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化学物質発明についての発明完成の要件を示した判決

2010.12.02

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◆平成13年(行ケ)第219号 審決取消請求事件
★未完成発明について
  (1) 特許法にいう「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち
高度のものをいう(同法2条1項)ところ,その創作された技術内容は,その技術
分野における通常の知識を有する者であれば何人でもこれを反復実施してその目的
とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体化され,客観化されたもので
なければならないから,その技術内容がこの程度に構成されていないものは,発明
としては未完成のものであって,同法2条1項にいう「発明」とはいえず,ひい
て,特許要件を定めた同法29条1項柱書にいう「発明」ということもできないと
いうべきである(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号
805号,同平成12年2月29日第三小法廷判決・民集54巻2号709頁)。
そして,いわゆる化学物質発明は,新規で,有用,すなわち産業上利用できる化学
物質を提供することにその本質があるから,その成立性が肯定されるためには,化
学物質そのものが確認され,製造できるだけでは足りず,その有用性が明細書に開
示されていることを必要とするというべきである(東京高裁平成6年3月22日判
決・知財集26巻1号199頁〔判例時報1501号132頁〕,その上告審であ
る最高裁平成9年10月14日判決により確定)。
  (5) 原告は,新規な化合物の発明に係る明細書の「発明の詳細な説明」におけ
る有用性の記載の程度としては,その新規化合物がいかなる用途に使用することが
できるかが明示されていれば足り,その有用性についての具体的なデータの開示ま
では要求しないというのが特許庁において長年にわたり採用されてきた実務慣行で
ある旨主張する。しかし,本件においては,上記のとおり,本件出願時明細書に記
載されていた多数の化合物の一部については,基本骨格が同じであっても置換基の
種類によっては除草活性がないものも相当数含まれるとの事実が判明していたので
あるから,本件特許明細書の従来技術に関する記載に示される除草効果の予測(上
記(4)ア)が合理的に成り立つということはできない。そうすると,QがQ-4であ
る本件ピラゾール系化合物の除草活性についての裏付けを全く欠く本件特許明細書
の記載からは,その有用性が当業者に理論上又は経験則上予測可能であるというこ
とはできず,原告の主張は,上記(3)の認定判断を左右するものではない。

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