【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ロータリーエンジンの発明家 フェリクス・ヴァンケル(日本の自動車メーカーであるマツダが実用化したロータリーエンジンを生み出した天才発明家)
2023.12.25
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。自動車に使われるエンジンには、様々な種類があります。中でもロータリーエンジンは、エネルギーの出力が高く低振動・低騒音という特徴を持っていたため世界の自動車産業に大きな変革をもたらしました。現在でもマツダ製の「コスモ」や「ファミリア」「RX-7シリーズ」、ドイツの「メルセデス・ベンツ」や「アウディ」などの自動車に搭載されています。このロータリーエンジンの発明を行ったのが、ドイツの発明家であるフェリクス・ヴァンケルです。軍人出身のヴァンケルは、第二次世界大戦終戦後にエンジンの発明に取り組みました。今回はこのフェリクス・ヴァンケルの生涯を振り返っていきましょう。
フェリクス・ヴァンケルの前半生(軍隊で学んだロータリー弁を応用してロータリーエンジンの開発を始める)
フェリクス・ヴァンケルは、1902年にドイツ(バーデン大公国)のラールで生まれました。青年期には第一次世界大戦、そして中年期には第二次世界大戦という2つの戦争を経験する時代を生き抜いた人物です。ドイツ全土が戦争に向けてあらゆる施策を行っているなか、ヴァンケルも例に漏れず軍に入隊することになります。第二次世界大戦中には、ドイツ空軍の航空機と海軍の魚雷を発明する役割をになっており、ロータリー弁のシールによってその機構を実現していました。
第二次世界大戦が終結すると、軍の中枢にいたヴァンケルは連合軍によって投獄され、彼の持っていた研究所も閉鎖されてしまいます。研究の成果も連合軍によって差し押さえられ、再度研究を行うことは許可されませんでした。やがて時が経つと自由の身となり、再び研究に没頭し始めます。従軍中に行っていたロータリー弁の開発経験を活かして、1951年には西ドイツのオートバイ・自動車メーカーであるNSUに入社してエンジンの開発を進めました。
ヴァンケル以前にも、ロータリーエンジンの開発は進められていました。多くの研究者たちが発明に取り掛かるものの、実用化は困難という状態だったのです。そうした状況のなか、西ドイツのNSU社とWankel社が手を組み、共同開発によって実用化に至ったのがこのヴァンケルエンジンです。これまではピストン運動によってエネルギーを得る「レシプロエンジン」が主流でしたが、回転機構によってエネルギーを動力に変換するロータリーエンジンの登場は自動車産業に旋風を巻き起こしました。最初の試作機が完成したのは1957年のこと。これを機に、自動車業界は次々と変化を起こしていくことになります。
フェリクス・ヴァンケルの後半生(日本の自動車メーカーであるマツダによってロータリーエンジンが実用化される)
ヴァンケルエンジンは、アメリカ・ニュージャージー州の航空機メーカーとして活躍していたカーチス・ライトにライセンスが与えられました。しかし試作段階のヴァンケルエンジンは不完全であり、実用化するためには様々な問題点をクリアしなければなりませんでした。その後、日本の自動車メーカーであるマツダがNSUからヴァンケルエンジンの技術ライセンスを取得、研究の末にヴァンケルエンジンの問題点を解消し、ロータリーエンジンは実用化に至ったのです。マツダの他にもNSUやダイムラー・ベンツ、フォードなどの自動車メーカーが特許を取得していきましたが、実用化に関する技術はほぼマツダの専売特許となっており、周辺特許を避けられない状況が続いていたともされています。
しかしその後、全世界の経済を混乱に陥れたオイルショックが発生すると、原油価格の高騰を理由にNSUと提携した各社が事業から次々に撤退する事態となります。NSU自体もロータリーエンジンを用いた自動車の開発からは手を引きました。そんななか、マツダだけは市場に残りました。影響は厳しく、ロータリーエンジンを採用する車種は限られたものとなりコスモの生産が終了した1996年以降はRX-7が唯一のロータリーエンジン搭載者となりました。
乗用車の生産が厳しくなった一方で、モータースポーツの世界ではロータリーエンジンが華々しい活躍を見せました。部品の少なさから組み付け・調整に時間がかからないことやオーバーホールの時間を短縮できること、低いコストで高い性能を得られることがその理由です。ロータリーエンジンは1970年代以降のモータースポーツを支える大きな要素となったのです。
ヴァンケルは後年、工学博士号を授与されました。晩年は動物愛護活動を行っていたことでも知られています。彼の偉大な人生は、86歳で幕を閉じました。
今回は、ロータリーエンジンを発明したフェリクス・ヴァンケルの生涯を振り返りました。ドイツ軍で仕事をしていたときは人を傷つける兵器を発明していたものの、終戦後にはその経験を活かして、現代でも利用される大きな発明を残しました。ロータリーエンジンの登場によって自動車産業の盛況に火がついたことは間違いないでしょう。私たちの生活に欠かせない自動車、その内部にある歴史をたどってみると意外な発見に出会えるかもしれませんね。