【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ドライゼ銃の発明家 ヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼ(手動で弾倉の装着・排出を行えるボルトアクション式のドライゼ銃を発明した天才発明家)
2024.02.19
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。人類はこれまで、幾度となく争いを繰り返してきました。その歴史は、いつも銃火器とともにありました。銃を発明したことで戦いはより戦略的になり、簡単に人を殺めることのできる兵器は軍需において必要不可欠なものとなったのです。手動で弾倉の装着・排出を行えるボルトアクション式小銃の起源となったのは、1841年にプロイセンで発明された「ドライゼ銃」です。これを発明したのが、現地の発明家だったヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼです。ドライゼ銃は発明当初、あまりにも先鋭的すぎるシステムから当初はあまり注目されませんでしたが、1860年代ごろから国土拡張に動き出したプロイセンの軍事活動の中心となりました。この銃を活用したことでプロイセンは多くの戦争で勝利を収め、全世界で注目されるようになったのです。今回はそんな、ヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼの生涯を振り返っていきましょう。
ヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼの前半生(前装式ニードルガンを発明する)
ヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼは、1787年にマインツ選帝侯領のゼンマーダーで錠前師の息子として誕生しました。幼少期はそこで過ごし、1809年からはパリでライフルの工房に弟子入りします。1814年まで兵器製造の修行を積むとゼンマーダーに戻り、1824年にパーカッションキャップの製造会社を立ち上げました。
ドライゼが最初に発明したのは、雷管式の針打ち銃でした。このころ、前線に立つ兵士たちが持つ銃火器はフリントロック式から雷管式に移行していました。この機構自体は16世紀にすでに発明されていたものの、着火時の衝撃の大きさから経験の深い射手にしか扱えない代物として扱われていたのです。
ドライゼはこの問題を解決すべく、衝撃を押さえつつ着火までのタイムラグを無くした銃を発明しました。ライフルの銃身と組み合わせることで、経験の浅い兵士でも扱うことができ、まさに軍事の革命ともいえるような発明でした。さらに雨風に強く、保管も簡単であることから人気を呼び、プロイセンの全軍に急速に普及していきました。
機能もさることながら、外観の設計もドライゼの職人としてのセンスがうかがえます。当初の銃にはサイドハンマー式の撃発機構が取り付けられており、銃身の中心軸に大角度からの打撃を加えることで軸線が安定しないというデメリットが認識されていました。さらに、ニップルと呼ばれる枝状のパイプに小さな雷管を被せる作業の難しさや撃発時に雷管が破裂するなど、さまざまな問題点も浮かび上がってきていたのです。こうした問題点を解決すべく、ドライゼは前装式ニードルガンを試作しました。
この銃の構造は、銃身の中心軸線上で前後に動作する長い針をコイルスプリングによって前進させ、弾丸底部の中央に取り付けられた雷管を突いて着火させるというものです。銃身中心軸線への振動は最小限に抑えられ、雷管は弾丸と一緒に装填できる上に、撃発のプロセスは密閉された銃身内で完結するため、射手のリスクを抑えることができたのです。
ヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼの後半生(手動で弾倉の装着・排出を行えるボルトアクション式のドライゼ銃を発明する)
このアイデアを成功させたドライゼは、さらに弾丸・雷管・黒色火薬を一体型させた紙製薬莢を試作しました。また銃口からではなく銃尾から装填し、嵌合式のボルトで閉鎖するアイデアと、長い針による撃発機構をボルトに内蔵させるアイデアを追加。後に「ボルトアクション」と呼ばれ広く普及した閉鎖・撃発機構の実用化に成功しました。
ドライゼ銃は第二次シュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争や普墺戦争、普仏戦争で主にプロイセン軍によって使用されました。しかし1866年にフランスで発明されたシャスポー銃の性能の方が高く、ドライゼ銃の市場価値は薄れていきました。さらに他国でもボルトアクションの研究が進み、各国では独自の機能を追加した銃が次々に発明されていきました。とはいえ、この流れを生み出したのは間違いなくドライゼ自身の功績です。
ドライゼはこの功績を讃えられ、1864年に爵位を取得しました。
今回はボルトアクション式小銃の祖先である「ドライゼ銃」を発明したヨハン・ニコラウス・フォン・ドライゼの生涯を振り返りました。銃火器も改良の歴史をたどってきましたが、その発展のきっかけを作った人物の功績は非常に偉大なものだと思います。職人としての技術をフルに使って発明を行ったドライゼのセンスには感服です。軍事的な歴史をたどってみるのも、新たな発見があって面白いですね。