競合他社の特許出願について「この発明は既に知られているのではないか」と感じたとき、その情報を審査官に届ける手段が情報提供制度(特許法施行規則13条の2)です。誰でも・匿名で・特許庁費用無料で利用でき、特許庁に係属中の出願については、審査請求の有無を問わず情報提供できます。設定登録後は、別途、特許法施行規則13条の3に基づく情報提供が可能です。
ただし、提供した情報は、審査官等が審査・審理に着手する時点で利用可能となっていなければ考慮されません。
弊所では2010年に「情報提供制度(ライバル企業の特許取得を未然防止)」として本制度を紹介しました。その後、特許異議申立制度の再導入や審査期間の短縮に加え、特許庁が「情報提供の手引」等を公表し、審査官への連絡ができないことやオンライン提出の推奨などの運用が明確化されました。
本記事では、こうした変化を踏まえ、情報提供のタイミング、提供できる内容、匿名性について、実務上の注意点とあわせて改めて整理します。
- 係属中の出願にはいつでも・何度でも提出可能。ただし審査官が審査に着手する前に届くことが前提
- 狙い目は審査請求後〜審査着手前。拒絶理由通知後は「補正を待つか、先に出すか」を選択
- 対象は新規性・進歩性・記載要件など。単一性・冒認などは対象外
- 提出は実務上、オンラインがおすすめ(最短1日で審査官が利用可能。紙は3週間以上)。オンラインでも匿名可
- 審査官への連絡(着手時期の確認、審査の待機依頼など)はできない
1. 情報提供制度の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出できる者 | 誰でも(匿名可) |
| 提出できる時期 | 特許庁に係属中はいつでも(審査請求の有無を問わない)。回数制限なし。設定登録後は13条の3に基づく別の情報提供 |
| 費用 | 無料(書面提出の場合の電子化手数料も不要) |
| 出願人への通知 | あり |
表1:情報提供制度の概要
特許庁は、出願人または権利者に情報提供があった旨を通知します。また、情報提供があった事実は、J-PlatPatの経過情報にも「刊行物等提出書」などとして表示されます。
情報提供は年間5,000件前後で推移しています。特許庁が、2024年9月〜11月に拒絶理由を通知した情報提供案件100件を調査したところ、約70%の案件で、提供された文献等が拒絶理由通知中の引用文献等として利用されていました。適切な情報であれば、審査に反映される可能性は十分にある制度といえます。
出典:特許庁「情報提供制度」
2. いつ情報提供できるか/いつ出すべきか
提出できる時期
特許出願後、その出願が特許庁に係属している間は、審査請求の有無を問わず情報提供できます。回数の制限もなく、審査着手前、最初の拒絶理由通知後、出願人の補正後、拒絶査定不服審判の請求後など、各段階で提出が可能です。
ただし、取下げ・放棄された出願や拒絶査定が確定した出願など、特許庁に係属しなくなった出願には提出できません。
「提出できる」と「考慮される」は別
提出自体が可能であっても、次の場合には、審査等の判断において考慮されません。
- 審査官が審査・起案に着手する時点で利用可能となっていない情報
- 特許査定後に審査官が利用可能となった情報
- 拒絶査定後に審査官が利用可能となった情報(その後、前置審査に係属した場合を除く)
特許庁の「情報提供 虎の巻」では、最初の審査通知の2〜3か月前に情報が提出されていると拒絶理由を構成しやすく、通知や査定の直前に提出されても使いにくい旨が示されています。
段階別の考え方

図1:情報提供のタイミング
| 段階 | 考え方 |
|---|---|
| 公開後〜審査請求前 | 提出は可能です。ただし情報提供があった事実は出願人に通知されるため、第三者が当該出願を注視していることを出願人に意識させ、審査請求などの判断に影響を与える可能性があります。審査請求期限(原則として出願日から3年)までの動向を見極め、提出による影響も考慮し、審査請求後に提出するか、審査請求前に早めに提出するかを個別に判断します。 |
| 審査請求後〜着手前 | 最も一般的な提出時期です。審査着手の見通し時期(5章参照)を参考に、前倒しで提出します。 |
| 拒絶理由通知後 | 補正を待つか、先に出すかを選択します(次項参照)。 |
| 拒絶査定後・審判 | 審判段階でも提出でき、前置審査や拒絶査定不服審判の審理で考慮される可能性があります。 |
| 設定登録後 | 提出は可能ですが、情報提供に基づく審理は行われません(本章末尾参照)。 |
表2:段階別の情報提供の考え方
