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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ガスマントルを発明した カール・ヴェルスバッハ(20オーストリア・シリング紙幣に肖像が使用された偉大な化学者)

IP HACK

2024.11.29

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ガスマントルは、炎にさらされたときに明るい白熱光を出すための器具で、1900年代初期の街灯の役目を果たしました。現在でも。持ち運び用のキャンプ用ランタンや加圧式の石油ランタン、一部のオイルランプとして使われています。ガスマントルが発明されるまで、人工の光は裸火を使っていました。風が吹くと消えてしまうため、暗闇に光を灯す方法が求められていたのです。そうした状況の中、ガスマントルが生まれたことは偉大な功績でした。ガスマントルを発明したのは、オーストリアの化学者カール・ヴェルスバッハです。彼は希土類元素のプラセオジム、ネオジムなどを発見したことでも知られています。今回はそんなカール・ヴェルスバッハの生涯を振り返っていきましょう。

カール・ヴェルスバッハの前半生(新しい元素であるラセオジムとネオジムを発見する)

カール・ヴェルスバッハは1858年、ウィーンで生まれました。ハンガリーの印刷技師アロイス・アウアーを父に持ち、植物についての知識を蓄えました。ヴェルスバッハは軍務についたのち、ウィーン大学で化学や物理、数学、熱力学などを学びました。1880年からはハイデルベルク大学にいき、ロベルト・ブンゼンに師事。その後再びウィーン大学に行き、無給で助手として希土類元素の研究を行いました。

1885年、ヴェルスバッハは希土類元素であるプラセオジム、ネオジムの分離に成功しました。目をつけたのは、それまでひとつの元素であると考えられていたジジミウムです。ジジミウム自体も、1841年にランタンから分離した元素であるため、これ以上分離することはないとされていました。ヴェルスバッハはその定説に疑問を抱き、自作した分離装置を使ってジジミウムを分離したのです。その結果、ジジミウムは2つの元素によって構成されていることがわかりました。それが、プラセオジムとネオジムです。新しい元素の発見は、工業的な加速を生み出すきっかけとなります。ヴェルスバッハは人類史に残る発見をして、後世に名前を残したのです。

カール・ヴェルスバッハの後半生(ガスマントルを発明する)

ジジミウムをプラセオジムとネオジムに分離した翌年、ヴェルスバッハはガスマントルを発明します。梨のような形をした袋で、繊維に染みこませたトリウムとセリウムの化学反応によって明るさを増やす道具です。

初め、ヴェルスバッハは酸化マグネシウムと酸化イットリウムと酸化ランタンを6:2:2の割合で組み合わせた化合物を使用していました。すると、この組み合わせでは緑の光を放ち、十分な明るさを確保できませんでした。1887年、ヴェルスバッハは最初の工場を立ち上げますが、ガスマントルの製造が立ち行かず、たった2年で閉鎖することになります。それでもヴェルスバッハは諦めず研究を続け、1890年にトリウムを使ってガスマントルを発光させました。すると、白く強い光を放つことができ、最終的に酸化トリウムと酸化セリウムを99:1の割合で混合した化合物でガスマントルを完成させました。

弱い火の光に頼っていた時代は終わり、街を明るく照らせる時代が到来したのです。ヴェルスバッハのガスマントルはすぐに脚光を浴び、ヨーロッパ中に広まりました。1900年代には電灯が発明され、ガスマントルはその立ち位置を奪われることになります。しかし、電灯が作られるまでの間、そして電灯が生み出されるきっかけになったガスマントルの発明は偉大というべきほかありません。

また1903年、ヴェルスバッハは発火石の特許を取得しました。これはセリウムを70%、鉄を30%配合した合金であるフェロセリウムという発火石です。セリウムの着火温度は150℃〜180℃と低く、その性質を利用して摩擦によって火を起こせるという発明でした。表面が粗い物質で擦るだけで火花が発生するので、ライターやガス器具などの発火装置として広く使われるようになりました。その後は学問の世界に戻り、化学や分光学の研究を行いました。

プラセオジムとネオジムの分離、ガスマントルの発明、フェロセリウムの発明という3つの功績を残したヴェルスバッハは、1900年にエリオット・クレッソン・メダルを、1921年ヴィルヘルム・エクスナー・メダルを受賞しました。さらに、彼の偉業を讃えて1956年から1966年まで発行された20オーストリア・シリング紙幣に肖像が使用されました。

今回は、化学の世界で大活躍を果たしたカール・ヴェルスバッハの生涯を振り返りました。ネイチャープリントを発明したアロイス・アウアーの息子として知られるヴェルスバッハ。彼自身の生涯もまた、化学の進歩に大きく貢献しました。彼が生み出したガスマントルやフェロセリウムは、現在も広く使われています。ライターやガス器具の発火装置など、便利な道具を発明したことに感謝したいですね。

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