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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ハンググライダーの発明家 アルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガー(国王の前で飛行実験に失敗して面目を失ったまま亡くなった可哀想な発明家)

2024.03.15

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ハンググライダーは、身体ひとつで空中を飛び回れる爽快感から人気のあるアクティビティの一種です。まるで鳥になったように自然の上を滑空できる非日常は、なかなか味わうことのできない体験です。そんなハンググライダーを発明したのが、ドイツで仕立て屋を営んでいたアルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーです。「ウルムの仕立て屋」と称されるベルブリンガーは、機械的な発明にも大きな才能を示しました。飛行者としても後世に名を残しているベルブリンガーの生涯を振り返っていきましょう。

アルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーの前半生(孤児として育つが苦労してハンググライダーを発明する)

アルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーは、1770年にウルムで生まれた人物です。彼の実家は貧しく、13歳のときに父親を亡くしたことで困難な人生を歩むことになります。父親の死後、ベルブリンガーは孤児院に入れられました。孤児院では本人の意に反して仕立て屋の修行を積まされ、21歳のときに親方となりました。しかし彼の興味は機械の発明に向いていました。その思いを捨てられず、仕立て屋を営みながら発明家としての活動も行っていました。ベルブリンガーは義足に改良を加え、切断された部分に装着する「からくり義足」という発明を残しました。この義足には関節部分があり、足の曲げ伸ばしを可能にしたことで大きな注目を浴びました。現在使われている義足も、「からくり義足」のコンセプトが基になったと言われています。

ベルブリンガーは1808年、現在でいうハンググライダーを発明しました。これはオーストリアの発明家であるヤーコプ・デーゲンが発明した羽ばたき機を参考に作られたものです。オリジナルの羽ばたき機は脚力を利用して滑空する仕組みのものでしたが、ベルブリンガーの発明にはこの機構が欠落していました。脚力ではなく腕力で滑空することを想定したもので、鳥のように羽ばたくことはできないものの、滑空すること自体は可能でした。長い年月をかけてこの機構を完成させるために、ベルブリンガーはフクロウの飛行動作をつぶさに観察しました。貧しい暮らしを送っていたベルブリンガーの周囲には、心無い人間たちが集まり彼を追い詰めました。組合から追放され、関係のないベルブリンガーの仕事に対して高額な罰金を支払わされても、ベルブリンガーはすべての年収を担保に入れて飛行機械の制作を続けました。

アルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーの後半生(国王の前で飛行実験に失敗して面目を失う)

ベルブリンガーの評判とは裏腹に、その発明は宮廷にまで話が及びました。時の国王であるヴュルテンベルク王フリードリヒ1世はベルブリンガーの発明に興味を示し、彼に対して資金提供をしました。やがて国王は家族を連れて、ベルブリンガーに会うためにウルムを訪れました。ベルブリンガーは自分の発明で空を飛べることを証明する、大きな機会を得たのです。しかし初飛行は機械の調子が悪く、失敗に終わります。国王はこの時点で帰ってしまいましたが。弟のハインリヒ公や王子たちはウルムの残り、飛行を見守っていました。翌日に再び飛行を心みるも、その日はよい上昇気流を得られなかったことや観客の嘲笑によって動揺してしまったことで、結局飛行は成功しませんでした。残されている記録によれば、飛行前の数分間、ベルブリンガーは足場の上に立って風に乗れそうな上昇気流を待っていましたが、痺れを切らして衛兵に突き飛ばされ、ドナウ川に転落してしまったとされています。

この失敗により、ベルブリンガーは社会的な立場を失いました。職業にも影響がおよび、生活はますます苦しくなっていきました。泥沼のような暮らしの中で肺の病気を患い、58歳のときに病人の収容施設で息を引き取りました。

ベルブリンガーの死後、その功績が認められたのは1986年のことでした。この年に開催された鳥人間コンテストでは、ベルブリンガーが行った飛行実験と同様の環境でドナウ川を横断できるのか、というチャレンジが行われました。河川の上には下降気流が吹くため、滑空は至難の業でした。しかし、状況を変えればベルブリンガーの機械でも十分に飛行できることが実証され、ベルブリンガーの評価は見直されました。その後、彼の人生を題材にした小説や映画も製作され、飛行のパイオニアとしての地位を確立しました。

今回は、ハンググライダーの基となる飛行機械を発明したアルプレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーの生涯を振り返りました。生まれたときから貧困にあえぎ、才能を認められないまま才気ある人物がこの世を去ったことは非常に残念です。ハンググライダーの人気は現在非常に高まっていますが、こうした歴史を知っておくとまた違った感慨を得られるかもしれません。

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