拒絶理由通知後は「待つ」か「先に出す」か
拒絶理由通知の後は、出願人が補正・意見書で応答します。このタイミングでの情報提供には、2つの考え方があります。
① 応答内容を見てから出す(有効性重視)
補正後の請求項に的を絞った情報を提出できるため、より的確な情報提供を行いやすくなります。一方で、意見書や補正書により拒絶理由が解消したと判断され、特許査定の起案までに提出が間に合わなければ、情報提供が考慮されずそのまま特許査定となることがあります。
審査官等は、出願人の手続補正書・意見書を確認して、拒絶理由がないと判断すれば、早期に特許の査定・審決をすることがあります。情報提供のために審査等を待つことはしておりません…
この方法をとる場合は、応答期限を把握したうえで経過情報をこまめに確認し、意見書・補正書が提出されたら即座に意見書・補正書の内容に応じた刊行物等を見つけ出し提出できる体制を整えておく必要があります。J-PlatPatへの反映には時間差がある点にも注意が必要です。
② 応答前に予測して出す(安全重視)
補正の方向性を予測し、従属項や明細書に記載された限定事項まで先回りしてカバーした情報を、応答前に提出します。的はやや広くなりますが、特許査定に間に合わないリスクを避けられます。
回数制限はないため、②で先に提出したうえで、補正内容を見て追加提出するという組み合わせも可能です。
設定登録後の情報提供
特許の設定登録後も、特許法施行規則13条の3に基づき情報提供ができます。ただし、情報提供そのものに基づく審理は行われません。
審判便覧10-04では、付与後情報提供の利点として、特許権者が特許の活用に際して提供情報を事前に検討し、必要に応じて訂正審判により特許の瑕疵を解消することで不要な紛争を事前に防止できること、無効審判を請求しようとする者が提供情報を参考にして、より充実した無効理由・証拠を提示できること、無効審判又は特許異議申立てにおいて提供情報が職権審理の対象となり得ることが挙げられています。
もっとも、情報提供それ自体について審理が行われるわけではなく、情報提供者が手続に関与することもできないため、それだけで権利が見直されるものではありません。権利の有効性を直接争う必要がある場合は、特許異議の申立てや無効審判を検討することになります。
| 付与後の情報提供 | 特許異議の申立て | 無効審判 | |
|---|---|---|---|
| 手続できる者 | 何人も(匿名可) | 何人も(匿名不可) | 利害関係人のみ |
| 時期 | 設定登録後いつでも | 特許掲載公報の発行日から6か月以内 | 設定登録後いつでも |
| 審理 | なし(職権審理の対象となる可能性あり) | あり | あり |
| 手続への関与 | なし | 訂正請求があった場合に意見書で関与 | 当事者として関与 |
| 特許庁手数料 | 無料 | 16,500円+請求項数×2,400円 | 49,500円+請求項数×5,500円 |
表3:付与後の情報提供・特許異議の申立て・無効審判の比較(審判便覧10-04の比較表をもとに作成)
3. 提供できる内容(対象となる拒絶理由)
対象となる拒絶理由
情報提供ができるのは、次の拒絶理由に関する情報に限られます(特許法施行規則13条の2第1項各号)。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 17条の2第3項 | 新規事項の追加 |
| 29条1項柱書 | 発明該当性・産業上の利用可能性 |
| 29条1項 | 新規性 |
| 29条2項 | 進歩性 |
| 29条の2 | 拡大先願 |
| 39条1項〜4項 | 先願 |
| 36条4項1号 | 実施可能要件・委任省令要件 |
| 36条4項2号 | 先行技術文献情報開示要件 |
| 36条6項1号〜3号 | サポート要件・明確性要件・簡潔性要件 |
| 36条の2第2項 | 原文新規事項 |
表4:情報提供の対象となる拒絶理由
対象外の拒絶理由
一方、シフト補正(17条の2第4項)、外国人の権利の享有(25条)、不特許事由(32条)、特許請求の範囲の委任省令要件(36条6項4号)、発明の単一性(37条)、共同出願(38条)、条約違反(49条3号)、冒認(49条7号)などについては、情報提供をすることができません。また、外国語書面出願・外国語特許出願等に係る翻訳文新規事項についても対象外です。
提出できる資料
提出できる資料は、書面(書類)に限られます。オンライン提出の場合は、これらを電子ファイルとして提出します。特許文献のほか、書籍の写し、カタログ、標準・規格関連文書、講演原稿、公然実施書類、実験報告書なども提出できます。
