韓国の特許審査において設けられている優先審査(早期審査)制度のうち、日本(外国)の出願人が使いやすいルートは PPH・実施関連出願・特定分野関連出願の3つです。加えて、第三者が業として実施している公開後の出願も、必要な場合には優先審査の対象として利用できます。本記事では、日本の出願人の視点からの制度利用について整理します。
- 日本の出願人が使いやすいのは PPH・実施関連出願・特定分野関連出願 の3つ+第三者が業として実施している公開後の出願。
- PPHの対象となる「特許可能なクレーム」は、拒絶理由通知書・拒絶査定の中の許可クレームでもよい(特許査定に限らない)。
- 特定分野の一部(半導体等の公告対象)及び実施関連出願は、韓国国内での実施・生産が要件となる点に注意。
- 従来広く使われた先行技術調査による優先審査は2024年1月1日に廃止。
- 申請は出願審査請求の後から特許可否の決定前まで。
1. 韓国の優先審査制度の概要
優先審査とは
韓国の特許審査は、原則、審査請求の順番に行われます。しかし、一定の要件を満たす出願については、審査請求の順番通りではなく他の出願より先に審査する優先審査制度が設けられています。なお、韓国では審査猶予(遅延審査)制度も設けられています(SKIPブログ「韓国特許出願:韓国の特許審査猶予制度が改正|審査時期の変更・取下げが柔軟に」)。
優先審査は、出願人に限らず誰でも(外国の出願人も、出願人以外も)申請でき(国・地方自治体の職務に関する出願を除く)、申請可能な期間は出願審査請求の後から特許可否の決定(拒絶・特許査定)前まで(特許法施行規則第39条・施行令第10条第1項)です。
(参考訳)
第3条(優先審査の申請人) 出願があるときには、誰でも知識財産処長に、その出願に関して優先審査の申請をすることができる。ただし、第4条第1項第2号ニ目の規定による出願に関しては、国または当該地方自治団体(国・公立学校内に設置された技術移転・事業化専担組織を含む)のみが優先審査の申請をすることができる。
(参考訳)
出願人はもちろん、誰でも優先審査を申請でき、申請可能な期間は出願審査請求後から特許可否決定前までです。ただし、優先審査の対象ごとに詳細な要件が異なる場合がありますので、詳しい事項は優先審査制度の案内をご確認ください。
申請手続と費用の基本
優先審査を申請できる出願は、審査請求がされていることが前提です(審査請求と同時の申請も可)。優先審査申請書(特許法施行規則 別紙第22号書式)に、申請理由を具体的に記載した優先審査申請説明書と証明書類を添付して提出し、申請料を納付します。(特許・実用新案優先審査の申請に関する告示 第5条、특허 우선심사제도 소개(特許優先審査制度紹介))
申請料は、請求項数に関係なく特許20万ウォン・実用新案10万ウォン。申請から審査結果までの期間は、申請理由にもよりますが、おおむね申請後3か月、PPHの場合は4か月(+α)以内が目安です。
(参考訳)
8. 特許出願の優先審査申請料:1件あたり20万ウォン。ただし、当該出願が「特許法施行令」第10条第2項による優先審査の対象ではないと決定された場合、またはその決定がある前に優先審査申請を放棄・取下げした場合には、4万ウォンとする。
(参考訳)
申請後3か月、4か月(+α)以内に審査結果を受け取ることができます。ただし、優先審査申請説明書および証明書類に補完事項がある場合や、その他補正要求がなされるなど手続遅延の事由がある場合には、当該遅延期間の分だけ審査結果の提供が遅くなります。
一方で、出願が制度の対象となるかは種々の要件が設定されており、どのようなルートで申請すべきかは確認が必要です。日本の出願人が要件を満たしやすいと考えられるいくつかのルートを2.以降にまとめます。
2. PPH(特許審査ハイウェイ)
制度の概要
PPHは、第1庁(先に審査をした庁)で特許可能と判断された出願について、出願人の申請により、第2庁(韓国)で簡易な手続により早期審査を受けられるようにする枠組みです。日本等の他国でポジティブな結果が得られている場合に、日本の出願人にとって、使いやすいルートといえます。
日本は、IP5特許審査ハイウェイ(韓国・日本・米国・中国・欧州EPOの5庁)と、グローバル特許審査ハイウェイ(GPPH)の両方に参加しています。両者は参加庁が異なるだけで申請手続は同一です。
