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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 白黒の無声映画とカラー写真の発明家 リュミエール兄弟(「映画の父」と称えられ、ビジネスでも大成功を収めた幸せな兄弟発明家)

2023.11.10

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。音や映像で人々を楽しませる映画は、現代では人気の高い娯楽としての地位を確立しています。演劇や歌唱など、直接行かなければ見られなかった芸術を映像作品として記録できるようになったことは大きな功績だったのです。そんな映画の歴史の始まりは、白黒の無声映画でした。喜劇王のチャップリンといえば、聞いたことがある人も多いでしょう。コミカルな動きで人々を魅了し、ストーリーの展開を理解させる技術は優れたものでしたが、やはり音声・色彩があればより楽しめるのは間違いありません。映画の歴史に関して、欠かせない2人の人物がいます。それがフランスの映画発明家、オーギュスト・リュミエールとルイ・リュミエールからなるリュミエール兄弟です。彼らは映画発明に貢献した功績を称えられ、「映画の父」と称されている人物です。映画を作り出して多くの人々を楽しませたことに加え、カラー写真を発明したことでも知られています。今回はそんな、リュミエール兄弟の生涯を振り返っていきましょう。

リュミエール兄弟の前半生(写真館の仕事をしながら白黒の無声映画を発明して大成功する)

リュミエール兄弟は、家業の写真館を手伝っていました。父親のアントワーヌは肖像画家として活躍していましたが、当時発明されたダゲレオタイプを入手したことをきっかけに、写真館を開業しました。1881年、弟ルイは写真館の仕事を手伝うようになり、感光剤や写真乾板に関して研究・改良を行いました。ルイの行った改良は精度が高く、多くの人々の評判を集めました。写真館が盛況すると、その資金を使ってリヨンに写真乾板の工場を開設しました。1890年になると、ルイ考案の乾板感光剤がヒットし、経済面では非常に豊かになりました。

1894年、アントワーヌはパリを訪れます。そこではエジソンが開発したキネトスコープに出会いました。キネトスコープとは木箱内をのぞき込む形で映像を見る装置であり、これを活用して映画を作ることを思いつきました。リュミエール兄弟はアントワーヌからキネトスコープの話を聞き、動画の研究に乗り出しました。何度も改良を行った末、スクリーンに映像を投影する技術を開発しました。最初のフィルムは手動のもので、17メートルあるフィルムを手回しで操作することで撮影・上映ができるものでした。映像は約50秒ほどとごくわずかな時間でしたが、当時の技術では革新的な発明でした。

義手や義足・写真機材等の製造業を営んでいたリュミエール兄弟は、この動画機材を使って撮影を行いました。最初の映像作品は、『工場の出口』です。自分たちの工場の近くで撮影を行い、映像はお客さんたちに有料で公開しました。この上映場所は世界初の映画館とされています。1900年のパリ万博でも映画を上映しており、世界中の来場者に映画を見せて楽しませました。映画はフランス国内のみならず世界中で大ヒットし、一大産業として広まっていきます。初期の映画制作のためにリュミエール協会を作り、ヨーロッパやアジア諸国、日本にもカメラマンを派遣して数々の映像作品を作り出しました。

リュミエール兄弟の前半生(映画の特許を売却して写真館の仕事に戻りカラー写真を発明)

その後、リュミエール兄弟はシネマトグラフの特許をパテに売り渡します。映画事業から撤退し、後続に道を譲る形となりました。しかし彼らの活躍は、他の発明家にも大きな影響を与えました。キネトスコープを発明したトーマス・エジソンはリュミエール兄弟の活躍を受けて、映画制作事業に乗り出しました。映画撮影の施設を作り、劇映画の制作にも力を入れ始めたのです。

1907年、映画事業から離れたリュミエール兄弟は、元々営んでいた写真家業を順調に進めていました。世界初の実用カラー写真である「オートクローム」を発売しました。三原色に染めた馬鈴薯澱粉をカラーフィルターにしたもので、従来よりも簡単に撮影できる仕組みとなっていました。手軽さからアマチュアを中心に支持を集め、大きなヒット商品となりました。1909年にはエリオット・クレッソン・メダルを受賞し、その功績を称えられました。

その後の映画は年月を経て進化の歴史を辿り、現代のような映像作品が作られるようになります。無声映画・モノクロの中で表現しなければならなかった時代から、声音や表情、ストーリーを楽しむものへと変化していきました。進化の過程には称えられるべき人がたくさん存在しますが、その偉大な歴史の始まりを作ったリュミエール兄弟の功績を忘れてはいけないでしょう。

今回は、映画を発明したリュミエール兄弟の生涯を振り返りました。写真家である家業を生かしながら、映像作品を作った兄弟のセンスは素晴らしいものだったといえます。トーマス・エジソンの発明から着想を得て、誰もが楽しめる作品を残した功績は語らずにはいられません。今でこそ私たちの身近にある映画ですが、こんな歴史があると知っておくと見方も少し変わるかもしれませんね。

 

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