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【SKIPの知財教室(IP Hack)】進歩性とは?その技術分野の研究者・エンジニアが思いつくのが簡単だと判断されると特許は取れません。

2021.11.09

SKIP

私たちの身の回りのモノや方法はこれまでに大変多くの発明家の手によって発明され、それが世界中に普及し便利な世の中を創っています。また、特許法の目的は「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」(特許法第1条)と定義されています。この法律によって、これまでに多くの「その技術分野の研究者・エンジニアが簡単に思いつかないような質の高い」発明が誕生し便利で豊かな生活が実現されています。「その技術分野の研究者・エンジニアが簡単に思いつかないような質の高い」とはどのような発明なのでしょうか。その技術分野の研究者・エンジニアが日常的な工夫の中で簡単に思いつくようなアイデアを発明として認めてしまえば科学技術の発展に貢献することはありません。これを防ぐために特許法の中には「進歩性」というその技術分野の研究者・エンジニアが簡単に思いついてしまうものかどうかという評価基準があります。今回はこの「進歩性」について詳しく解説していきます。

特許を受けることができる発明とは
まず、特許を受けるためにはいくつかの条件を満たすことが必要になります。ここでは特許法上で認められる発明の条件を6つご紹介していきます。
まず特許を受ける条件の1つ目は「産業上利用できるかどうか(特許補台29条第1項柱書)」です。特許法の目的にもあるように、発明家のアイデアは「産業の発達に寄与できるもの」と認められる必要があります。この場合の産業とは、工業・鉱業・農業などの生産業に加えてサービス業や運送業なども含んだ広い意味での産業となっています。残念ですが学術的・実験的にしか利用できないようなアイデアや、日本では驚いたことに産業ではないと解釈されている医療産業における、医師、歯科医師などの医療従事者が行う診断方法、治療方法、手術方法などについては、特許を取得することはできません。
続いて特許を受ける条件の2つ目は「新しいものであるかどうか=新規性=(特許法第29条第1項)」です。特許を受けるためにはそのアイデアが従来にはない「新しいもの」である必要があります。これを専門用語で新規性と呼んでいます。もし、公知の事実を特許として認めてしまえば、無駄な独占権を与え、かつ産業の発達には寄与しないという状況になります。そのためこの新規性という評価基準が定められています。新規性に関して詳しく書かれた記事がありますので、ぜひ読んでみてください。
続いて特許を受ける条件の3つ目は「容易に思いつくものでないかどうか=進歩性=(特許法第29条第2項)」です。既に世に出回っているモノや方法を少し改良しただけのアイデアは発明として特許を受けられません。このアイデアは科学技術の発達に貢献しないとみなされたということです。このことは専門用語を用いて「進歩性」がないと呼びます。後ほど進歩性について詳しく解説していきます。
続いて特許を受ける条件の4つ目は「先に出願されていないかどうか(特許法第39条及び特許法第29条の2)」です。特許法には「先願主義」というものがあります。これは別々の発明者がほぼ同時期に同じものを思い付いた場合に、特許を与えるのは先に特許庁に出願した者になるという決まりです。つまり、発明に値するアイデアを思い付いた瞬間は関係なく、出願のタイミングにのみ依存するということです。もし、革新的なアイデアを思い付いたときには、早急に出願の準備をしましょう。
続いて特許を受ける条件の5つ目に「公序良俗等を害しないか(特許法第32条)」です。これまでご紹介した条件を満たしていても公序良俗を害するようなアイデア特許法上では発明としては認められません。例えば、遺伝子操作によって得られたヒト自体などは、倫理的に問題があるため、当然ですが認められることはありません。
特許を受ける条件の最後6つ目は「明細書等の記載は規定どおりか(特許法第36条)」です。特許を受けるためには複数の書類を提出しなくてはいけません。これらには記載方法に関する規定が明確に定められています。その規定通りでないと、先述の5つの条件を満たしていても特許を取得することが出来ません。事前に各書類の記載方法に関して確認をしておきましょう。
以上の6点が特許を取得するために必要となる条件です。次からは今回ご紹介した3つ目の条件「進歩性」について詳しく解説していきます。

