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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 瓶詰食品の発明家 ニコラ・アペール(「フランス革命の参加によって投獄されたが、ナポレオンのために瓶詰食品を発明した美味しい発明家)

2023.08.14

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。食品の密閉技術も、先人の知恵によって生み出されたアイデアのひとつです。現在でもビン詰めや缶詰として、多くの食品が保管されています。このような密閉容器による保存方法を見出したのが、フランスの食品加工業者であったニコラ・アペールです。彼はフランス革命の参加によって投獄された過去を持ちながら、食品の保存方法について研究を行いました。現代でもそのアイデアと技術は高く評価され、「密閉保存による食品保存の祖」として広く知られています。今回はそんなニコラ・アペールの生涯を振り返っていきましょう。

ニコラ・アペールの前半生(フランス革命に参加して投獄されるが、ナポレオンのために瓶詰食品を発明する)

ニコラ・アペールは、1749年、マルヌ県シャロン=シュル=マルヌで生まれました。アペールが後世に名を残す活躍をしたのは、50歳を過ぎてからです。しかし食品業界で大きな業績を残す前には、多大な苦難がありました。時は1789年、貴族と上層市民が権力をめぐって争うフランス革命が勃発。一国を巻き込む大革命が行われました。アペールも例に漏れず、この革命運動に参加していました。しかし、このような活動に加担した人が逮捕される事例は少なくありません。アペールは革命運動への参加を理由に、3ヶ月の間投獄されてしまいます。フランス革命は1795年に幕引きとなり、金融業や商工業を営む上層市民が権力を勝ち取りました。

フランス革命の終結から約9年後、アペールは食品の保存方法について研究していました。彼が食品保存に熱意を傾けていた背景には、フランス軍の躍進とナポレオンが大きく関わっていると言われています。フランス革命の後、同国には新たな共和体制が確立され、ナポレオン率いるフランス軍は周辺諸国へとその影響力を拡大していきました。外国遠征で輝かしい戦績を残している一方で、食事に関する問題は大きなものでした。ナポレオンは兵士たちの士気を高めるために、新鮮で美味しい食事の確保が必要だと考えました。当時の兵糧は塩蔵や薫製、酢漬けが中心であり、お世辞にも美味しいとは言えない代物でした。腐敗のスピードも早く、長持ちしないことも早急に解決しなければなりません。

ナポレオンは政府に訴えかけ、軍用食料貯蔵法を研究するように要求します。フランス政府はこれを受けて、食品を鮮度を保ったまま保存する方法について公募を行いました。そこで採用されたのが、アペールの「ガラス瓶の中に食物をいれ、加熱殺菌して保存する」という方法です。密閉状態で食物を保存することにより、長期的な保存でも鮮度を失わず、味も落とさないことはまさに食の革命ともいえるアイデアでした。食物を真空保存するアイデアと技術はこの時に誕生し、その後この技術に関して様々な商品が生み出されるようになります。

日本食糧新聞の記事では、この時代の公文書についても触れられています。それによると「ニコラ・アペールの加工食品(瓶詰め)が船員を死から救いあげた」と書かれており、当時の軍事下での実用性についても確認できます。

ニコラ・アペールの後半生(軍事用の瓶詰食品が民間にも普及する)

フランスにおいては、食品の密閉は軍用の技術でした。これが世間一般に広く知れ渡ったのは、1808年のこと。アペールはフランス産業振興連盟に、3本の密閉されたミルク瓶を提出しました。開封されたのは6年後でしたが、ミルクは一切腐敗せず、試飲も可能な状態でした。この結果、アペールの製法は産業振興連盟に認められ、「アペール法」として広まりました。

アペールの製法は料理人の間でも話題となり、多くの食品加工業者や研究家がより良くしようと情熱を傾けました。のちにイギリスのピーター・デュランドによって、缶詰の技術が発明されました。初期の缶詰はブリキを用いたもので、イギリスでは世界初の缶詰工場が建てられました。缶詰は広く普及するようになりますが、当初は殺菌に問題があり、中身が発酵して爆発したり、密閉用のはんだに鉛が使われており、食べた人が鉛中毒で亡くなったりするなどの事故も起こっていました。その後の努力によって、現在のような安全で美味しくさべられる缶詰が発明されたことは忘れてはいけないでしょう。

アペールは1841年、マシーでその生涯を終えました。彼の発明は食糧難に苦しむ多くの人々を救ったとして、高い評価を獲得しています。

今回は、食品の密閉保存技術を生み出した人物であるニコラ・アペールの生涯を振り返りました。フランス革命の真っ只中、激動の時代を生き抜いた人物だからこそ、強いメンタリティを持って物事に取り組めたのではないかと思います。初めは兵士たちの士気を上げる、軍のための技術でしたが、一般市民の間にも広まると、戦時中だけではなく、遠洋に出るときの食糧や、災害に遭遇したときの保存食として使用されるようになりました。現代でも缶詰を便利に利用できているのは、アペールのおかげなのです。

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