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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 鉄筋コンクリートの発明家 ジョゼフ・モニエ(庭師の仕事をしながら鉄筋コンクリートを発明した非凡な発明家)

2023.10.20

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。鉄筋コンクリートは、鉄棒を中に入れて固めたコンクリートのことで、建築現場でよく使用されている材料のひとつです。鉄筋は引き伸ばしすることに優れている一方で耐火性に問題があり、コンクリートは圧縮性に強い反面、引き伸ばして使用することには向いていないという欠点があります。お互いの弱点を相互に補完しあえる鉄筋コンクリートの発明は、建築業の発展に大きな意味を持つ出来事でした。鉄筋コンクリートの発明は長い年月をかけ、様々な人物の研究の末に出来上がったものです。そのため特に誰かが発明した、という記録は残されていません。しかし、鉄筋コンクリートの発明に寄与した人物として必ず挙げられるのが、フランスの庭師だったジョゼフ・モニエです。植木鉢の強度を高めるために編み出したコンクリート鉢の発明をきっかけに、建築業界に影響を与えました。今回はそんな、ジョゼフ・モニエの生涯を振り返っていきましょう。

ジョゼフ・モニエの前半生(庭師の仕事をしながら鉄筋コンクリート製の植木鉢を発明する)

ジョゼフ・モニエは、1823年、南フランスのニーム郊外、サンカンタンラポテュリで生まれました。幼いころや生い立ちについての記録は残されていません。彼の人生については、10代ころから資料が残されています。モニエはその年頃、パリに出て庭園師として働き始めました。

当時のフランスでは、陶器製の植木鉢が主流でした。コンクリート製の植木鉢も流通しており、もの珍しさから購入する人も少なかったようです。しかし、コンクリート製の植木鉢は簡単に持ち運べないほど重く、堅いわりに強度が低く、すぐに壊れてしまうという欠点がありました。この状況を受けて、モニエはコンクリート鉢を薄くて丈夫にするための改良を試みました。試行錯誤の末、金網にセメントを流し込み、強度を高めるという方法にたどり着きました。きっかけとなったのは、真冬の水道でした。寒さが厳しいフランスでは、水道が凍ってしまう現象も度々見られました。水道管が破裂してしまえば、修理代に加えて水道代も重くのしかかります。そのようなリスクを避けるために、凍結しても割れない水道管の材料を探していたのです。そうして出会ったのが、コンクリートでした。水道と同じように、コンクリートを流し込んで強度を保てば、軽くて丈夫な植木鉢ができると考えてのことでした。

モニエがこの方法を発見する以前から、コンクリートを用いて鉄筋の強度を高める手法は取り入れられてしました。しかしこの方法は耐火性を高めることを目的としてのものです。強度を高めるためのアイデアとして鉄筋とコンクリートの組み合わせを考えついたのは、現在残っている資料ではモニエが最初ではないかと言われています。

ジョゼフ・モニエの後半生(鉄筋コンクリートの特許を多く取得するがビジネスとしては成功せず終わる)

1867年、パリでは万国博覧会が開催されました。モニエはこの時、金網入りの植木鉢を出品しました。同年「鉄で強化した園芸用の桶」として、最初の特許を取得。これにより、モニエが考案した鉄筋コンクリートの手法は人々に認知されるようになりました。

最初の特許取得以降、モニエは次々に発明を繰り出し続けました。鉄網入りのセメント材をどのように使うかを考え抜き、特許も数多く取得していきました。1875年にはモニエが設計にとってシャズレ城に世界初の鉄筋コンクリート製の鉄橋が架けられました。

モニエは発明を次々に行い、その度に民衆を驚かせてきましたが、強度が高まるメカニズムについては理解できていませんでした。そのため設計の際の具体的な強度は、あくまで直感に頼っていました。建築現場も強度の算出ができないため、モニエの特許を使用することは難しい状況でした。産業革命を受け、建築業も目ざましいスピードで発展していきましたが、モニエの鉄筋コンクリートは本格的な採用をされることはありませんでした。

結局、モニエは様々な特許を取得したものの、金銭的な利益を得ることはほとんどありませんでした。1906年に没し、非凡な人生の幕を下ろしました。

今回は鉄筋コンクリートを発明した人物のひとりであるジョゼフ・モニエの生涯を振り返りました。庭師として働きながら得た知見で、鉄筋コンクリートの発明を思いつく機転の良さは簡単に真似できることではありません。強度を高める技術は建築業界にも応用され、今では欠かせない技術となっています。モニエのように、日常のワンシーンから「もっと良くなる方法はないか」と考えれば、新しい発見を閃くかもしれません。発明家の歴史を振り返って、普段の生活を学びにしたいですね。

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