その技術分野の研究者・エンジニアが容易に思いつくものではないかどうか=進歩性=とは
ここでは「その技術分野の研究者・エンジニアが容易に思いつくものではないかどうか=進歩性=」について詳しく解説していきます。
もしも特許法に進歩性の評価基準が存在していなかったらどうなるでしょうか。特許を取った発明に関しては、発明者に対して「その発明を自ら独占的に実施する権利」と「その発明を他人に勝手に実施されない権利」が生じます。もっとも特許法の目的の中には、発明を奨励して産業の発達に寄与することが含まれていました。そのため、既存のモノや方法を少し改良改善したアイデア(その技術分野の研究者・エンジニアが簡単に思いつくレベル)に特許を付与してしまえば、無駄な独占権を与え、産業の発達には貢献しないという全く意味のない状態が発生してしまいます。さらに、容易に思いつくものでも特許を取れる状態にしておくと、日々改良されている多くのものに関しても特許を取らないと、別の人にすぐに特許をとられてしまいます。このような事態に陥ってしまうことを避けるために特許法では進歩性が評価基準として含まれています。
ではどのような場合に進歩性がないと判断されるのでしょうか。具体的な2つの例をご紹介します。
まず1つ目に、「公然と知られた発明や実施された発明を単に寄せ集めたにすぎない発明」です。例えば、「ディーゼル油で動く船外機を設けた船」と「オールで漕ぐためのリガンドを備えた船」が存在しているとします。その状態において、「ディーゼル油で動く船外機とオールで漕ぐためのリガンドを設けた船」を特許出願したとしても、寄せ集めと判断されて進歩性がないことで特許取得はできない可能性があります。続いて2つ目に「発明の構成の一部を置き換えたに過ぎない発明」です。例えば、「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術が既にあったとします。その前提で、「机の移動をスムーズにする」キャスターの技術に応用したとしても、実在する発明の一部置き換えとして進歩性がないと判断される可能性があります。
このように特許法の目的を果たすために進歩性は定められており、場合によっては進歩性がないと判断されてしまうこともあります。その他にも、進歩性がないと判断される例は多数あり、技術分野によっても色々と異なりますが、すべてをここで説明するのは紙幅が足りないので省略します。次は進歩性の審査基準に関して解説していきます。

進歩性の審査基準とは
では、進歩性の審査基準に関して解説していきます。
特許法第29条第2項には「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときには、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない」と書かれています。と言っても少し難しいかと思いますので、かみ砕いて解説します。まず、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者」とは「当業者」と呼ばれ以下のような人を指しています。①本願発明の属する技術分野の出願時の技術常識を有する。②研究、開発のための通常の技術的手段を用いることができる。③材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できる。④本願発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができ、 発明が解決しようとする課題に関連した技術分野の技術を自らの知識とすることができる。つまり、その発明分野におけるかなり優秀な研究者またはエンジニアという感じの人を当業者と呼んでいます(しかし、現実の世界に、果たして、その技術分野の全ての技術常識を把握している研究者やエンジニアなんていない気もしますが・・・そういう架空の人物を想定して審査を行うわけなのです・・・)。この当業者が容易に発明できたものと判断されればまず特許付与の対象にもなりません。
特許付与対象になった発明に関しては、進歩性の判断を行います。進歩性の判断は「主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否か」を考慮して行われます。ここでの理論づけとは、先行技術を利用して当業者が当該発明を容易に想到できたことの論理の構築です。つまり、容易に思いついたと論理的に証明する過程です。この過程で論理付けできた場合(容易に思いついたと論理的に証明された)には進歩性が否定されてしまいます。
進歩性の判断に関する論理付けにおいては、進歩性が否定される方向に働く要素と肯定される方向に働く要素とを総合的に評価して判断されます。前者の要素は、主引用発明に副引用発明を適用する動機付け、主引用発明からの設計変更等、先行技術の単なる寄せ集めが該当します。後者の要素は有利な効果、阻害要因が該当します。このような評価基準があり、最終的に進歩性を満たしているかどうかが判断されています。

今回は、特許法における進歩性、進歩性の審査基準について詳しく解説してきましたが、いかがだったでしょうか。進歩性は特許法の目的を果たすためにとても重要な要素でした。その技術分野の研究者・エンジニアが容易には思いつかないものという厳しい審査基準があったからこそ、私たちの生活は豊かになり、今も発展し続けています。今後どのような進歩性がある発明が生まれるのか非常に楽しみです。これからの産業の発達に期待しましょう!