ヤクルトの容器は「立体商標」 知的財産高裁
2010.11.16
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ヤクルトの容器は「立体商標」 知的財産高裁
日経新聞にヤクルトの容器について立体商標登録が認められたとのニュースが載っていました。
判決を未だ入手していないので、真偽は不明ですが。。。
ヤクルトの容器に類似した容器で同じような乳酸菌飲料はたくさん売られていますよね。
これからどうなるのかちょっと考えてみます。
先使用権は主張できるか?
商標法には、以下のように、先使用権が規定されています。しかし、この規定の適用を受けるには、「商標登録出願前からの使用」と「出願時にすでに周知になっていたこと」が要件になっていますので、先使用権を主張して、使用を継続することは極めて難しいでしょう。
(先使用による商標の使用をする権利)
第32条 他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第9条の4の規定により、又は第17条の2第1項若しくは第55条の2第3項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第17条の3第1項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。
商標的態様ではないとの主張
次に思いつくのが26条に規定される、商標権の効力の制限です。この規定は、簡単にいうと出所を表す態様での使用でない場合には、商標権の効力が及ばないとするものである。例えば、何らかの間違いで「冷たいアイス」という商標が登録されてしまった場合、アイスクリームに「冷たいアイス」と普通に表示することが許されなくなってしまうと大変です。そこで、商品の内容を説明するような態様での使用にはそのそも商標権の効力が及ばないものとされています。
今回の適用が考えられるのは、5号の「商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」です。しかし、この5号の規定によってヤクルト類似の容器の使用を認めてしまうと、ヤクルトの商標権が非常に空虚なものになってしまいます。従って、この規定の適用を受けるのはなかなか難しいと思います。
ただし、容器形状を少し変更して、容器の強度を保つために必然的に定まる形状にすれば、5号の適用が受けやすくなるかも知れません。
ダイエーに行くと色々な会社が同じようなパッケージで、ヤクルトによく似た乳酸菌飲料を販売していますよね。あの容器形状を見ると、「ヤクルト」が思い浮かぶよりも、「乳酸菌飲料」が思い浮かぶ人も多いと思います。そうすると、ヤクルトの容器は、現時点ですでに、乳酸菌飲料を収容する容器の普通の形状であるといえなくもないと思います。つまり、すでに普通名称化ならぬ、普通容器化してしまっていて、権利行使が不可能な商標になってしまっているといえなくもないと思います。そうすると、2号の規定により、商標権行使を回避できるかも知れません。
(商標権の効力が及ばない範囲)
第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
1.自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
2.当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。次号において同じ。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
3.当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標
4.当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標
5.商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標
2 前項第1号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。
11月17日追記
朝日新聞の記事によると、類似品の販売差止めは求めないようですね。
ところで、この立体商標と同一の容器に、例えば、「キリン」という商標を付して販売した場合、商標権侵害になるのかな?
この場合は、容器の形状と「キリン」という文字との結合商標になる訳だけど、どう考えても、文字の方が識別力が強いので、この乳酸菌飲料の販売者が誰かと聞かれると、みんな「キリン」と答えるのは目にみえているので、
どう考えても出所混同が起こらないように思えます。商標法の趣旨によれば、出所混同を生じ得ないものは非類似となるように思えます。
現実問題として、容器に会社名を付さずに製品を販売することはありえないですよね。
もし、このような論理で商標非類似によって侵害を逃れることができれば、容器の立体商標の権利行使できる場面が全くなくなってしまうので、立体商標登録の意味がなくなってしまいます。
容器の立体商標についての侵害事件は、これまで一件もないので、今後の展開が楽しみです。