【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー タービンや遠心分離機や搾乳機の発明家 グスタフ・ド・ラバル(世界的に有名な熱交換器と遠心分離機のメーカーであるアルファ・ラバル社の創業者)
2024.05.13
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。タービンは、大きなエネルギーを生み出すために開発されました。水や蒸気、ガスなどの気体や液体は「流体」とも呼ばれ、外部からの働きかけで自由に形を変えられる性質を持っています。この性質を利用して、回転させることによって大きなエネルギーを生み出すための機構がタービンです。タービンは水車やガス、風力などの発電機や、自動車エンジンなどに使用され、多くのエネルギー開発現場で活躍しています。そんな数多くの種類があるタービンの中でも、蒸気タービンの概念を確立したことで知られるのがスウェーデンの技術者であるグスタフ・ド・ラバルです。ラバルは蒸気の運動エネルギーを使えるようにするドラバル・ノズル(ラバール・ノズル)を発明し、ロケット工学の発展に寄与しました。また、酪農業界にも大きな貢献をしたことでも知られています。今回はそんなグスタフ・ド・ラバルの生涯を振り返っていきましょう。
グスタフ・ド・ラバルの前半生(ドラバル・ノズルと小型の蒸気タービンを発明する)
グスタフ・ド・ラバルは、1845年、グーラナ地方のオーシャで生まれました。1863年に後のスウェーデン王立工科大学となるストックホルム王立技術院に入学し、1866年に機械工学の学士号を取得。1867年にはウプサラ大学に入学し、1872年に化学の博士課程を修了しました。
1882年、ラバルは衝動蒸気タービンの概念を確立。それまで蒸気タービンは大型の機械でしか実現なしえないと考えられていましたが、ラバルは小型の蒸気タービンも実現可能であると考えていました。この考えを立証するため、試作品を製作。1890年、ラバルは蒸気の噴流の速度を超音速にするノズルを開発します。このノズルはドラバル・ノズル(ラバール・ノズル)と呼ばれ、現代のロケットエンジンにも活用されています。大きな特徴として、ホイールが長くて柔らかい軸に設置していることが挙げられます。これにより、回転軸が振動しても軸受けが壊れないようになっています。小型のタービンはその耐久性が問題とされていましたが、ドラバル・ノズルの発明によって解決することになりました。現代でも同様の手法が使われています。この手法は再現性が高く、タービンの小型化の実現をより具体的にするアイデアとなりました。
しかし、当時の環境ではいつでもドラバル・ノズルが使用できるわけではありませんでした。入手できる材料が、膨大な遠心力に耐えきれなかったためです。タービンの出力は制限され、小型の蒸気タービンは一定以下の大きさの発電機にのみ使用されました。発電用の大きな蒸気タービンを動かす場合には、イギリスの技術者であるチャールズ・アルジャーノン・パーソンズが開発した複合型蒸気タービンが使われることとなりました。
グスタフ・ド・ラバルの後半生(乳とクリームを遠心分離させる機械や搾乳機を発明する)
グスタフ・ド・ラバルは、酪農の世界でも大きな業績を残しています。蒸気タービンが回転する機構に着想を得たラバルは、乳とクリームを遠心分離させる機械を発明しました。より簡単に牛乳からクリームを取り出せるようになったことは、さらなる食品製造の進化に繋がったのです。また初期の搾乳機の発明にも力を入れ、酪農を営む業者の強い味方となりました。ラバルは1894年、搾乳機の発明で特許を取得しています。
1886年、グスタフ・ド・ラバルはスウェーデン王立科学アカデミーの会員となりました。ドラバル・ノズルの発明によって科学の発展に大きく貢献したとして、彼の功績は正式に讃えられました。
1883年、ラバルはアルファ・ラバル社を設立して、本格的に遠心分離機や搾乳機の製造に動き出しました。しかし搾乳機の動作を安定させ、一般発売に至るまでには長い時間がかかりました。存命中に発売まで辿り着くことができず、ラバルは1913年にその生涯を終えました。彼の死から5年の月日を経て、ラバル社は搾乳機の発売に漕ぎ着けました。
今回は、蒸気タービンの小型化を実現させるためのノズルであるドラバル・ノズルの発明者、グスタフ・ド・ラバルの生涯を振り返りました。ドラバル・ノズルはロケットエンジンのタービンにも活用されており、現代においても工学の重要な役割を担っています。また彼は酪農の世界でも、決して小さくない貢献を果たしました。ラバルが生きているうちに搾乳機の発売を実現できなかったことは悔やまれるでしょうが、彼の思いはその後も受け継がれています。エネルギーの世界と酪農、ふたつの業界で多大な功績を残したラバルの偉業は讃えられて然るべきでしょう。