また、PPH改善政策(PPH eXtra、韓国は2023年8月1日参加)により、優先審査申請完了後(PPH申請の完了後)の最初のオフィスアクションまでの平均期間、および出願人の応答後の次のオフィスアクションまでの平均期間を、いずれも3か月以内に管理する目標が設定されています。
その他、韓国知的財産処では、メキシコ、フィリピン、台湾、ユーラシア、ベトナム、サウジアラビア、ブラジル、マレーシア、フランス、インドネシア、バーレーン等とのPPHプログラムも試行されています。
PPHの相手国・特許機構や各プログラムの有効期間は、随時変動・延長されます。申請を検討する際は、MOIP(KIPO)のPPH案内ページ等で現行の対象国・有効期間をご確認ください。
Patent Prosecution Highway|https://www.kipo.go.kr/en/HtmlApp?c=100016&catmenu=ek02_02_03
PPHによる優先審査の主な要件
PPHによる優先審査の主な要件は、次の3つです。
- (1)韓国出願(本願)が対応出願(相手国の出願)から有効に優先権を主張するものであること[PCT出願で韓国に国内移行したものを含む。韓国国内の制度上は『最優先日が同一』として整理されている]。
- (2)対応出願に、相手国の庁が特許可能と判断したクレームが1つ以上あること。
- (3)本願の全クレームが、その特許可能と判断されたクレームと対応していること(対応しない場合は補正が必要)。
「特許可能と判断したクレーム」とは?
ここで実務上重要なのは、「特許可能なクレーム」は特許査定が出たものに限られない点です。対応出願が拒絶査定を受けていても、その中に特許可能なクレームがある場合や、審査途中の拒絶理由通知の段階で特許可能なクレームが明示されている場合にも、PPHを申請できます。
日本出願を対応出願とする場合の対象ケース
- (ⅰ) 日本出願を基礎にパリ条約による優先権を主張して韓国に出願した場合
- (ⅱ) 日本出願を基礎に優先権を主張したPCT出願で、韓国に国内移行した場合
- (ⅲ) 優先権主張のないPCT出願で、日本と韓国に国内移行した場合
- (ⅳ) 上記の韓国出願を分割した場合
日本基礎 → パリ優先で韓国出願という最も一般的なパターンが、そのまま対象になります。なお、対応出願(第1庁)は日本に限られません。韓国とPPH関係にある対象国であれば、米国や欧州(EPO)等の審査結果を根拠に韓国でPPHを申請することもできます(最優先日が同一であることが条件)。
3. 지식재산처장이 외국 특허담당 정부기관의 장과 우선심사하기로 합의한 특허출원으로서 별표 2에서 정하는 신청요건을 갖춘 다음 각 목의 어느 하나에 해당하는 특허출원(별표 1에서 정하는 증명서류를 첨부한 경우에 한정한다)
가. 지식재산처장이 지식재산처 홈페이지에 게시하는 대상국가(이하 “대상국가등”이라 하고 정부간 기구를 포함한다)에 출원한 특허출원의 출원일 또는 우선일 중 빠른 날(이하 “최우선일”이라 한다)과 대한민국 특허출원의 최우선일이 동일한 특허출원
나. 대상국가등에서 국제조사나 국제예비심사가 수행된 국제출원의 국제출원일 또는 우선일 중 빠른 날과 대한민국특허출원의 최우선일이 동일한 특허출원
(参考訳)
第4条(優先審査の申請対象等) ①
3. 知識財産処長が外国の特許担当政府機関の長と優先審査することに合意した特許出願であって、別表2で定める申請要件を備えた次の各目のいずれかに該当する特許出願(別表1で定める証明書類を添付した場合に限定する)
イ. 知識財産処長が知識財産処ホームページに掲示する対象国家(以下「対象国家等」といい、政府間機構を含む)に出願した特許出願の出願日または優先日のうち早い日(以下「最優先日」という)と、大韓民国特許出願の最優先日が同一の特許出願
ロ. 対象国家等において国際調査または国際予備審査が遂行された国際出願の国際出願日または優先日のうち早い日と、大韓民国特許出願の最優先日が同一の特許出願
提出書類
- ①相手国の庁が特許可能と判断したクレームを含む請求範囲の写し+翻訳文
