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私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。服やカバンなどに欠かせないファスナーは、1901年にその原型ができあがりました。開発当初は現在のような形ではなく巾着に近い形をとっており、発明者のエリアス・ハウは大々的に売り出すつもりはありませんでした。それからおよそ50年の月日を経て、ファスナーは現在の形に改良されました。ファスナーを現在普及している形に改良した人物が、スウェーデン系アメリカ人で電気技師として活躍したギデオン・サンドバックです。裂けにくいファスナーによって物の持ち運びをより便利にしたことに加え、ファッション業界にも大きな影響をもたらしました。今回はそんな、ギデオン・サンドバックの生涯を振り返っていきましょう。

ギデオン・サンドバックの前半生（ユニバーサルファスナー社でデザイナーになる）

ギデオン・サンドバックは1880年、スウェーデンの スモーランド地方ヨンショーピング県 の ソナープ農場で生まれました。裕福な家庭で、十分な教育を受けて育ちました。スウェーデンである程度の教育を受けてからはドイツに移住し、ビンゲン・アム・ラインの工科学校へと進学。1903年に技術者試験を受け、1905年には渡米し移民として暮らし始めました。

アメリカに移住したサンドバックは、ペンシルバニア州ピッツバーグの電機メーカーで働き始めました。ここでの生活は長くは続かず、一年ほどで転職することに。1906年、今度はニュージャージー州ホーボーケンのユニバーサルファスナー社に雇われることになりました。入社から3年が経ち、サンドバックは工場長の娘と結婚。その後はデザイナー主任に昇格し、ユニバーサルファスナー社でのポジションを獲得しました。この会社はのちにTALON社と名前を変えることになり、さらなる発展を遂げていきます。サンドバックはそんなユニバーサルファスナー社の進化に、線ファスナー（ジッパー）の開発上の改善という形で貢献していきました。

ギデオン・サンドバックの後半生（ジッパーを発明して特許を取得する）

ファスナー改良の取り組みは、「ジャドソン C-キュリティ ファスナー」の改良から始まりました。サンドバックはプロジェクトの責任者として「プラコ」と呼ばれるC-キュリティの改良版を開発しましたが、引き裂けやすいという欠点があったために売上は芳しくありませんでした。

この失敗から学びを得たサンドバックは、それまでの主流だった「フック・アンド・アイ」から脱却した新たな仕組みを発明しました。それはエレメントの数を増やし、歯の数を左右対にするという方式です。これによってスライダーを上下させ開閉させるという機構を生み出し、現在における一般的なファスナーの形式が完成しました。この形式では、歯が半個ぶんずれた状態で固定されるため、以前のものよりも強固に編み込めるというメリットがありました。1917年には「分離できるファスナー」として、アメリカの特許として認められました。

アメリカでは、この機構に「ジッパー」という名称がつけられました。当初、ジッパーの用途はブーツやタバコ用のポーチなどに限定されていました。それから20年ほど経ち、ジッパーはファッションの世界で活用されていきます。第二次世界大戦のころには、ズボンやスカートのチャックにジッパーが広く用いられるようになりました。

サンドバックはまた、新しいファスナーの製造機械も製造しました。カナダ・オンタリオ州に会社を設立して社長に就任し、そのカナダの工場を頻繁に訪れました。しかしサンドバックはアメリカの市民権を維持するために、ペンシルベニア州ミードヴィルに住み続けました。1951年、サンドバックはスウェーデン王立アカデミーから、技術科学部門の金メダルを授与されました。それから3年後の1954年、サンドバックは心臓病で亡くなりました。2006年にはジッパーの開発の功労を讃えられ、米国発明者名誉殿堂に顕彰されています。

今回は、ファスナーを現在普及している形に改良したギデオン・サンドバックの生涯を振り返りました。長い歴史のあるファスナーですが、サンドバックの改良がなければ今の形にはならなかったかもしれません。より生活を便利にするための機構としても、ファッションをより洗練させるためのアイテムとしても、今やファスナーは欠かせない道具の一つです。生活の一部にあるささいな場所にも意外な歴史があることを知ると、またひとつ視点が広がったような気がしますね。