの指示に従って、研究を行わされることになります。合成液体燃料計画として打ち出されたプロジェクトであり、アメリカ合衆国鉱山局という施設で合成燃料の研究を行いました。研究の結果、それまで課題とされていた生成物の不自由さも解消し、触媒の改良とともに幅広い物質を生み出せるようになったのです。

フィッシャー・トロプシュ法の主な目的は、石炭や様々な種類の含炭素廃棄物などの固体原料から液体の炭化水素(人造石油)やメタンガスを作り出すことにあります。フィッシャー・トロプシュ法は人工石油の開発やジェット機・ガソリン車の動力源として、ベテルギウス法と共に大きな注目を浴びています。すでに工業の世界ではフィッシャー・トロプシュ法の活用がなされていますが、費用がかさむことや原油価格の変動など、課題も少なくありません。これらの理由から、使用が制限されている現状にあります。石油資源がもし枯渇してしまった場合、石炭を使ってエネルギーを取り出すことができます。世界にはたくさんの石炭が眠っており、これからの資源の確保に大きく役立つでしょう。また、フィッシャー・トロプシュ法を酸素を使った石炭ガス化複合発電に組み合わせることで、余った石炭ガスを電気に変換する「電燃併産」も可能です。

今回は、フィッシャー・トロプシュ法を発明したハンス・トロプシュとフランツ・フィッシャーの生涯を振り返りました。石油資源の枯渇が深刻視されている今、フィッシャー・トロプシュ法は次の世代にエネルギーを残すための重要な選択肢となります。まだまだ課題もたくさんありますが、これからの技術の進化に期待したいところです。技術の歴史を辿ってみると、将来を切り開くきっかけも見えてくるかもしれませんね。

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