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【SKIPの知財教室(IP Hack)】折る刃式カッターナイフの発明家 岡田良男(オルファ創業者)

2022.04.22

SKIP

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらは全て先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。数ある文房具の中で、誰もが一度は利用したことがあるのがカッターナイフではないでしょうか。通常の紙や画用紙などをとてもスムーズにカットできる製品として幅広く利用されています。そして、カッターナイフの優れた点として、「切れ味が落ちたら刃を折って新品の刃に交換できること」が挙げられます。この刃を折って長期間利用できる仕組みを考えたのが日本の発明家、岡田良男でした。かつて彼が印刷会社で働いていたころ、すぐに切れ味が悪くなり、使用できなくなるカッターナイフに不満を抱いていました。そこで考えぬいて発明したのが、刃を折ることで新品に交換して再び利用できるようになるカッターナイフでした。現在ではこの形式が一般的となり、世界的に利用されるまで広がりました。そこで今回は、現在の折る刃式カッターナイフを発明した、岡田良男の生涯を振り返っていきましょう。

岡田良男の生涯(折る刃式カッターナイフの開発まで)
今では一般的となった「折る刃式カッターナイフ」ですが、これは日本人の岡田良男が発明したものでした。それまでのカッターナイフといえば、刃が使い物にならなくなると同時に使えなくなっていました。しかし折る刃式カッターナイフが登場したことにより、カッターナイフの寿命が延び、世界的に大ヒットしました。ここではそんな折る刃式カッターナイフを発明した岡田良男の生涯を振り返っていきましょう。
岡田良男は昭和6年(1931年)の4月に、大阪市内に誕生しました。岡田家は紙の裁断を家業としており、良男は岡田家4男1女の長男でした。良男は幼いころから工作に興味を示し、ナイフやハサミを器用に使いこなして工作を楽しんでいたようです。
良男が10歳のころ、空襲により自宅と工場の両方を失ってしまいました。それによって岡田一家は南紀の白浜(和歌山県西牟婁郡)へ疎開しました。また、この頃家計がとても大変だったことから、良男は旧制中学(かつての日本において男子に対して中等教育を行っていた教育機関)の中退を決めました。同時に、小さな印刷所に就職し家計を支える立場になりました。
印刷所では、幼いころから興味があったこともありナイフやカミソリで紙を裁断していました。しかし、良男は現場であることを感じ始めました。それは良男や職人が使用するカッターナイフがすぐにボロボロになり役に立たなくなることです。何枚も重ねた紙を裁断し続けるとすぐに使い物にならなくなるこの現状に対して、良男は「経済的で長持ちするカッターナイフを何とか作れないか」と考えるようになりました。
ちょうどその頃、別の印刷会社で働いていた三男からも「国産の刃物はすぐに寿命が来て使えなくなる。刃物の交換に手間がかかりすぎている。」ということを言われたそうです。この悩みもきっかけとなり、良男はかつて強く抱いていたモノづくりへの感情が沸々と再燃してきました。もちろん良男が完成させたかったモノは「長期間使用できるカッターナイフ」でした。
それから良男は刃物を長持ちさせる方法について常に考えていました。当時路上にいた靴の修理人たちは、修理にガラスを用いていたそうです。そして使用しているガラスの切れ味が悪くなると、ガラスを割って再び使用していました。良男は割って切れ味を復活させる仕組みを有効活用できないかと考えました。そして、終戦後に米軍たちが日本に持ち込んだ板チョコレートを思い出しました。彼らは、格子状に溝が入っており折りやすくなった板チョコを、パキパキと折り子供たちに配っていたのです。それを知っていた良男はこの2つを組み合わせれば、便利でより長持ちするカッターナイフが作れるのではないかと確信しました。
「切れなくなった刃を折って新しい刃に交換できれば長持ちする」と考えた良男は毎日試行品を作り続けました。しかし、刃が折れやすいように溝を入れた場合、刃の強度が落ちてしまうという問題が発生しました。そこで従来のカッターナイフの形状から変化させ、スライド式を採用することを思いつきました。スライド式にすることで刃の先端のみがナイフホルダーから出ることになり、ネックだった刃の強度を保つことに成功しました。さらにその後も研究を重ね、刃の強度と切れ味を維持できる溝の角度や深さを発見することに成功しました。
昭和31年(1956年)、ついに良男は世界で初となる「折る刃式カッターナイフ」の開発に成功しました。この折る刃式カッターナイフを広めるべく、良男はデザイン会社や印刷会社などを何件も周り営業を行いました。しかし、斬新なアイデアゆえになかなかこの発明を受け入れてもらえませんでした。
そして良男は折る刃式カッターナイフを世に広めるために、昭和34年(1959年)に実用新案を出願することに決めました。これを機に良男は私財を投げ出して商品化に踏み切りました。その後小さな工場に折る刃式カッターナイフを3000本発注しました。販売当初はなかなか結果に繋がらなかったようです。しかし、印刷業界からとても便利で使いやすいという噂が立ったことから評判になり、無事完売しました。

岡田良男の生涯(折る刃式カッターナイフの世界的な普及)
その後は折る刃式カッターナイフを自分で製造していくことを決め、昭和37年(1962年)に特許を取得しました。折る刃式カッターナイフで成功を収めた良男は、昭和42年(1967年)兄弟4人で岡田工業を設立しました。その後彼らは世界進出を見据え岡田工業から「オルファ」(折る刃からくる)と改名しました。
パッと思いつく折る刃式カッターナイフの色は黄色ではないでしょうか。これは、カッターナイフの危険性を伝えるためと、道具箱の中でも目立つような意味を込めて彼らが黄色に統一したからです。
日本の経済が著しく発展した高度経済成長期の1960~1970年代にはカッターナイフの需要も大きく増加しました。それに伴い、一般の店頭でも取り扱われるようになったのがこの頃でした。
1968年(昭和43年)には日本国外として初のカナダに進出を果たします。その後は日本のみならず世界中でのシェア拡大に成功していきました。そしてカッターナイフを次々と開発していきました。現在では日本国内でのシェアはなんと60%、海外では100か国を超える国で販売されています。そして世界的にもオルファのカッターナイフが評価され、替刃の寸法や折れ線の角度は世界規格となりました。開発から60年以上たった現在でも世界中で多くの方から利用されています。

今回は折る刃式カッターナイフを発明した日本の発明家、岡田良男の生涯を振り返ってきましたが、いかがだったでしょうか。今ではカッターナイフといえば折る刃式カッターナイフしか思い浮かばないのではないでしょうか。世界中でこれほどまでに評価され多くの方に利用されるまでになったのは、岡田良男のひらめきと並々ならぬ努力があったからです。なんとガラスを使用していた靴修理の人と板チョコが参考になっていたとは驚きでしたね。折る刃式カッターナイフのように当たり前になりすぎている製品であっても、発明家たちの努力があったことを知ることが出来ました。カッターナイフ以外にも思わぬことを参考にして考案され、生まれた製品があるかもしれませんね。そして今後、思わぬところから歴史的な発明が生まれる可能性があります。これからの画期的な発明に期待しましょう!

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