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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー リニアモーターカーの発明家 ヘルマン・ケンペル(実家のソーセージ工場の地下でリニアモーターカーを発明した変わり者の発明家)

2024.01.09

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。新幹線は、超高速で走行することで遠くの場所まで短時間で人を運ぶ便利な乗り物です。仕事やプライベートで新幹線をよく利用する方も多いのではないでしょうか。そんな新幹線も日々進化を遂げており、近年では磁気を利用して車体を浮き上がらせる「リニアモーターカー」が開発されています。磁気を利用する鉄道の仕組みは、ドイツの発明家ヘルマン・ケンペルによって発明されました。彼はその功績を讃えられ、「磁気浮上式鉄道の父」と称されています。今回はそんな、ヘルマン・ケンペルの生涯を振り返っていきましょう。

ヘルマン・ケンペルの前半生(実家のソーセージ工場の地下でリニアモーターカーを発明する)

ヘルマン・ケンペルは、1892年にドイツのオスナブリュックで生まれました。実家はソーセージの製造を営んでおり、ケンペルは工学に対する知識を持っていました。大学生の時に本格的に電気工学を学びました。実は高校生の時点ですでに「磁気を利用する交通機関」の着想を持っていたとか。しかし当時のケンペルにはそれを実現できるほどの環境はなく、大学卒業後はシーメンスで働きました。それでも興味と好奇心によって動かされるのが発明家というものです。実家のソーセージ工場には地下がありましたが、物置として使われていました。ケンペルはそのスペースを活用して、電磁石を使って物体を宙に浮かせる実験を行い始めます。1922年ごろから始めた実験はなかなか思うようにいかなかったものの、5年の年月を経てついに浮上実験に成功します。この実験結果から、磁気浮上鉄道に関して3つの基本特許を取得しました。当時の計算によれば、1,000km/hでの走行が可能だったとされています。

ヘルマン・ケンペルの後半生(トランスラピッドが実用化されるが、死亡事故を起こす)

その後第二次世界大戦が勃発し、ケンペルは研究の中断を余儀なくされました。戦時中はゲッティンゲンの空力発電所で働くことになります。終戦後、1960年の中頃からは磁気浮上鉄道の研究を再開。ケンペルの構想には注目が集まっており、当時の西ドイツは国家的な支援を行いました。その結果発明されたのが、「トランスラピッド」と呼ばれる磁気浮遊鉄道です。最高速度は400km/hを超える記録をマークし、全世界の期待が高まりました。

当時のドイツは東西に分断されており、政治的な対立が強まっていた時期でした。西ドイツでは磁気浮上式鉄道のプロジェクトがいくつか行われていましたが、それらすべてをトランスピラピッドに一本化することを決めました。その後には完全にトランスラピッド中心の開発プロジェクトが形成され、技術者たちが一丸となって開発に臨みました。1979年、ハンブルクで国際交通博覧会が開催されました。ここでトランスラピッドの一般試乗が行われ、3週間の開催期間中で50,000人以上の乗客を乗せて走行した実績を作りました。翌年からはエムスランド実験線の建設が始まり、1983年についに鉄道が完成しました。2000年には上海浦東国際空港のアクセス鉄道として、トランスラピッドが正式に採用されることに。2003年から磁気浮上式鉄道の通常営業が開始され、世界で3番目の運行となりました。

しかしそんな熱狂も束の間、トランスラピッドは大事故を起こします。2006年、エムスランド実験線のラーテン駅近郊で、試運転中のトランスラピッドが工事用車両と衝突してしまうのです。磁気浮上式鉄道で初めて死傷者を出した大事故であり、世界から関心の目が向けられました。同時に、トランスラピッドの安全性を疑問視する声も上がり始めました。そんな出来事もあり、トランスラピッドの事業はだんだんと採算が合わなくなっていきました。建築にかかるコストも小さくなく、経済的な部分の負担は無視できない状況まで大きくなってしまったのです。2008年、ドイツのティーフェンゼー運輸・建設相はついにトランスラピット路線建設を断念しました。

とはいえ、ケンペルが残したものはその後の研究に大きな影響をもたらしました。安全性の確保をした上でスピードをあげる取り組みが行われ、現代の日本でもリニアモーターカーの登場が話題となっています。東京と大阪をわずか1時間ほどで走行できるリニアモーターカーが実用化されれば、大変便利になることでしょう。

今回は、磁気浮上式鉄道の構想を見出した発明家のヘルマン・ケンペルの生涯を振り返りました。磁気を使って機体を浮上させ、爆発的なスピードで走行するリニアモーターカーが実用化されれば、人や物の輸送もさらに効率よく進められるようになるはずです。彼が発明したトランスラピッドは残念ながら商業的な成功には至りませんでしたが、大きな功績を残したことは忘れてはいけないでしょう。リニアモーターカーがこれからどう進化していくのか、非常に楽しみですね。

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