【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ニトログリセリンを発明した アスカニオ・ソブレロ(アルフレッド・ノーベルによってダイナマイトとして実用化されたニトログリセリンを発明した天才化学者)
2024.09.17
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ニトログリセリンは、ダイナマイトをはじめとするさまざまな爆発物の原料として使われる物質です。わずかな振動でも爆発してしまうという危険性もありますが、狭心症の治療薬として医療現場でも活躍しています。また、ニトログリセリンと名前が似ているニトロセルロースは火をつけると激しく燃焼するという性質を持ちます。ニトログリセリンを発明したのは、イタリアの化学者アスカニオ・ソブレロです。彼はトリノ大学テオフィル=ジュール・ペルーズのもとで、ニトロセルロースについての研究を行いました。今回はそんなアスカニオ・ソブレロの生涯を振り返っていきましょう。
アスカニオ・ソブレロの前半生(化学の研究者として活躍して、ニトログリセリンを発明する)
アスカニオ・ソブレロは1812年、イタリアで医師の家系に生まれました。医師は上流階級の国民であり、ソブレロは質の高い教育を受けることができました。勉学だけでなく自然現象にも興味を持ち、ソブレロはその感性を育んでいったのです。そしてソブレロが大きく興味を示したのは、化学でした。叔父のカルロ・ラファエロはトリノ工廠で所長を営んでおり、彼の影響で化学を学び始めたのです。ソブレロはトリノ大学とパリ大学で医学を、その後ユストゥス・フォン・リービッヒにギーセン大学で化学を学びました。1832年に博士号を取得すると、1845年にトリノ大学の教授に就任し、研究の道を歩んでいきます。
1851年、ナポレオン3世がクーデターを起こします。この影響でペルーズは失職してしまいますが、1846年に設立した化学研究所の運営は続けました。この研究所では爆薬の研究を行い、ニトロセルロースを活用する方法を探していました。ソブレロも研究を手助けし、やがてニトログリセリンの発見へと至りました。
当初、ソブレロはニトログリセリンを「パイログリセリン」と呼んでいました。知り合いに宛てた個人的な手紙や発表した論文の中で、ニトログリセリンの扱いについて、非常に危険な物質で取扱いは不可能と厳重に警告していました。ニトログリセリンの存在を公表するまでは製造から1年以上の期間があり、ソブレロはその危険性に怯えているようだったといいます。完成したニトログリセリンを調べるために自身で舐めてみたところ、こめかみにずきずきするような痛みがあったと記録されています。のちにニトログリセリンには血管を拡張させる作用があり、このときの痛みはそれが原因だと考えられています。
アスカニオ・ソブレロの後半生(アルフレッド・ノーベルによってニトログリセリンがダイナマイトとして実用化される)
ニトログリセリンは爆発力が非常に高く、一滴を加熱しただけでもガラスのビーカーが割れて吹き飛ぶほどの威力がありました。この威力を目の当たりにしたソブレロは、あまりの危険性から爆薬として使うのは実用的でないと考えていました。しかし彼がニトログリセリンを発明した数年後、アルフレッド・ノーベルによってダイナマイトの原料に使用されました。
ニトログリセリンの原料となるグリセリンは、油脂の加水分解によって抽出できます。第一次世界大戦中には爆薬として大量の需要が生じたため、発酵による大量生産法が世界各国で捜索されました。その後も各国で研究が進み、中央同盟国側ではドイツのカール・ノイベルグらによって糖を酵母によってエタノール発酵させる際に亜硫酸ナトリウムを加えるとグリセリンが生じることが、連合国側ではアメリカで培養液をアルカリ性にすると同様にグリセリンが生じることが発見され、大量に生産されるようになりました。
ソブレロはその後も研究や教育を長年に渡り継続し、1851年に循環器用薬のソブレロールなどを開発しました。1848年に起きた暴動によってトリノを追われるということもありましたが、ノーベルがニトログリセリンを大量に製造したおかげで、老後の年金生活は豊かになりました。1888年、ソブレロはこの世を去りました。死後、彼の遺体はクーネオ県カヴァッレルマッジョーレの墓地に埋葬されました。
今回は、ニトログリセリンの発明者アスカニオ・ソブレロの生涯を振り返りました。ニトロセルロースの研究を行いながら、その後あらゆる場面で活用できる火薬を発見した功績は非常に大きなものです。ニトログリセリンは爆薬としてだけでなく、医療現場でも人の役に立っています。一見危険な物質でも、使い方や性質によっては人を助ける用途があるというのはとても面白いものですね。