【請求項1】構成A+B+Cを備える装置。
【請求項2】構成Dをさらに備える請求項1に記載の装置。
このような請求項がある場合に、審査官が構成A+B+C+Eを開示する引例を引いてきて、請求項2の内容で請求項1を限定すると、拒絶理由が解消するとします。
補正後のクレームは、
【請求項1】構成A+B+Cを備え、構成Dをさらに備える装置。
となります。
この際に意見書では、
・「請求項2の内容で請求項1を限定しました。」と説明する方法と、
・「請求項1を削除して、請求項2を独立項にしました。」と説明する方法があります。
最初の拒絶理由通知に対しては、どっちで説明しても結果は、同じです。
しかし、最後の拒絶理由通知に対する補正では、大きな違いがあります。
請求項2の要件は、外的付加に該当するので、請求項2の内容で限定する補正は権利としては認められないからです。審査官の温情で認められる場合が多いと思いますが、却下されても文句は言えません。
一方、請求項の削除は、権利として認められているので、却下されることは法律上ありえません。
意見書での説明内容は、却下されるかどうかとはあまり関係なさそうな感じですが、以下に示す判決では、「減縮
」か「削除」かを判断する際の一要素として意見書の記載を参照していますので、意見書の記載には注意が必要です。
「請求項1の削除」と記載したほうが安全なのは確実ですが、以下のようなクレームの場合には問題が生じます。
【請求項1】構成A+B+Cを備える装置。
【請求項2】構成Dをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項3】構成Eをさらに備える請求項1に記載の装置。
このようなクレームの場合は、請求項3が請求項2には従属していないので、請求項1を削除すると、以下のようなクレームにせざるを得ません。
【請求項1】構成A+B+Cを備え、構成Dをさらに備える装置。
【請求項2】構成A+B+Cを備え、構成Eをさらに備える装置。
実際は、こっそり請求項3を請求項2に従属させるように補正をし、認められることが大半だと思いますが、ヒヤヒヤしながら補正をすることになります。米国から入って来た案件は、単数項従属が多いので、特に注意が必要です。
このような問題を防ぐには、最初の拒絶理由通知が来たときに、以下のように、多数項従属に補正をします。
【請求項1】構成A+B+Cを備える装置。
【請求項2】構成Dをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項3】構成Eをさらに備える請求項1又は2に記載の装置。
参考記事:
平成 17年 (行ケ) 10266号 審決取消請求事件
まず,補正後の請求項1の記載は,「データベースをホスト局に構築しておき」を「データベースをホスト局に構築してあり」とし,また,「有意味化あるいは復号されてなる」を「有意味化あるいは復号されるようになっており」とした点を除き,補正前の請求項2の記載と同じである。つまり,補正前の請求項2の記載は,請求項1を引用しているところ,この引用形式の請求項を,引用の対象である請求項(ここでは請求項1)の記載を取り込んだ独立形式の請求項に書き直せば,上記の点を除き,補正後の請求項1の記載と同じになる(当然,その技術的内容においても,補正後の請求項1は補正前の請求項2と実質的に同一である。)。
次に,補正後の請求項2の記載は,補正前の請求項3の記載において引用の対象としていた「請求項1又は2」を「請求項1」としたものである。すなわち,補正後の請求項2は,それ自身が「請求項2」であることから,補正後の請求項1のみを引用する記載となったものであるが,技術的内容としては,補正前の請求項1を引用した部分を削除し,補正前の請求項2を引用する部分のみを残したものとなっている。
補正後の請求項3~6は,引用する請求項の番号を対比すれば明らかなように補正前の請求項4~7を単に繰り上げたものである。その技術的内容においては, 補正前の各請求項において引用の対象となっていた請求項を介して補正前の請求項1を引用していた部分を削除し,補正前の請求項2を引用する部分のみを残したものとなっている。
そして,補正後の請求項7は,補正前の請求項8と対比すると,補正の前後を通じて引用する請求項が「請求項1」で変更されていない。すなわち,補正後の請求項7は,補正後の請求項1を引用しているところ,前記のとおり,補正後の請求項1は,補正前の請求項2と実質的に同一であるのであるから,補正後の請求項7は,内容的には,補正前の請求項2を引用しているに等しいものである。一方,補正前の請求項8は,補正前の請求項1を引用している。したがって,内容的にみれば,補正後の請求項7は,補正前の請求項8の記載事項を,補正前の請求項2の記載事項により限定したものとなっている。
(4) 原告が平成14年10月3日に提出した審判請求理由についての手続補正書(甲10)には,本件補正について次の記載がある。
「(2)補正の根拠 今回(平成14年9月4日)の補正は,平成13年11月12日に提出した手続補正書(拒絶理由通知書に対して補正を行ったもの)により補正後の請求項1において,請求項2の「ホスト局からユーザーに提供されるターゲットユーザーの通信接続情報のうち少なくとも電話番号はユーザーにとって不可視状態であるか,あるいは暗号化されており,ユーザーマシン内部におけるユーザーの関与不能な領域において有意味化あるいは復号されてなる」点を限定したものです。
また,今回補正後の請求項2から7の各項は,前記のとおり請求項2を請求項1で限定したことに伴い,請求項2を削除して請求項3から8の各項の項番号を繰り上げたものです。」(4~5頁) (5) 以上の事実によれば,原告自身,本件審決に係る審判手続において,本件補正が,補正後の請求項1において,補正前の請求項2記載の構成を加えて限定し,補正前の請求項2を削除して請求項3から8の各項の項番号を繰り上げたものである旨説明しているものであるが,本件補正の内容は,補正後の請求項1において,補正前の請求項1を補正前の請求項2記載の構成を加えて限定し,補正前の請求項2を削除して,補正前の請求項3から8につき,補正前の請求項2を引用する部分を削除して各項の項番号を繰り上げたものとなっているものであって,原告の上記説明に一応合致した内容となっている。
上記によれば,本件補正は,補正前の請求項2を削除した上で補正前の請求項1を減縮し, かつ,補正前の請求項3において引用する「請求項1又は2」を「請求項1」と改めることにより,補正前の請求項3及びこれを引用する補正前の請求項4ないし7の記載事項から,補正前の請求項1を引用していた部分を削除した(すなわち,多数項引用形式請求項の引用請求項を減少させた)結果,補正前の請求項3 及びこれを引用する補正前の請求項4ないし7を減縮したものと認めるのが相当である。
また,前記のとおり,補正後の請求項7は,補正前の請求項8を単に繰り上げたものでなく,補正前の請求項8の記載事項を,補正前の請求項2の記載事項により限定したものであるから,補正後の請求項7は補正前の請求項8を減縮したものと認められる。
したがって,本件補正は,単なる請求項の削除ではなく「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものというべきであるから,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。