- ②対応出願に対する相手国の庁の審査関連通知書の写し+翻訳文
- ③審査関連通知書で引用された先行技術の写し
- ④本願のクレームと特許可能と判断されたクレームの対応関係説明表
このうち、①②は審査官がAIPN(日本特許庁の包袋情報提供システム)等の情報通信網を通じて入手できる場合は省略可、③は特許文献なら省略可、④の対応関係説明表は省略不可です。
PCT-PPH
対応する国際出願について、相手国の庁が国際調査機関(ISA)または国際予備審査機関(IPEA)として国際段階で肯定的な判断を示したクレームがある場合には、PCT-PPHを申請できます。ここでいう肯定的な判断とは、国際調査見解書(WO/ISA)・国際予備審査見解書(WO/IPEA)・国際予備審査報告書(IPER)のいずれかで、新規性・進歩性・産業上の利用可能性のすべてがあると判断された場合です。
日本をISA/IPEAとしたPCT出願で肯定的見解が得られていれば利用できます。PCTを経由して韓国へ移行する場合、国際段階で肯定的な判断が得られており、日本への国内移行(或いは、基礎出願)について審査が進んでいない場合に利用することが考えられます。
3. 実施関連出願
制度の概要
出願人が、出願した発明を業として実施中、または実施準備中である場合には、優先審査を申請できます(特許法施行令第9条第8号、特許・実用新案優先審査の申請に関する告示第4条第1項第2号リ目)。
このルートは対応出願の審査結果に依存しません。そのため、PPHのように対応出願に特許可能なクレームがまだ固まっていない段階でも利用できる点が利点です。先行技術調査ルートが廃止された現在、PPH以外で日本の出願人が使える、最も汎用的なルートといえます。
必要手続きの概要
申請にあたっては、優先審査申請説明書において、出願発明が〔実施または実施準備中であるか〕、〔その実施または実施準備が業として行われているか〕を具体的に説明します。そのうえで、それらを立証できる書類を提出します。
なお、自己実施における「実施」とは、韓国国内での実施を意味します。外国(日本)で実施した証拠を根拠に優先審査が認められることはありません(特許権が属地主義により各国ごとに効力を持つことによります)。日本国内でのみ製造・販売している場合は、このルートは使えません。
(参考訳)
もちろん可能です。我が知識財産処は、制度運用において外国人を差別しません。ただし、自己実施における「実施」とは国内(韓国国内)での実施を意味するものであるため、外国で実施した証拠を根拠に優先審査を行うことはありません。なぜなら、特許法は属地主義により、その国でのみ効力を有するからです。
4. 特定分野関連出願
特定分野に関連する出願の優先審査は、性質の異なる二つの系統に分けて理解すると整理しやすくなります。
系統1:第4次産業革命関連技術
第一は、第4次産業革命関連技術に関する出願です(特許・実用新案優先審査の申請に関する告示第4条第1項第2号ノ目、特許法施行令第9条第2の2号)。以下の19分野を活用した出願であって、特許庁が別表3で定める第4次産業革命関連の新特許分類が付与されたものが対象です。技術分野が合致すれば、後述の系統2のような個別の公告を待たずに利用できます。
対象となる19分野
| 韓国語(原文) | 日本語(参考訳) |
|---|---|
| 인공지능 | 人工知能(AI) |
| 사물인터넷 | IoT(モノのインターネット) |
| 삼차원 프린팅 | 3Dプリンティング |
| 자율주행차 | 自動運転車 |
| 빅데이터 | ビッグデータ |
| 클라우드컴퓨팅 | クラウドコンピューティング |
| 지능형로봇 | 知能ロボット(インテリジェントロボット) |
| 스마트시티 | スマートシティ |
| 가상증강현실 | 仮想現実・拡張現実(VR/AR) |
| 혁신신약 | 革新的新薬 |
| 신재생에너지 | 再生可能エネルギー |
| 맞춤형 헬스케어 | オーダーメイド型ヘルスケア |
| 드론 | ドローン |
| 차세대 통신 | 次世代通信 |
| 지능형반도체 | インテリジェント半導体(AI半導体) |
| 첨단소재 | 先端材料 |
| 블록체인 | ブロックチェーン |
| 스마트제조 | スマート製造 |
