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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー 電気メッキの発明家 ジョージ・リチャーズ・エルキントン(電気メッキの特許で大富豪になり家庭にも恵まれて幸せな生涯を送った発明家)

2023.05.03

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。製品の外側に取り付けるメッキにも、きちんとした歴史が存在します。中でも電気メッキは、電流を活用した技術で、他の方法よりも強固にメッキを取り付けることが可能になります。この技術を発明し、実用化したのがイングランドの技術者であるジョージ・リチャーズ・エルキントンです。彼は製造業者として働いていましたが、新しく効率的な技術を探し続けていました。商業的採算が取れる技術として、電気メッキの技術に関する特許を取得することに成功します。彼が発明した電気メッキ技術は、現代のものづくりでも非常に重要な意味を持っています。今回はそんなジョージ・リチャーズ・エルキントンの生涯を振り返っていきましょう。

ジョージ・リチャーズ・エルキントンの前半生(電気メッキの発明)

ジョージ・リチャーズ・エルキントンは、1801年、バーミンガムの眼鏡製造業者の家に生まれました。若い頃から製造業に触れていたエルキントンは、叔父たちが経営していた銀メッキの事業に入って、修行を行いました。叔父たちのもとでメッキの技術を学んできたエルキントンは、順調にスキルを磨いていきます。叔父たちが死去すると、残されたエルキントンはひとりで銀メッキ事業の後を継ぎ、経営についても独力で行いました。その後、いとこのヘンリー・エルキントンの協力を得て、共同経営へと移行しました。当時のイングランドでは、電気メッキの知識は議論され始めたばかりで、それほど注目はされていませんでした。まだ萌芽的な段階であり、多くの技術者・科学者は新しい技術よりも確立されている技術を好んで使用していたからです。研究についても少しずつ進歩していましたが、新しい技術の効率化には時間がかかりました。

しかしこの段階で、エルキントンはすでに電気メッキの将来性に着目していました。電気メッキの研究については、外科医のジョン・ライトがシアン化物の中からシアン化銀溶液の有用性を発見しましたが、この時すでにエルキントンは金属加工に電気を応用する技術についての特許を取得していました。エルキントンはライトが発見した技術の権利も買い取ってこの特許も取得し、さらにはその後の開発・改良についての特許も取得しました。1843年にはヴェルナー・フォン・ジーメンスが最初に発明した金銀メッキ処理の改良法の特許も買い取りました。このように特許を数多く取得したエルキントンは、知名度を上げながら製造業で大きな存在となっていきます。ライセンスの使用料をとって、潤沢な資金を蓄えていきました。この資金を使って、エルキントンは事業を拡大していきます。その後の人生において、エルキントンがもっとも成功したのはニューホール・ストリートで立ち上げた電気メッキ工場でした。

ジョージ・リチャーズ・エルキントンの後半生(電気メッキ工場の経営に大成功)

1841年、エルキントンはニューホール・ストリートにて新しい電気メッキ工場を立ち上げました。翌年にはペン製造で活躍していたジョサイア・メイソンも事業に加わり、製品の多様化を進めていきました。最初に作っていた眼鏡やペンだけでなく、宝飾品や食器などにも手を広げて、どんどん事業を拡大していきます。その背景には、これらの製品にはより安価な技法によってメッキ処理が施されるようになったことにあります。時代は流れ、ヴィクトリア朝時代になると、電気メッキは一大産業となっていました。1880年には1000人もの従業員がニューホール・ストリートの工場で働き、そのほかに6ヶ所の工場が稼働するほどの勢いでした。この工場は、稼働が停止した現代でもニューホール・ストリートに残されています。施設内にはエルキントンを記念したブルー・プラークが掲げられています。科学産業博物館に転用されて展示を行なっていた時期もありますが、現在博物館は閉鎖されています。

工場の経営で莫大な資産を築いたエルキントンは、1825年にメアリ・オースター・バレニー と結婚し、子宝に恵まれました。6男1女の子どもたちを授かり、大家族として暮らしていました。メアリが1858年に死去すると、2年後の1860年、マーガレット・モーガン・ジョーンズと再婚しました。エルキントンの生涯と2人の妻を称え、セリー・オークの生メアリ協会にステンドグラスの窓が設置されています。この教会はエルキントンが多額の寄付ををした教会であり、ゆかりのある建物としても知られています。

今回は、電気メッキの技術についてたくさんの特許を取得したジョージ・リチャーズ・エルキントンの生涯を振り返ってきました。彼の発明は電気メッキを使う技術において多大な功績となり、現代でもその技術が活用されています。技術者としてだけでなく、教会への寄付を行うなど人格者であったエルキントンの人生は、偉人と呼ぶにふさわしいものだったといえるでしょう。現代で私たちが使っている製品にも、このような技術が使われていると考えると、感慨深さを得られます。ものづくりの歴史を紐解くと、新たな視点を持つことができるかもしれません。あなたの身近にあるものについて、たまにその歴史を調べてみるのも面白いですよ。

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