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消尽について2

2012.08.02

伊藤 寛之

権利行使したら消尽?
の続きです。
「何故ならこの二つの特許権は別々の権利だからです。そこでは二重利得は問題になりません。消尽も問題になりません。別の権利なのですから。」の論理は合理的ではありません。
Aという構造に特徴を有する糸。
Bという材料を用いたことを特徴とする糸。
Cという弾性率を有することを特徴とする糸。
これらは、別々の特許になりますので、toppoさんの法理によれば、それぞれ別々に権利行使を行なっても二重利得にならないことになりますが、BBSの判示によれば、A,B,Cの特徴を有する糸を販売すれば、全ての権利が消尽します。別の権利だから、二重利得でないという論理は成り立ちません。
その糸を使った織物についての権利が消尽するかどうかは、織物に対して権利行使することが二重利得を呼べるかどうかによって定まる事実認定の問題だと思います。
toppoさんの設問のように、織り方に何の特徴もないような場合は、織物についての権利行使も制限されるでしょう。
一方、織り方に画期的な特徴がある場合には、その織り方を使った織物に対して権利行使を行うことは二重利得と言えない場合があると思います。このような場合には、権利行使が認められる可能性が高いと思います。
「二重利得」といえるかどうかで判断するのがBBSに沿った考え方になります。
糸と織物の請求項が1つの特許内にあるか、別々の特許にあるかで結論が分かれることを示した裁判例はないはずですので、独自の法理になってしまいます。論文試験では、独自の法理は禁物ですよ。どのように記載するのが、最高裁判例の考えに近いかに従う方がいいと思います。
それと、「織物に別の発明特定事項があった場合、発明の単一性(37条)を満たさないとして実際には拒絶査定が来る」は、明らかに誤りです。
糸に「特別な技術的特徴」があれば、その糸を特殊な織り方で織った織物は、単一性を満たします。別の特徴を有していることは、単一性の要件を満たすかどうかとは無関係です。
もう一つ、考慮すべきなのは、37条違反は無効理由ではないことです。実務上、審査官は、37条は厳格には適用しないので、37条違反の特許はありふれています(審査基準でも37条の要件は必要以上に厳格に判断すべきでないと記載されています。)。いいかえると、2つの請求項を別々の特許にすることもできるが、1つの特許の中に含めているという例は、ありふれています。
「消尽論の効果は特許権ごとに生じ、請求項ごとに生じるものではないと解する」という結論は、実体的な内容よりも、2つの請求項が1つの特許にあるか、別々の特許にあるかという形式的なことを問題にしていますが、それは、BBS事件判示に合っていないので、この法理を採用するのであれば、積極的な根拠が必要です。

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