| 차세대바이오의약품 | 次世代バイオ医薬品 |
表:第4次産業革命関連の19分野(韓国語原文/日本語は慣用訳)
系統2:半導体等の先端技術(公告対象)
第二は、半導体等の国民経済・国家競争力の強化に重要な先端技術に関する出願です(特許・実用新案優先審査の申請に関する告示第4条第1項第2号ロ目、特許法施行令第9条第2の3号)。この系統は、知識財産処長が対象分野・特許分類(CPC)・申請期間を定めて公告した分野に限られます。現在は、半導体・ディスプレイ・二次電池・バイオ(生命工学)・バイオ(ヘルスケア)・先端ロボット・人工知能等が公告されています。
| 分野(韓国語) | 分野(参考訳) | 公告番号 | 対象技術 / 主分類CPC(抜粋) |
|---|---|---|---|
| 반도체 | 半導体 | 2025-13 | 素材・部品・装備、製造、設計、性能検査評価関連 |
| 디스플레이 | ディスプレイ | 2025-14 | 素材・部品・装備、製造、設計、性能検査評価関連 |
| 이차전지 | 二次電池 | 2025-15 | 素材・部品・装備、製造・設計、性能検査評価、BMS、リサイクル |
| 바이오(생명공학) | バイオ(生命工学) | 2025-16 | A01H1, A01K67, A01N63, A61K, A61P, C07K, C12N, C12P, C12Q, G01N27/33 ほか |
| 바이오(헬스케어) | バイオ(ヘルスケア) | 2025-17 | A61B1〜18/42〜90, A63B24, G16B, G16H10〜80 |
| 첨단로봇 | 先端ロボット | 2025-18 | B25J1〜21, G05B, G05D3〜99, G06F3 |
| 인공지능 | 人工知能 | 2025-19 | G06N3〜7/20, G05B13, G16B40 |
表:系統2(半導体等)の現行公告対象(分野名は韓国語原文/日本語は参考訳。申請可能期間はいずれも 2025.11.1〜2026.10.31)
系統2は対象分野・CPC・申請期間が公告ごとに指定され、現在の公告はいずれも1年限りの施行(延長を検討予定)です。利用検討時は、申請時点で最新の公告をご確認ください。
2026年2月の発表では「フィジカル人工知能」や「合成生物学」が新たに加えられた模様です。지식재산처, 2026년 특허심사 처리계획 발표(知識財産処、2026年特許審査処理計画発表)
系統2の各公告は、対象を「韓国国内で生産または生産準備中の企業の出願」または「韓国の国家研究開発事業の結果物に関する出願」(一部分野では国家先端戦略産業法による特性化大学・大学院の出願を含む)に限定しています。したがって、技術分類が合致していても、韓国国内での生産・生産準備や韓国の国家研究開発との結びつきがなければ使えません。日本企業が韓国に生産拠点を持たない場合は、実質的に利用が難しいことになります。これは国内生産の紐づけを要件としない系統1との大きな違いです。
なお、半導体・ディスプレイ・二次電池の各公告では、これらを他分野に応用した技術(例:半導体素子を含む照明装置、二次電池装置を含む車両など)は対象外とされています。
表中の各公告番号のリンク先よりご確認ください。
5. 第三者実施による優先審査
制度の概要
出願公開後、出願人ではない第三者が、業として出願された発明を実施していると認められる場合には、優先審査を申請できます(特許法第61条第1号、特許・実用新案優先審査の申請に関する告示第4条第1項第1号)。自己の出願発明を他社が無断で実施しているような場面で、早期権利化により被害の拡大を防ぐためのルートです。常に使うものではありませんが、侵害が疑われるような場面では有力な選択肢になります。
※本記事の内容は、記事作成時点の情報および法令に基づいています。正確な情報の提供に努めておりますが、内容の完全性・正確性を保証するものではなく、本記事の内容に関して生じた損害等について一切の責任を負いません。個別の事案については必ず弁理士等の専門家にご相談の上、手続きを進めていただくよう強く推奨いたします 。
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