「ハイパワー苦土石灰」(指定商品:苦土石灰肥料)は識別力なし
2012.09.03
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http://shohyo.shinketsu.jp/originaltext/tm/1258190.html
1 本願商標
本願商標は、「ハイパワー苦土石灰」の文字を書してなり、第1類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成22年9月3日に登録出願されたものであり、その後、指定商品については、原審における平成23年2月28日及び当審における同年6月22日付け手続補正書により、第1類「苦土石灰を含む植物成長調整剤類,苦土石灰肥料」と補正されたものである。
2 当審の拒絶の理由
当審において、新たに請求人に対して、平成23年12月27日付けで通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。
本願商標は、「ハイパワー苦土石灰」の文字を書してなるところ、構成中の「ハイパワー」の文字は、「出力・馬力が大きいこと。性能のすぐれていること。」(広辞苑第六版)を意味する語として、一般に親しまれているものであり、また、「苦土石灰」の文字は、「クエン酸可溶性マグネシウムを3.5パーセント以上含有する石灰肥料。」(同)を意味し、肥料の一種の名称を表すものであるから、構成全体として「強力な苦土石灰」ほどの意味合いを容易に認識させるものである。
そして、前記「ハイパワー」の文字は、本願の指定商品を取り扱う業界においても、以下のように商品が強力であることを表示する語として使用されているものである。
(1)「株式会社東商」のウェブサイトにおいて、「配合肥料」の説明に、「数種の有機質に速効性の化成・ミネラルをバランスよく配合したハイパワー配合肥料」との記載がある(http://www.10-40.jp/seihin/sam_4.html)。
(2)「サンアグロ株式会社」のウェブサイトにおいて、肥料の銘柄に「ヨーゲンハイパワー」との記載がある(http://www.sunagro.co.jp/catalog/series_detail/index/seriesID/25)。
(3)「株式会社グリーンテック」のウェブサイトにおいて、家庭用の園芸に使用する用土類の商品として「■ハイパワー腐葉土 堆肥30%、ココピート10%配合の腐葉土で、土壌改良効果も抜群です。」との記載がある(http://gr-tec.com/kateiengei.html)。
(4)「Sawakichi」と称するウェブサイトにおいて、肥料名に「くみあいハイパワー配合 有機入り90」、メーカー名に「旭肥料(株)」との記載がある(http://members2.jcom.home.ne.jp/komatsuna/hiryo.html)。
(5)「いい野菜.com」と称するウェブサイトにおいて、「動物性有機ボカシ肥料」の説明に「地力低下した土をハイパワーな土に!」との記載がある(http://www.e-yasai.com/materials/m-cat02/mer-7.html)。
そうとすれば、本願商標をその指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、「品質が優れた(強力な)苦土石灰」であることを理解させるにとどまるものというのが相当であり、本願商標は、商品の品質、効能を表示するにすぎないものと認める。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
3 当審の判断
(1)本願商標は、上記1のとおり「ハイパワー苦土石灰」の文字を書してなるものである。
そして、上記2の拒絶の理由のとおり、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は該文字を「品質が優れた(強力な)苦土石灰」であることを理解させるにとどまるものであり、単に商品の品質、効能を表示するにすぎないものというべきであるから、商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)請求人の主張について
ア 請求人は、「本願商標『ハイパワー苦土石灰』の文字は、各種辞書等に掲載されておらず、また、インターネット検索で『ハイパワー苦土石灰』の文字を検索しても、わずか5件のみがヒットするだけで、それらは全て出願人の販売に係るものであることから、該文字からは『強力な苦土石灰』程度の意味合いを暗示させるものの特定の観念を想起させない語である。」旨主張する。
しかしながら、本願商標の構成中「ハイパワー」の文字は、肥料業界の取引者、需要者に限らず、広く一般に「強力」ほどの意味合いで使用される平易な用語であり、該文字が商品に付された場合には、既存の商品よりも品質、効能が優れていることを容易に理解、認識させるものであり、また、構成中の「苦土石灰」の文字が肥料の名称であることからすると、「ハイパワー」の文字と商品名である「苦土石灰」とを結合した本願商標に接する取引者、需要者をして、単に当該商品が通常の「苦土石灰」よりも品質が優れた(強力な)商品であることを認識させるにすぎないものである。
そして、商標法第3条第1項第3号は、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき、それ故に登録を受けることができないとしたものであって、該表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきである(東京高裁平成12年9月4日判決〔平成12年(行ケ)第76号〕参照)から、たとえ、「ハイパワー苦土石灰」の文字が、その指定商品を取り扱う業界において、商品の品質を表示するものとして、実際に使用されている事実が存在していないとしても、本願商標が商品の品質等を表示するものであると認定、判断することの妨げにはならないものであり、請求人の上記主張は採用できない。
イ 請求人は、「肥料業界は、限られた肥料の輸入業者と製造業者から成り、需要者の多くは全農をはじめとした農業従事者、一部家庭菜園等を行う消費者から構成されているため、肥料の商標は他の商品では識別力に乏しいとされる形容詞であっても登録されている例が多数存在している。」旨主張する。
しかしながら、肥料等を取り扱う業界は、限られた事業者により提供されるものであったとしても、その需要者は全農をはじめとした農業従事者のほかに、家庭菜園等を行う一般の消費者も含まれるものであり、また、多数の商品を扱うホームセンター等においても販売されていることからすれば、需要者は限られた者であるということはできない。そして、仮に請求人の述べる登録例が存するとしても、登録出願に係る商標が商標登録の要件を具備しているか否かは当該商標の構成態様と指定商品の取引の実情(識別力のないか弱い品質表示語と肥料等の普通名称を結合させた商品が製造・販売されている実情。)等に基づいて、個別具体的に判断されるべきものであって、かつ、その判断時期は、査定時又は審決時と解されるべきものであるから、他の登録例の存在によって、前記判断は何ら左右されないというべきであるから、請求人の上記主張は採用できない。
(3)したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるから、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。