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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー AI研究の世界的権威 シンセサイザーの発明家 レイ・カーツワイル(未来予想を次々に的中させてきた天才未来学者)

2023.01.14

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ここ十数年間におけるIT技術の急激な発展に伴い、ビッグデータ、ディープラーニング、DX(Digital Transformation)、IoT(Internet of Things)というような新たな技術や概念が誕生してきています。たとえばディープラーニングは、人間の脳内で行われている処理をコンピューターで再現させる技術であり、自動運転や自動認識システムに使われています。IoTは家電や家具など身の回りのモノとインターネットを融合させる技術で、スマートフォンやスマートウォッチにより私たちの健康状態が常に可視化できるようになりました。現在では欠かすことのできない(広い意味での)IT技術ですが、これらの背景には人工知能(Artificial Intelligence, AI)の発展があり、現代人はAIとともに生活していると言っても過言ではありません。AIの世界的権威として知られているのがアメリカ合衆国の発明家・未来学者であるレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)です。彼はコンピューター科学の発展に大きく貢献し、未来予測などの観点から見ても私たちに大きな影響を与えた人物です。そこで今回はレイ・カーツワイルの生涯について振り返っていきましょう。

レイ・カーツワイルの生涯(現在までのコンピューター科学の発展に貢献)
レイ・カーツワイルは1948年(昭和23年)2月12日、オーストリアからアメリカ合衆国ニューヨーク州の街クイーンズに亡命してきたユダヤ系住民の一家に誕生しました。幼いころのカーツワイルは様々な宗教の教養を養うスクールに通い、宗教の多様性について学んだそうです。
カーツワイルが12歳となった1960年(昭和35年)に初めてコンピューターに触れました。コンピューター(電子計算機)の先進国だったアメリカでは、日本よりも一足早く1946年に誕生したと言われています。コンピューターを目にしたカーツワイルはすぐに夢中になり、統計分析のプログラムや作曲ができるようになったそうです。
高校生になったカーツワイルは、「I’ve Got a Secret」というTV番組に出演し、コンピューターに作曲させた音楽を披露しました。この発明でなんと国際科学フェアで1位となり、ホワイトハウスで当時のリンドン・ジョンソン大統領(当時)からウェスティングハウス・サイエンス・タレント・サーチ賞(高3生を対象としたアメリカ最古で権威のある化学コンテスト)を受賞しました。
その後、マサチューセッツ工科大学へと進学し、在学中の20歳のときには起業しました。そこでは大学のデータベースを構築し、大学選択のプログラムを作成しました。学生としても研究を続け1970年(昭和45年)にはコンピューター科学(計算機科学)と文学の学士号を取得しました。
1974年(昭和49年)、カーツワイル・コンピューター・プロダクツ社を設立し、のちにさまざまな発明がなされIT技術の発展に大きく貢献することとなります。
1982年(昭和57年)、アメリカのシンガーソングライターで音楽プロデューサーでもあるスティーヴィー・ワンダーから「コンピューターを使って本物の生成器の音を再現することは出来ないか」と問われました。これを機に、カーツワイルは研究を開始することとなり、カーツウェル・ミュージック・システムズが設立され、スティーヴィーは会社のミュージックアドバイザーとして招かれました。そして、電子工学的手法により音楽などを合成する楽器である「シンセサイザー」の開発が始まりました。1984年(昭和59年)には世界初のシンセサイザー製品「Kurzweil K250」が誕生しました。シンセサイザーは世界中で人気を博し、実際に日本でも1980~1990年代に大ブームを巻き起こした小室哲哉プロデュースの音楽作品などをはじめとして広く利用されるようになりました。
1990年(平成2年)には著書「The Age of Intelligent Machines(知的機械の時代)」を公刊し、ベスト・コンピュータ・サイエンティストにも選出されました。この頃は徐々にインターネットが普及し始めた時代でもあり、チェスの試合結果をカーツワイルがコンピューターで予測し、見事的中させたことでも知られています。
2005年(平成17年)には「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology(ポスト・ヒューマン誕生:コンピューターが人類の知性を超えるとき)」が発表され、科技術的特異点(科学技術の発展によりいずれコンピューターの性能が人間の身体や脳が抱える限界を突破することが可能となる境界)が世間一般的に認知されるようになりました。
2012年(平成24年)にはGoogleに入社し、Gmailアプリの「スマートリプライ」という機能の研究を担当することになりました。

レイ・カーツワイルの生涯(的中させてきた未来予想の数々)
レイ・カーツワイルはAIをはじめとするコンピューター科学を駆使し、未来予測の点においても非常に高い評価を獲得しています。たとえば、ヒトゲノム解析プロジェクトが挙げられます。このプロジェクトでは初めの1%を解析するのに7年かかったことから「終了までに700年もかかる」と言われてきました。そんな中カーツワイルは『1%終わったならほとんど終わっている』『この分野の研究は毎年倍々で結果が伸びていくから、次の年には2%、その次の年には4%、その次の年には8%…つまりあと7年で解析は終わりだ』と言いました。実際1990年に発足されたこのプロジェクトは2000年に完成し、2003年に公開された完成版ではヒトの全遺伝子の99%の配列が99.99%の正確さで含まれていると明らかになりました。
また、2005年(平成17年)にカーツワイルが予想した未来は概ね的中しています。「2010年代にはコンピューターの小型化に伴い日常生活に統合される(スマートウォッチやスマートフォン)」、「高品質なブロードバンドインターネット接続がほとんどの地域で利用可能となる」と予想されました。さらに、「2015年には家庭用ロボットが家を掃除している可能性がある」、「2018年には10TBのストレージ(人間の脳の記憶容量に相当する)が1,000 USDで購入できるようになる」と予想されていました。
もちろん、カーツワイルは2023年(令和5年)より先の未来も予想しています。たとえば、「2025年には、一部の軍事無人探査機や陸上車両は100%コンピューター制御されるようになる」、「2030年代には、ナノテクノロジーは人の知性、記憶や人格の基礎を変え、人々は自分の脳内の神経接続を自由に変更できるようになる」、「2045年には、1000 USDのコンピューターは全ての人間を合わせたより知的となっている」などさまざまな予測がなされています。
私たちがより豊かに生活していくためにはIT技術に対してアンテナを張り、適応していく必要があるのではないでしょうか。もちろん、普通に生きていても生活は便利になっていくことでしょう。これまで非常に難しいIT技術について述べてきましたが、私たちがスマホアプリを駆使することも立派なIT技術です。現代はITに興味を持つことや一定のITリテラシーを持つことが重要な時代となってきています。
現在74歳となったカーツワイルは、「1940年代生まれが最初に不老不死を手にする人類である」という自身の考えに基づき、不老長寿への挑戦を行っています。

今回はAI研究の世界的権威であり、未来学者のレイ・カーツワイルの生涯を振り返ってきました。コンピューターが誕生したころから研究を続け、IT技術を大きく発展させた人物でした。さらに、過去に予測した未来が、現在の時点で数多く的中しておりIT時代・AI時代の未来学者としても非常に影響を与えてきた人物でした。今後はAIが私たちの生活を大きく変えると予測されており、現時点からITへの興味関心を持って生活することがより重要となってきています。今後どのような発明が誕生し、どのような世の中になっていくのかとても楽しみですね。そして、カーツワイルの予測や不老不死への挑戦もどうなるのか非常に楽しみですね!

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