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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 自転車のペダルとクランクの発明家 ピエール・ラルマン(乳母車製造業者をしながら自転車のペダルとクランクを発明するが、アメリカでの自転車事業には失敗した可哀想な発明家)

2023.11.06

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。自転車の起源として知られるのは、前輪が後輪よりもかなり大きい「ペニー・ファージング」です。この自転車の発明家はジェームズ・スターレーという起業家ですが、自転車の発明者には様々な説が唱えられています。フランスの事業家、ピエール・ラルマンです。彼は乳母車の製造をする会社に勤めており、自転車の前身とされるダンディー・ホースを見て着想を得ました。ペダルを取り付け、運転する人の意思でスピードを調整できるようにしたことで、現在の「自転車」という乗り物が出来上がりました。今回はそんな、ピエール・ラルマンの生涯を振り返っていきましょう。

ピエール・ラルマンの前半生(乳母車製造業者をしながら自転車のペダルとクランクを発明する)

ピエール・ラルマンは、1843年生まれの人物です。ナンシーの近く、ポンタ=ムッソンという都市で生まれました。19歳の頃、地元の乳母車製造業者に勤めていたラルマンは、ダンディー・ホースという乗り物をよく見かけるようになりました。ドライジーネとも呼ばれるこの乗り物は、大きさが同じ前輪と後輪で構成され、ふたつの車輪で動くものでした。ハンドルで方向転換はできましたが、ペダルなどの駆動装置がなかったため、足で蹴って移動する仕組みでした。多くの人々がドライジーネを乗り回し、足で地面を蹴って進む様子を見て、ラルマンはもっと簡単に移動できる方法はないかと考えました。そこで、ドライジーネにペダルを取り付け、ロータリー式のクランク機構も取り入れることで、今の自転車の形を作り上げました。

1863年、ラルマンはパリに移りました。同じ頃、ピエール・ミショーとオリヴィエ兄弟が協業で立ち上げた会社が成功し、世の中ではベロシペードの人気が爆発していました。ラルマンの発明もこのブームに乗れると感じ取ったオリヴィエ兄弟はラルマンと接触し、2輪のベロシペードを大量に生産しました。ベロシペードの設計は諸説あり、ラルマンによるものなのか、それともエルネスト・ミショーによるものなのかは明らかになっていません。一部の書籍では、ラルマンがごくわずかな期間ですがミショーに雇われていた、としているものもあります。

ピエール・ラルマンの後半生(アメリカで自転車事業に取り組むが失敗する)

自転車生産での成功後、ラルマンはパリを離れてアメリカへと訪れました。コネチカット州アンソニアで暮らし、自転車の改良に取り組みました。ここではニューヘイブンのジェームズ・キャロルが出資をしてくれたため、金銭的な面での不自由はありませんでした。1866年、ペダル式自転車に関する特許を取得し、アメリカでの初の事例を作りました。特許は認可されたものの、ロンドンのデニス・ジョンソンが設計した機械と形が酷似していました。ペダルとクランクの取り付けとサドルの改良のみが異なる点でしたが、それでも特許を取得するには十分な特長でした。

しかしこの自転車は、アメリカでの地位を確立することができませんでした。製造業者たちは自転車に興味を示さず、生産体制を作ることができないまま、パリへと帰還することになります。1868年に帰国すると、ミショーが発明した自転車が空前のブームを巻き起こしており、この自転車は瞬く間にヨーロッパ、アメリカへと伝わっていきました。自分のいない間に国内でのブームが起き、さらにはアメリカでも人気が出たことで、ラルマンはショックを受けました。1880年代のうちにラルマンは再びアメリカに渡りましたが、その後の記録として目立った功績はありません。

ラルマンの功績は、長い間歴史の影に隠れてきました。しかし1993年、ボストンで開催された国際サイクリング歴史カンファレンスで、著述家・歴史家のデイビッド・ハーリヒーが自転車の歴史を作り上げた人物として認められるべきだという証拠を提出しました。これによってラルマンは評価が見直され、自転車の発明家のひとりとして名を残すことになります。2005年には現代自転車の父として、「米国自転車殿堂入り」を果たしました。

今回は、ドライジーネにペダルとクランクを取り付け、現代自転車の起源を作り上げたピエール・ラルマンの生涯を振り返りました。自転車の発明家は多くの人が挙げられており、ラルマンもその中のひとりです。アメリカでの失敗は残念でしたが、死後評価される発明を残したのは名誉だったと言えるでしょう。目立たない歴史の裏にある出来事を知るのも面白いですね。

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