- 動画そのもの(DVD等)は提出不可。参照箇所のキャプチャ画像を書面にして提出する
- インターネット上の情報は、情報の内容、掲載日時、取得元URLおよび当該情報に関する問合せ先を含めてプリントアウトしたものを提出する。掲載・保全等について権限または責任を有する者の証明書類を添付することが望ましい
多くの場合特許文献を提出しますが、非特許文献やカタログ、展示会資料、外国語文献、技術常識・周知技術を示す資料など、電子的に探しにくい情報は審査官が発見しにくいため、もし提供可能であれば特に価値が高いといえます。
4. 匿名性
匿名での提出
刊行物等提出書の提出者の氏名・住所欄を「省略」と記載することで、匿名で提出できます。オンライン提出でも匿名性は担保されており、特許庁のQ&Aでは次の点が示されています。
- 提出時の受領書は閲覧の対象外
- 閲覧やJ-PlatPatでも、識別番号など送信者を特定できる情報は表示されない
- 審査官にも、提出者を特定できる形では配付されない
- 出願人等からの提出者に関する照会には応じない
匿名にする場合の注意点
- 添付ファイルのプロパティ:PDF等に作成者情報が残っていると提出者が推測されるため、事前に削除する
- 提出資料そのもの:提出書や添付資料は閲覧の対象となり、閲覧請求があれば原則として誰でも閲覧できる。個人情報や営業秘密など第三者に閲覧されたくない情報は、提出前に黒塗りするなどの対応が必要。また、社内資料や自社製品のカタログなどは、提出者の推測材料になり得る点にも注意する
- 匿名の場合に利用できないもの:審査での利用状況に関するフィードバックや、審査着手状況の問合せ(5章参照)は受けられない
相手の出願書類を閲覧するときも注意
提供された情報や出願書類の閲覧請求をすると、請求した事実と請求者の情報が履歴として記録されます。匿名で閲覧したい場合は、代行サービスの利用を検討します。
5. 実務TIPS
提出はオンラインで
| オンライン (出願ソフト) |
紙 (郵送・窓口) |
|
|---|---|---|
| 審査官が利用可能になるまで | 最短1日 | 3週間以上 |
| 匿名での提出 | 可 | 可 |
| 手数料 | 無料 | 無料 |
表5:オンライン提出と紙提出の比較
タイミングが結果を左右する制度である以上、実務上はオンライン提出が原則と考えてよいでしょう。なお、電子メール・電話・ファクシミリでの提出は受け付けられていません。
審査官への連絡はできない
情報提供者は審査の当事者ではないため、審査官と連絡をとることはできません。
審査等の着手時期を審査官等からお答えすることや、情報提供のために審査等を待って欲しい、提供した情報の内容を審査官等に説明したい等の御要望にお応えすることはできません。
以前は個別に対応してもらえる場合もありましたが、現在はこの取扱いが明確にされています。「提出するまで待ってもらう」ことはできないため、審査が進みそうな局面では、できる限り早く提出することが何より重要です。
審査着手時期の見極め方
着手時期の見通しは、次の情報から判断します。
- 特許審査着手見通し時期照会(特許庁HP):出願人・代理人ごとに、審査未着手案件(公開前の案件を除く)の着手見通し時期を第三者でも確認できる
- 平均的な審査期間:審査請求から最初の審査通知までの期間は、特許庁全体の平均で9.1か月(2024年度。特許庁ステータスレポート2026 第2部第1章)。技術分野によって差がある
- 早期審査の有無:J-PlatPatの経過情報に「早期審査に関する事情説明書」があれば、数か月以内に審査が始まる可能性が高い。2025年の早期審査の申出から一次審査通知までの期間は平均2.3か月(特許庁ステータスレポート2026 第2部第1章)
- 特許審査着手状況の問合せ:既に(匿名でなく)情報提供をした者は、審査着手予定時期などを問い合わせることができる。ただし「情報提供を予定している」という理由では問い合わせできない
分割出願にも目を配る
情報提供は出願ごとに行う手続です。対象出願から分割出願がされた場合は、必要に応じて分割出願にも別途提出することを検討します。
6. よくあるご質問(FAQ)
※本記事の内容は、記事作成時点の情報および法令に基づいています。正確な情報の提供に努めておりますが、内容の完全性・正確性を保証するものではなく、本記事の内容に関して生じた損害等について一切の責任を負いません。個別の事案については必ず弁理士・弁護士にご相談の上、手続きを進めていただくよう強く推奨いたします。


