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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 「空中蒸気車」の発明家 ウィリアム・ヘンソン(飛行機の設計の基礎を築くが、飛行機の実用化には失敗した発明家)

2023.07.04

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。飛行機の発明をした偉人として、ライト兄弟はあまりにも有名です。しかしライト兄弟以前にも、航空に関する開発を行っていた人物が存在します。それがイギリスの発明家であるウィリアム・ヘンソンです。彼は1840年代に「空中蒸気車」を発明した人物として知られています。固定翼や推進力、降着装置、尾翼などの設計はのちの飛行機設計にも使用される革新的な発明でした。結局実用化には至りませんでしたが、ヘンソンの発明が航空開発の基礎になったことは間違いありません。今回はそんなウィリアム・ヘンソンの生涯を振り返っていきましょう。

ウィリアム・ヘンソンの前半生(レース編み職人から飛行機の発明家に)

ウィリアム・ヘンソンは、イングランドのノッティンガムにて、1812年に生まれました。彼が定住したサマセット州のチャードはレース編みの本場であり、本業はレース編み職人として生計を立てていました。飛行機の設計で知られるヘンソンですが、レース編みに関する特許も取得しています。

ヘンソンが航空に興味を持ち始めたのは、1838年ごろのことです。レース編みをする仕事のかたわら、空の勉強をして、航空事業に乗り入れる体制を整えていました。研究の成果はすぐに表れ、1841年には自作の蒸気機関を発明し、特許を取得しました。翌年には同業者でありながら友人でもあるジョン・ストリングフェローとともに、旅客輸送用の大型単葉機を設計しました。これは「ヘンソンの空中蒸気車(空飛ぶ蒸気車)」と名付けられ、イングランドに広まっていきました。さらにその翌年、ストリングフェローの他に二人の協力者を募り、資金を集める目的でイングランドで航空輸送会社を起業しました。この会社では、自分たちで設計した縮小模型を作成し、販売しました。これは実験的な蒸気機関を動力としていて、レールから離れて浮上や跳躍をすることに成功しました。1844年からの3年間はより小型化した模型とより大きくした模型で飛行を試みたものの、こちらは失敗に終わりました。

彼が考えついた模型は、「小型」「大型」「フルサイズ」の3種類があります。小型の模型は詳しい大きさはわかっていませんが、推進式のプロペラ2つを主翼の後ろに取り付けたものです。大型の模型は、翼幅が20フィートで、飛行することができませんでした。そして最終的な構想が、フルサイズ版の飛行機です。翼幅は150フィート、翼の面積は418mにおよびます。木製の円材を布で覆い、内部・外部を銅線で補強したものです。大型模型の失敗により、フルサイズ版が作られることはありませんでした。

この失敗によって、空中蒸気車のフルサイズ版を作ることはありませんでした。事業はうまくいかず、この会社は1848年に解散することになります。ヘンソンはこの段階で飛行機の発明を諦めました。

空中交通会社は、大型模型での試みが失敗したために、空中蒸気車のフルサイズ版を作ることはありませんでした。ヘンソン、ストリングフェロー、マリオット、およびコロンバインは1848年ごろに会社を解散しました。ヘンソンは飛行機の発明を諦め、1849年結婚してアメリカに移住した。ストリングフェローはその後も実験を続けました。

ウィリアム・ヘンソンの後半生(イギリスからアメリカに移住して機械技師・土木技師になる)

ヘンソンは飛行機の発明を諦めたあと、妻のサラとともにアメリカに移りました。ニュージャージー州のニューアークに住み着き、ここでしばらくの間暮らしました。アメリカにいる間、ヘンソンは飛行機の研究を進めることはなく、機械技師・土木技師として働きました。夫婦は7人の子供をもうけましたが、成人に達したのは4人だけでした。その後、ヘンソンは1888年に亡くなりました。彼と家族はニュージャージー州のイースト・オレンジに埋葬されています。

19世紀に入ると、世の中の乗り物のほとんどが蒸気機関を使用したものとなります。陸路では蒸気機関車や自動車が走り、海や川では蒸気船が、そして空路は飛行船が使用され、飛行機に関する発明は行われていませんでした。しかし、そんな中でも飛行機を飛ばそうと考える科学者は存在しました。数少ない技術者は飛行機を飛ばすための理論を確立しようと躍起になっていましたが、前例のない開発は難航し、暗中模索が続きました。この状況を打破したのがライト兄弟による世界初の有人飛行の成功です。飛行機の設計はヘンソンが作り出したものとほとんど形を変えず、人類に飛行機の誕生をもたらしました。

今回は、飛行機の設計で航空開発に多大な貢献をしたウィリアム・ヘンソンの生涯を振り返りました。飛行機といえばライト兄弟をイメージする方も多いかもしれませんが、ヘンソンが築いた上での名誉だということは忘れてはいけません。残念ながらヘンソンは存命中に飛行機を完成させるに至りませんでしたが、航空業界では彼を称える向きもあります。飛行機の歴史の裏には、表舞台に出ない新たな発見がありました。歴史を紐解くと、このような発見があって興味深いですね。

 

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