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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 磁気ドラムメモリを発明した グスタフ・タウシェク(磁気ドラムメモリの発明によってコンピュータの価格を下げることに成功した優秀な発明家)

IP HACK

2025.03.14

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。コンピュータの内部には、データとプログラムを記憶し、参照・変更の処理を行う「記憶装置」と呼ばれる機能が搭載されています。1950年代から広く使われている記憶装置のひとつが、「磁気ドラムメモリ」です。それ以前に使用されていた磁気コアメモリよりも低価格であり、とにかくコンピュータを入手したいという一定の需要がありました。価格の安さは供給量の豊富さにもつながり、一般向けのコンピュータが大量に生産される時代が到来しました。磁気ドラムメモリを発明したのが、オーストリアの電気工学者グスタフ・タウシェクです。彼はパンチカード計算機に改良を施した実績でも知られてます。今回はそんなグスタフ・タウシェクの生涯を振り返っていきましょう。

グスタフ・タウシェクの前半生(パンチカードの会社を作ってIBMに売却する)

グスタフ・タウシェクは1899年、オーストリアのウィーンで生まれました。1926年から4年間、ドイツのゼンマーダーにある会社に勤め、パンチカードを使った会計システムを開発しました。パンチカードは紙に穴を開けることで情報を管理する記憶媒体で、電子コンピュータが生まれる前に主力メディアとして使用されていました。タウシェクはパンチカードの改良に大きく貢献しましたが、このシステムが量産されることはありませんでした。しかしこの発明がきっかけで、のちにコンピュータが一般人に広く普及することになるのです。

1928年、タウシェクはパンチカードを使用した機器を開発するために、ラインメタルパンチカード社という子会社を設立します。同年、この会社はIBMに買収され、パンチカードを使用した機器の製造において市場を独占しました。タウシェク自身もIBM社と5年間契約し、実に169件の特許をIBMに売り渡しました。

グスタフ・タウシェクの後半生(磁気ドラムメモリを発明して特許をIBMに売却する)

IBMに売却したいくつもの特許の中に、特に大きな実績として挙げられるのが「磁気ドラムメモリ」の開発です。磁気ドラムメモリは、1950年代から1960年代にかけて、コンピュータの記憶装置として広く使われていました。電子回路がまだ生まれる前の時代であり、主力メディアは磁気コアメモリでした。高速処理が可能であり、性能は非常に高かったものの、そのスペックを実現するためにはかなりのコストがかかっていました。販売価格も跳ね上がり、およそ庶民の手には届かない価格で売り出されるしかありませんでした。そんな時に発明された磁気ドラムメモリは、磁気コアメモリに性能こそ劣るものの、かなりのコストカットを実現しました。家庭用コンピュータの記憶装置にそこまでの性能を必要としないというニーズもあったため、磁気ドラムメモリは低価格で大量生産されました。主力記憶装置ではなく補助記憶装置で使う方が向いていましたが、それでも十分に使用することができました。磁気ドラムメモリを使用したマシンは広く普及し、特にドラムマシンと呼ばれることもありました。やがて時間が経過し、需要が落ち着いたことによる磁気コアメモリの価格低下や、電子回路が登場したことによるRAMの価格低下などによって、磁気ドラムメモリは徐々に姿を消していきました。代わりに登場した磁気ディスク装置が補助記憶装置の主力として活用されるようになっていきます。

磁気ドラムメモリの特徴としては、ドラム部分が大きな金属のシリンダーであり、強磁性記録材料物質で表面がコーティングされていることが挙げられます。これはハードディスクドライブの円盤をドラム状にしたもので、読み書きを行う一列の磁気ヘッドがドラムに付属していて、各ヘッドに対応してトラックが存在するという構築となっていました。

ドラムとディスクの大きな違いは、ドラムでは磁気ヘッドを移動させることがないという点にあります。そのため、シークタイムがなくなり、ディスクより高速に読み書きできるのがドラムのメリットです。コントローラはドラムの回転によって、データが磁気ヘッドのところに到達するのを待つだけで記憶処理を可能にします。ドラムの性能は回転速度に依存しますが、ディスクの場合はさらにヘッドの移動速度が問題とされていました。しかし一方、ドラムメモリでは容量の少なさが欠点として挙げられます。

磁気ドラムメモリの性能を向上させるため、タウシェクはコードの配置を慎重かつ緻密に計算する必要がありました。ある命令を実行した後、次の命令を実行するために磁気ドラムメモリから読もうとしたとき、ちょうどその命令が磁気ヘッドの位置に来るように工夫を施しました。これによって、ドラムの回転を待たずに次々と命令を実行できるようになったのです。この方式は後にセクタインターリーブとして、フロッピーディスクやハードディスクのセクタ配置最適化に応用されています。

1945年、塞栓症を患っていたタウシェクはスイスのチューリッヒで、入院中に息を引き取りました。1964年、ウィーン・フロリッツドルフの通りが、彼の名前をとってタウシェク通りと命名された。2012年には、エアフルト南東部の南東部研究産業センターの通りがグスタフ・タウシェク通りと名付けられました。

今回は、パンチカードの改良と磁気ドラムメモリの発明をしたグスタフ・タウシェクの生涯を振り返りました。磁気ドラムメモリの発明によって、コンピュータの価格を下げ、富裕層でなくともコンピュータを入手しやすくした功績は非常に大きなものです。現在のコンピュータには電子回路が使用されており、性能も価格も当時より格段に進化しています。コンピュータにそのような歴史があったことは忘れないようにしたいものですね。

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