【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー オーニソプターを発明した ヤーコプ・デーゲン(翼を動かして空を飛ぶオーニソプターを発明したが実用化には失敗した発明家)
2025.03.17

AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。航空機やグライダーが発明される前、人力で空を飛べるオーニソプターという道具が生まれました。これは鳥や昆虫などが羽ばたきによって滞空・滑空をする動きを模倣したもので、翼を動かすことで人間も空を自在に飛べると考えられていました。実際には翼を動かして空を飛ぶのは簡単なことではなく、人間の力で羽ばたきによる飛行は不可能だったため、オーニソプターは実用化されませんでした。とはいえ、オーニソプターを作ろうとしたことによって空を飛ぶことへの可能性が広がり、気球やグライダーなどが生まれたことも事実です。オーニソプターを使って初めて飛行に成功したのが、オーストリアの発明家ヤーコプ・デーゲンです。彼はオーニソプターのほか、模型ヘリコプターや時計の歯車製造機、新型の風速計などの発明をしたことでも知られています。今回はそんなヤーコプ・デーゲンの生涯を振り返っていきましょう。
ヤーコプ・デーゲンの前半生(リボン織り職人をしながらオーニソプターを発明する)
ヤーコプ・デーゲンは1760年、スイス、バーゼル=ラント準州のリーダーツヴィルで生まれました。リボン織り職人として暮らしており、1778年からは時計作りにもチャレンジし、1792年には親方として、工房を開きました。
デーゲンは1766年、リーダーツヴィルを出てウィーンに住むことになります。本業のリボン織りのかたわら、発明者としての側面も持ち合わせていました。さまざまな機械の設計をしていたデーゲンは、人力で空を飛べる道具を発明しようと考えていました。まだ飛行機やヘリコプターのない時代、人間が空を飛ぶためにはどのような仕組みが必要なのか、手探りで見つけていくしかない段階でした。そこで当時の人々は、鳥や虫など羽根を使って飛行する生物の動きに注目しました。大きな翼があり、人間がその中央で自在に翼を動かせば飛べるのではないか…そのような考え方のもと、翼を操れる機械が発明されました。それが、1807年に設計されたオーニソプターという機械です。
オーニソプターを設計した翌年、デーゲンは小さな水素気球を取り付けることで、浮力を得られるようにしました。これによって、初めて操縦ができる飛行の実現を成し遂げたのです。1810年からの3年間、デーゲンはオーニソプターの気球を大型化するなどの改良を施し、何回か公開飛行を行いました。ウィーン近郊、ラクセンブルク離宮での飛行は時の皇帝フランツ1世の要請によって行ったもので、危うい場面があったものの何とか飛行できました。この成功は大々的に報じられ、民衆はオーニソプターの進歩に大きな期待を寄せました。しかしその後、シャン・ド・マルス公園での飛行実演は失敗に終わり、観覧に来ていた市民たちの落胆は大きなものでした。初期のオーニソプターには、両翼に3500個ずつ弁が取り付けられており、飛行に最適な空気抵抗を受けられる設計となっていました。しかしその恩恵を受けられたのは無風や微風のときのみであり、ひとたび強風が吹けば翼のコントロールが効かなくなってしまうという欠点がありました。
ヤーコプ・デーゲンの後半生(無人ヘリコプターや偽造紙幣を見分けるギヨシェを発明する)
ゲーデンが飛行に成功したという情報は、ヨーロッパの各地へと伝わりました。彼の成功を耳にした、航空機に関する発明の分野で有名なジョージ・ケイリーは、航空機の発明で先を越されたと思い、慌てて論文『空中航行について』を発表します。しかしこの時点でケイリーに伝えられた話は誤っており、デーゲンの飛行が気球を使っていることが正しく伝わっていませんでした。ドイツのアルブレヒト・ベルプリンガーは、ゲーデンの設計を模倣し、自作の飛行機を設計しました。1811年に行った飛行実験は失敗に終わりました。
1816年、デーゲンは時計作りで培ったノウハウをいかして、ゼンマイで動く模型ヘリコプターを製作しました。このヘリコプターは世界初の無人ヘリコプターとされることもあり、ウィーンのプラーター公園で行なわれた公開試験では160mの高度まで到達しました。彼の発明品は航空機のほかに、時計の歯車製造機や風速計などがあります。
1816年から、偽札の製造を防止するために積極的な取り組みを行いました。このときデーゲンのした発明が、のちに紙幣に独特の模様を刷り込むことで偽造紙幣の製造を見分けられるギヨシェという技術の発明につながりました。1825年から、オーストリア国立銀行の技術部門で責任者を務めました。1848年、ウィーンで亡くなりました。
オーニソプターが発明された1783年以降、航空機の発明に火がつきます。しかしその発展と、オーニソプターの開発はあまり関係ありませんでした。19世紀前半、ジョージ・ケイリーはグライダーを発明し、1903年にライト兄弟が有人飛行機を実現させると、オーニソプターの開発は徐々に勢いを失っていきます。
現在のオーニソプターは、小型の模型でゴム動力やバッテリーで駆動するものがほとんどです。中には、ラジコン操作で飛行場の鳥を追い払うために使われているものもあります。一方、エンジンを用いた人間を搭載可能なオーニソプターの研究もいくつか行なわれているものの、未だ実用化には至っていません。
今回はオーニソプターを設計したヤーコプ・デーゲンの生涯を振り返りました。最初に空を飛ぶための現実的な設計を実現し、人類に飛行の可能性を知らしめたのは偉大な功績です。オーニソプター自体は成功とはいえないものでしたが、航空機の発明を加速させたきっかけになったともいえます。現在でも有人飛行の可能性を追いかけ、発明が続けられているので、左右の翼を自在に操り空を飛べる日が来るのを楽しみにしたいですね。


