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国内優先権主張の注意点(出願人同一)

2010.07.27

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国内優先権主張を伴なう出願をする場合、注意すべき要件の一つは、「出願人同一」の要件です。
ほとんどの案件では、この要件は気にする必要がありませんが、以下のケースの場合にミスが発生しやすいので、注意が必要です。
(1)基礎出願が単願でPCTが共願で、自己指定をする場合
大学が基礎出願を行って、企業が外国出願のスポンサーとして出願人に加わる場合がこの事案に該当します。この場合、PCT出願を単願で行ってから名義変更届を提出して共願に変更するか、国内出願の名義を共願に変更してからPCT出願を行うかのどちらかの手続きが必要です。後者の場合、名義変更の効力発生日がいつになるのかがはっきりしないこと、名義変更の手続きが却下される可能性があるというリスクがあるのに対し、前者はそのようなリスクがないので、とりあえずPCT出願をしてから、名義変更をする方が安全です。
(2)法律による出願人の変更
数年前に独立行政法人化がありました。法人化の前は、大学は法人格を有さず、出願人になれなかったので、別の者が出願人になっていました。僕が経験した公立大学法人のケースでは、県立大学を管轄する県が出願人になっていました。一方、法人化後は、大学が出願人になりました。大学が出願人になってから1年弱が経過したころに、県が出願人である出願についての国内優先出願の依頼がありました。その頃にはそのクライアントからの案件の出願人は全て大学の名前で出していたので、うっかりと、その国内優先出願も大学名で出してしまいました。そのケースについては、優先権期限前に間違いに気がついたので、ギリギリセーフでしたが、冷や汗がでました。
同じクライアントからの依頼でありながら「出願人同一」の要件を意識しなければミスが生じやすいケースです。

(3)基礎出願が共願で、そのうちの一方が改良発明をした場合

この場合、ついうっかりと自分だけで国内優先権主張出願をしたくなりますが、別出願にするか、共願人と共に国内優先権主張出願をするか、どちらかにする必要があります。

(4)基礎出願が単願で、出願後に共同研究が始まって改良発明が生まれた場合

この場合、ついうっかりと共願で国内優先権主張出願をしたくなりますが、別出願にするか、基礎出願を予め共願に名義変更するか、後の出願を単願で出願した後に共願に名義変更する必要があります。
(5)個人、有限会社、株式会社
これらは、法律的には別人格です。個人が会社を作ったり、有限会社が株式会社になった場合などには注意が必要かも知れません(一般承継などの規定で問題にならないケースもあるかも知れませんが、十分に検討をした方がベターです。)。依頼者が同じだと、「出願人同一」の要件はついつい抜け落ちてしまいがちなので、十分に注意が必要です。
「出願人同一」の要件が満たされない場合、優先権主張は無効で救済措置はありません。なお、パリ優先の場合には、このような要件はありません。特許実務の手続きの中には日本人を差別するものがいくつかありますが、そのうちの一つです。

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