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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 水素気球の発明家 ジャック・シャルル(史上初の水素気球での有人飛行に成功した冒険野郎な発明家)

2023.09.15

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。空中を浮遊して移動するのは、多くの人々の夢でした。ロマンがあるというだけでなく、空路の開拓は産業が爆発的に発展した中世の大きな課題でもありました。多くの研究者の試行錯誤の末、ついに史上初の有人飛行に成功したのがフランスのジャック・シャルルです。彼は気球での有人飛行に成功し、高度約1,800フィート(550メートル)まで上昇しました。今回はそんなジャック・シャルルの生涯を振り返っていきましょう。

ジャック・シャルルの前半生(水素気球の開発に取り組む)

ジャック・シャルルは、サントル地域圏、ロワレ県のボージャンシーで誕生しました。発明者・物理学者・数学者など多くの肩書きを持ち、ロベール兄弟とともに気球の研究を行っていました。

気球の発明のきっかけは、ロバート・ボイルによる「ボイルの法則」やヘンリー・キャベンディッシュ、ジョゼフ・ブラックといった科学者たちの業績を学んだことです。水素の性質から気球に最適であると気づいたシャルルは、気球の設計を行いました。そして製作するにあたって声をかけたのが、フランス国内で名のしれた気球職人であったロベール兄弟です。パリのヴィクトワール広場にある工房を拠点として、気球を開発するプロジェクトは動き始めました。水素は非常に軽く、隙間があると簡単にガス漏れを起こしてしまうので、溶かしたゴムを使って気体の漏れを防ぐ方法を編み出しました。気球に使う絹糸は赤と白の配色でしたが、ゴムを塗ったことで白色は変色し、赤と黄色の気球となりました。

世界初の水素入り気球の飛行実験が行われたのは、1783年の8月です。会場はド・マルス公園で、多くの観衆に見守られながら実験はスタートしました。観客の中には、当時77歳の

ベンジャミン・フランクリンもおり、大きな注目を浴びていたことを物語っています。しかしこの時の気球は直径約4メートル、体積は33.3メートルと非常に小さかったため、わずか9kg程度の荷物を持ち上げるのが限界でした。また、気球に使用した水素は熱いままだったため、気球の中に入ってから冷却・収縮することに。その結果、気球を膨らませるのに余計な時間がかかってしまいました。数日がかりで気球を膨らませている様子は周囲の人々に連日伝えられ、飛行実験を実施する前日にはかなりの数の観客が集まっていました。それでも気球はきちんと浮遊し、北の方へ漂流していきました。飛行開始から45分後、公園から21kmの距離にあったゴネスへと着陸。ゴネスの村人は初めてみる気球に恐れをなし、ナイフや熊手で気球を破壊してしまいました。この飛行は、世界初の水素気球の飛行として語り継がれています。

ジャック・シャルルの後半生(水素気球で世界初の有人飛行に成功する)

ジャック・シャルルの気球が世界初の有人飛行に成功したのは、1783年のこと。パリのテュイルリー宮殿にて、有人飛行に挑戦したのです。この実験の10日前、モンゴルフィエ兄弟がすでに熱気球での有人飛行に成功していました。水素を動力とした気球の有人飛行が成功すれば、水素気球と熱気球のどちらも利用できることになるので、技術の発展という意味でも大きく注目された実験でした。シャルルとニコラ=ルイ・ロベールは気球に搭乗し、二人をのせた気球は上昇を始めました。高度は約1,800フィートまで上昇し、2時間5分の時間をかけて36kmの飛行の末、ネル=ラ=ヴァレに着陸しました。気球の着陸時は、再び気球が上昇しないようにルイ・フィリップ2世の率いる一段が馬で気球を抑えつけていたとされています。

シャルルはその場で再飛行を行いましたが、1回目の飛行で水素ガスを失っていました。そのため、ニコラは乗せずにシャルル単独での飛行を敢行。気球は急上昇し、わずかな時間の間に3,000メートルの高度に達しました。シャルルは後にこの時の飛行で、沈んだはずの太陽が遠くに見えたと語っています。いきなり高度が上がったため耳に違和感を覚えたシャルルはバルブを操作して水素を放出し、約3km先のトゥール・デュ・レイに着陸しました。この飛行を最後にシャルル自身が気球に乗り込むことはありませんでしたが、彼の功績を称えて気球に彼の愛称が名付けられました。

その後、水素気球は熱気球よりも効率の良さが人気となり、業界のシェアを独占しました。しかし、水素は引火の危険性もあるため、ある時代からはほとんど製造されなくなります。現在では水素の代わりにヘリウムが使用されています。

今回は、世界初の水素気球による有人飛行に成功したジャック・シャルルの生涯を振り返りました。フランスで大きく注目を浴び、同時期に熱気球・水素気球の両方が有人飛行に成功したのはまさしく歴史に残る一大事と言えるでしょう。空へ情熱を傾けた人たちがいたからこそ、現代の便利な生活があるのかもしれません。気球の歴史はドラマがあって非常に面白いですね。

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